「法制度の枠組みを最大限に利用しつつ、会社独自の社内制度を」 〜社労士の横顔:吉仲千鶴 さん〜

執筆: 『人事労務の基礎知識』編集部 |

特定社会保険労務士 吉仲千鶴さん

全国各地の社会保険労務士に、その人となりを聞くインタビュー。今回は、東京都世田谷区の特定社会保険労務士・吉仲千鶴(よしなか・ちづる)さんにお話を伺います。

 

「社会保険のことなら上村先生(仮名)に聞いて!」

ー 社労士になるまでの経歴を教えてください

大学時代に、知人の歯科クリニックで医療事務のアルバイトをしていました。それがきっかけで、医療保険に興味を持つようになりました。

大学の専攻は、社会福祉学科です。興味の赴くままに社会保障政策のゼミに入り、公的医療保険制度(特に高齢者医療)をテーマに卒業論文を書きました。

卒業後、外資系金融機関に就職し、子育ての時期に会計事務所へ転職しました。従業員50名前後の比較的大きな事務所でした。

「社労士」の存在を意識したのは、この会計事務所勤務の時です。顧問先の従業員が、うつ病で休職して無給の時期が発生するという事案がありました。社会保険料(健康保険料・厚生年金保険料)を、どう天引きしたら良いのか分からなくなり、上司に相談したんです。

社会保険のことなら上村先生(仮名)に聞いて!」と指示されたので、連絡しました。

 

上村先生は、「無給でも、社会保険料(健康保険料・厚生年金保険料)の本人負担分は、本人が会社へ払うものなので、振り込んでもらうようにして。それと、病気などでしばらく休んで給料が出ないときは健康保険から傷病手当金が出るので、まずはその手続きをしてあげて。」とテキパキと指示してくださいました。

さらに、その従業員の職種はシステムエンジニアで、会社はシステム開発会社であることなどの状況を聞いた上で、「システムエンジニアがうつ病で休職か。難しいわね。労災ということもありうるわね。もしも労災保険がおりれば本人負担は非常に軽減されるし、給付期間も長いので、その方が本人にメリットがあるのよね。でもねえ、実際はメンタルでの休業って、労働基準監督署で労災として認定されることがほとんどないのよね。それにあわよくば労災保険がおりても、それまでに受給した傷病手当金や治療費を健康保険へ本人が返金しなければならなくなるし、本人にとってどちらがいいかわからいないわね。しばらくは傷病手当金の受給手続きをしてあげながら、様子を見るのがいいのではないかしら。」と、病気の罹患状況によって利用する制度が違うことや、制度ごとの本人の負担感など、様々な展開を視野に入れたアドバイスをしてくださいました。

 

それは平成16年頃のことでしたが、当時の社会の関心事は年金保険料の未納や記録の不備くらいであって、オフィスワークによるメンタル疾患を労災とみるなど一般的には考えられないことでしたので、上村先生からのアドバイスを聞いて社会保障制度を見る目を大きく開かれるような印象を受けました。学生時代に公的医療保険を卒論テーマにしていたにもかかわらず、労災保険はおろか傷病手当金のことすらほとんど知らなかった私は、この分野をもっと知りたい、もっと勉強したいという気持ちになりました。

このように理知的で気さくな印象の上村先生は、お子さんがいらっしゃる女性でしたので、育児に奮闘中だった私にとって、仕事としてだけでなく女性として、人生の先を行く憧れの存在になりました。

 

上村先生との出会いがきっかけとなって、会計事務所に勤務しながらも税理士試験ではなく社労士試験を受験することに決め、平成19年2月から専門学校で本格的に勉強を始め同年8月に受験し合格しました。翌年9月に開業登録をして社労士会主催の新規開業者向けのセミナーに参加しました。

この日の担当講師のひとりがなんと!上村先生でした。それだけも感動でしたが、昼休みに外へ出ようとしたときに建物の出入口で先生と偶然お会いして、「吉仲さん!社労士になったのね!おめでとう!」と声をかけてくださり、さらにお昼ご飯をご馳走になりました。本当に驚きと感動の連続でした。さらに後日、社労士徽章をプレゼントしてくださいました!社労士徽章は、通常は各自で購入するものなのでありがたいご縁に感無量でした。

このようにして社労士になり、平成22年3月末に会計事務所を退職して、社労士資格を専門的に生かした仕事に従事しています。行政や社会保険労務士会などの公的な業務と、直接依頼を受けて行う業務の2本柱ですが、どちらの仕事をしているときも同じように、働く人の誰もが働きがいを持って職業参加できる世の中になってほしいとずっと思っています。

開業当初から医療関係のお客様が多いです。

ー どんなお客様が多いですか?

