退職理由の隠された真実。「5つの本心」とは 〜スタートアップ編〜

スタートアップなどの企業では、プロダクトを磨くことや売上を増やすことに注力するあまり、チームメンバーのモチベーションや健康管理が難しくなり、退職者を出してしまうことがあります。
 
少数精鋭で戦うスタートアップにとって、予期しない従業員の退職は場合によっては事業の維持を困難にさせる可能性すらあります。
 
今回は、スタートアップにおいてメンバーが退職する本当の理由がどこにあるのか、特定社会保険労務士の有馬美帆さんにお話を伺いました。
 

従業員は退職時に<本当の理由>をやはり言わないものでしょうか?

有馬先生
【回答】
「言わない」と考えておくべきです。スタートアップ経営者の方は、真っ直ぐな性格の方が多いので、従業員の退職理由を完全に信じ切っています。ですがそれは従業員側が穏便に辞めるために予め準備した「理由」です。

一定以上に理性的な従業員であれば、退職時に揉めて得をすることが無いことを知っているので、なるべく穏便に辞めるためにネガティブなことは言わないのが一般的です。

それでは、退職の<本当の理由>をどのように考えれば良いのでしょうか?

有馬先生
【回答】
経営者の方はもちろん、従業員から聞こえてくる退職時の意見は以下の「5つの本心」が多いと感じます。
  1. 採用時の説明とのギャップ
  2. 業務の不満
  3. 人間関係の不満
  4. 給与の不満
  5. 休暇の不満

スタートアップの場合は、企業が成長し、従業員数が増えてきて、だいたい30人あたりに差し掛かると一定の退職者が出てくる事が多いので注意する必要があります。
 
退職の理由は上記の通り、採用時+仕事+人間関係+給与+休暇(プライベートの時間)への不満が、複合的に絡み合い、蓄積し、何かしらの引き金が惹かれた時に退職につながるケースが多いです。
 
不満は「溜まる」ものです。ちょっとした不満も、それ単体で考えて軽く受け取るべきではありません。必ず何か他の不満と結びつき、より大きな不満へと姿を変えていく危険性があります。
 
従業員が辞める時の「直接のきっかけ(=引き金)」に注目しすぎると、本当の原因を見誤る可能性も否定できず、気づかないままで労働力を喪失し続けるといっても過言ではありません。

「採用時の説明とのギャップ」の詳細を教えてください。

有馬先生

【回答】スタートアップは、採用時に自社を良く見せよう、大きく見せようと、ポジティブな面のみをクローズアップした情報を過多に与える傾向があるように思います。
 
そのため、「採用時に聞いていたものと、仕事・給与・社内のイメージが違う」ということが出てきてしまいがちなのです。
 
ポジティブな面を強調することは、有能な人材をヘッドハンティングする際につかわれる、自社アピールの際のテクニックとして考えられるものではありますが、採用活動においては、後々のトラブル回避のためにも、偽りがないように十分留意する必要があるということでしょう。

「業務の不満」の詳細を教えてください。

有馬先生
【回答】
会社の成長に伴い、事業内容の変更や組織の拡大や退職者に伴う業務変更により出てくる不満です。

主な業務への不満

  • 本当に自分がやりたかったのはこんな事でない
  • やりがいを感じられない
  • キャリアアップに繋がっている気がしない
  • 他の事業がやりたくなる
  • 会社の経営・継続性に対して不安を持つ

「人間関係の不満」の詳細を教えてください。

有馬先生
【回答】
プロダクトマーケットフィットを探っているような時期は、チームの規模も小さくリファラル採用が多いでしょう。リファラル採用は、価値観の近い従業員を得やすいため、あまりこの問題は表出しません。

マーケットが固まってきて、チームの規模を拡大するフェーズに入るとリファラル採用だけでは間に合わず、人材紹介や一般採用も始まることと思います。そうするとどうしても今までの価値観と違う従業員が出てきます。これは決して悪いことではなく、チームを強くするために必要なことですが、反面どうしてもこれまでと異なる種類の人間関係の問題が出てくることも十分予想できるため、ある程度の対応策も検討しておく必要があるかと思います

「給与の不満」の詳細を教えてください。

有馬先生
【回答】
入社当時は少ない給与を許容した従業員も、以下のような事象をきっかけに、給与に対して不満を持つことがあります。
  • 正当な評価をされない時
  • 会社の売上が伸びてくる時
  • 中途で入社した従業員との格差を知った時
  • 結婚や子どもが出来る等のライフスタイルが変化した時
  • 会社が資金調達した時

「休暇の不満」の詳細を教えてください。

有馬先生
【回答】
スタートアップで働く場合、仕事と生活のバランス(いわゆる「ワークライフバランス」)は、仕事の比重が大きくなる傾向があります。入社当時従業員本人が選択したバランスではあるものの、時間が経過するに従い徐々に不満が蓄積していく可能性があることを理解しましょう。

いわゆる「休日」だけでなく「平日のプライベート時間の確保」という視点で、従業員のワークライフバランスを考える必要があります。立ち上げ期から数年経つとメンバーの疲労も困憊してきます。長時間労働で、平日の夜も土日も、家にいてもスマホ等でメッセージが飛び交い続けると、スタートアップだから仕方ないと分かっていながらも、徐々に疲労が溜まり、不満となって出てきます。場合によってはメンタルヘルスを害する従業員も出てくる危険性があることにも留意する必要が出てきます。

退職者を増やさないための、今日からでもできる対処法を教えてください。

有馬先生
【回答】
スタートアップは、面談を取る時間もなく、配置転換するほど役割も多くなく、十分なプライベート時間を確保できない状況にあることは予測できます。また、高い給料が出せないことも理解できます。ただ経営者がどれだけ意識するかで変わってくる部分もあります。

 
退職者を増やさないために、以下に挙げた点を常に意識し、心掛けていただくことをご提案させていただきたいと思います。
 

採用時には、現状を大きく伝えるのではなく、叶えたい夢と、現状の事実と課題点を素直に伝えましょう。

業務の不満を軽減するために、定期的な経営方針の発表を行い、少しでも良いので面談時間を確保しましょう。

人間関係の不満には、スタートアップで各々が裁量を持っているからこそ行動のズレが生まれやすいため判断基準となる経営理念と行動指針、そして採用でのミスマッチを減らせるよう企業文化を明文化しておきましょう。

「当社の従業員はモチベーション高いやつばかり。」「上場後にストックオプションで報いるからいい」などと安易に考えるのをやめましょう。

No2や共同創業者などと共に、複数人で従業員の日々の表情を観察し、シグナルが出ていないか気にかけ、声を掛け、相談を受け付けましょう。例え社長には言えなくても、あの人には言えるという情報チャネルを持つことは重要です。

不満は「溜まる」もので「連鎖する」ものだと理解する。最後の引き金となるのは、今回紹介した5つだけではないかもしれない。でも引き金を引かせたのは、この5つが爆発寸前まで溜まっていたからという可能性があります。

まとめ

有馬先生
退職者を完全にゼロにすることは非常に難しいため、ある程度の割り切りは必要です。でも「退職したい」と言われてしまうと、やはり一番リソースを取られるのは経営者です。
引き止めや、退職が決定した際の業務引き継ぎなど、慌ただしいタスクが発生します。昔から企業は「人」「もの」「金」と言われます。「人」について今以上に気を配ることで事業の成功確率も高まります。ひとつひとつご確認いただき、退職者を増やさないための対策として、組み入れていただければと思います

 

Profile

有馬美帆
有馬美帆
社労士シグナル代表/特定社会保険労務士

【業務紹介】
問題が起こるよりも前に先回りした提案 、各フェーズにおける適切な支援をテーマとして、 企業の成長スピードを加速させるためのパートナーを目指しています。

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