公的医療保険を大学の研究テーマにしていたことや、親族や知人に医師がいることなどから、開業当初から医療関係のお客様が多いです。

医療関係の労働時間は、一般的な月から金、9時から5時というパターンは通用しません。労働時間制度の作成・運用のアドバイスや、変形労働時間制など少し複雑な労働時間の集計、及び給与計算を受託しています。看護師や医療事務などの医療スタッフと、医師とで労働形態も給与計算も異なり、複雑多様な従業員を抱える職場ですので、細心の注意を払ってお仕事させていただいています。

また、20代の頃に外資系金融に身を置いていた経験から、外資系独特の長文でかつバイリンガルの採用通知書(オファーレター)、雇用契約書、就業規則などの文書の作成も行っています。

最近では、ベテランの総務担当者がいらっしゃらないような小規模の会社などからも、従業員のことというよりも、社長や奥様の報酬計算や社会保険のお手続きなどをご依頼頂くことが増えてきました。

ありのままを示すこと、各種法基準を満たすことが大切

ー 読者の方にメッセージをいただけますでしょうか?

会社(採用する側)も従業員(採用される側)も、入社つまり採用面接までは前向きですからほとんど問題は起きないものですよね。しかし、何かしらのターニングポイントがあると、問題が噴き出てきたりします。

主に、働き始めたとき(採用直後)、条件が変わるとき(労働条件の変更)、従業員が働けなくなったとき(休職・離職)、従業員に辞めて欲しいとき(解雇・退職勧奨)のターニングポイントが要注意です。つまり、約束が違うとお互いに感じるような物事が発生したときです。

面接時に会社の担当者から言われたこと(採用時の労働条件)を、従業員は非常に細かいところまで覚えているものです。例えば「週休2日」「賞与は年2回」「試用期間3ヶ月」「3ヶ月後と1年後に昇給」など標準的に聞こえる労働条件を、面接時に会社の担当者が何気なく言ってしまうことがあると思います。

しかし、実際は休日出勤が頻繁にあるとか、経営上の理由から賞与を1回に減らしたいとか、従業員の能力や勤務態度を見て昇給させたくないなど、言ったことと異なる状況が起きるとトラブルになってしまいます。入社時には法に則ったラインを守りつつ、ありのままの労働条件を書面で明示する、あるいは書面を取り交わすことにして、飾らないようにしましょう。ありのままを示すことが大切です。

 

トラブルを起こさないためにもう一つ、各種法基準を満たしていることが大切です。労働基準法第1条第2項の書き出しに「この法律で定める労働条件の基準は最低のものであるから」とあるように、労働基準法は過去に積み重ねられた労働問題(児童労働・強制労働・過重労働など)と憲法に基づく人権問題を回避するために制定された法律なので、古いといえば古いのかもしれませんが、そうであってもこのラインは最低ラインですから、会社はこのラインを外さないようにしましょう。そのようにして、法的側面から会社の立場をしっかりと固めておきましょう。

労働基準法は、働き方(労働時間、労働日、賃金)、休み方(休日、休暇、休業)の基本的な枠組みを示していて、労働安全衛生法では、健康管理、健康維持についての必要な枠組みを示すことによって、労働者が健康を害することなく働き続けることができる環境を維持するよう、会社に義務づけしているものです。

一方、労災保険法、雇用保険法、健康保険法、厚生年金保険法の各法は、業務上の病気や怪我で働けなくなったとき、仕事を失ったとき、私傷病を罹患してその療養をするとき、高齢を理由として就業できないときでも、個人の生活を守ることができるように定められた社会のセーフティーネットです。

 

このような最低ライン・セーフティーネットとしての法制度の枠組みを最大限に利用しつつ、会社独自の社内制度を展開していくことを目指しませんか?

例えば、育児介護休業制度など、従業員が活用することによって長く働くことができるような制度を展開しませんか。

そして、風通しの良いコミュニケーションによって一緒に働く楽しさを味わえる環境を作りましょう。仕事の情報を共有化することによりシフト勤務者から次の勤務者へスムーズに業務をバトンタッチできる環境にしましょう。

仕事の情報を共有化すれば、誰かが休んでも互いにフォローできるようになり、休むこと(オフ)へのストレスが減ります。オフが充実すれば、オン(仕事の日)の業務効率が高まります。また、得意な分野を任されて各々が持てる能力を発揮できる業務分担や共同作業などのワークフローやチームワークの構築に重点を置くことによって、ひとりひとりが能力を発揮でき、働きがいを持って楽しく仕事ができると思います。いつの間にか長く働いていたなとしみじみ思う会社へと変貌していることでしょう。

会社の実情はその会社で働いている方が一番よくわかっていると思います。一方で、守るべき労働・社会保険に関する法制度や、実際の手続きは煩雑で多岐にわたりますが、社労士こそがその専門家です。ぜひとも、社労士の知識と経験を活用させてください。社労士をうまく利用して、会社の独創性を展開していきましょう。そのためのお手伝いをさせていただきたいと思います。

「社会保険労務士吉仲千鶴事務所」について

顧問契約をした場合に受けられるサービス

  • 社員の毎月の給与計算や勤怠管理業務(従業員10人までは顧問料の範囲で行います。10人を超える場合は、別途給与計算報酬をいただきます。)
  • 労働保険料の1年間分の保険料を計算して申告する業務(年度更新業務)
  • 1年一回、社員一人ひとり個別の社会保険料を計算して申告する業務(算定基礎届)
  • 社員の入社・退職時に雇用保険や健康保険・厚生年金の資格取得や喪失の手続き
  • 業務上のケガ・通勤途上のケガ、いわゆる、労働災害(労災)が発生したときの届出
  • 社員に扶養家族が増えたり減ったりする場合(結婚・出産・離婚・死亡など)の健康保険証の変更手続き業務
  • 社員の住所や姓名か変更された時の雇用保険・健康保険などの変更手続き業務
  • 会社が移転したり、支店や拠点が増減した場合の労働・社会保険上の手続き
  • 健康保険関係の給付(出産一時金・傷病手当金)手続き

顧問契約の費用感

  • 従業員10人までの会社の顧問料:5万円/月
  • それ以上の会社の顧問料の考え方:従業員人数に応じて

顧問契約ではなく、お手続きや相談があるときだけ受託する方法も行っています。また、毎年の算定と労働保険の年度更新など、同時に2事案以上ご依頼いただくような場合は、合計額の2割をお値引きいたします。(御参考:料金案内(リンク先ページの後半に記載しています)

顧問契約外のサービス内容・料金

ー 顧問業務以外で、依頼の多い仕事Best3を教えてください。

  1. 労働条件の決定のことなど:契約書、規程の作成:オファーレター、採用通知書、労働条件通知書、雇用契約書、就業規則、その他諸規定を作成します。それぞれ、有期労働契約向け、パートタイム労働契約向け、バイリンガルなどでも作成いたします。
  2. 働き方改革のことなど:労働時間制度の策定、協定:時間外休日労働に関する協定書(36協定)、各種変形労働時間制、各種裁量労働制、一斉休憩の適用除外協定などの作成や運用アドバイスをいたします。
  3. 休み方改革のことなど:年次有給休暇、病気休暇、慶弔休暇、育児休業、介護休業、その他休業など:年次有給休暇の計画的付与、パートタイム労働者の年次有給休暇(平均賃金による計算方法)の付与、時間単位年次有給休暇の導入、傷病手当金申請やそのアドバイス、労災保険給付申請やそのアドバイス、育児・介護休業給付金申請やそれらの手続き方法などのアドバイスをいたします。

問合せ先

事務所名:社会保険労務士吉仲千鶴事務所(CHIZURU YOSHINAKA CONSULTING)
住所:東京都世田谷区奥沢4−32−10(2017年4月下旬に、田園調布から移転)
業務対応可能エリア:東京23区、東京多摩地区、川崎市、横浜市
営業時間:平日 9:00~18:00
電話番号:050–3550–8035
メールinfo@cy-co.jp

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