年末調整で受けられる控除、受けられない控除とは?

執筆: 『人事労務の基礎知識』編集部 |

12月は出勤日数も少なく業務が圧縮されるうえに、年末調整で従業員に扶養控除等申告書等を記入してもらう場合にも、記載内容に不備があったり、質問の電話が架かってきたりと大忙しですね。そんなあなたの一助となりたく、今回は、年末調整で重要なポイントとなる、控除について、どのような控除の種類があり、どのような時に控除をうけられるのかスッキリと分かるようにまとめました。

年末調整の流れ

年末調整は1年間に支払われた給与総額から各種控除を行い最終的な税額を算出し、これまでの源泉徴収税との過不足を精算する業務です。まずは給与総額からサラリーマンの経費となる給与所得控除を行い、従業員それぞれの事情に沿って各種控除を行っていきます。この控除が終わると所得税の計算、税額控除分を控除し、復興税を合わせた年調年税額の算出、精算で終了です。このなかで控除額の計算は従業員とのやり取りもありかなり煩雑な業務となりますね。事前にどんな控除があるのか確認していきましょう。

年末調整で受けられる控除

控除には所得控除と税額控除の2種類があり、それぞれ年末調整で受けられる控除、受けられない控除に分類されます。まずは年末調整で受けられる13の控除についてみていきます。

書類所得控除

◯給与所得控除◯

要件:給与所得者であれば誰でも受けられます。

控除額:最低65万円です。「年末調整のための給与所得控除後の給与等の金額の表」にあてはめて算出します。 参考:国税庁HP「給与所得控除」

書類「給与所得者の扶養控除等申告書」を提出することによって受けられる控除

◯基礎控除◯

要件:申告書提出者は誰でも受けられます。

控除額:38万円(一律)

◯配偶者控除◯

要件:配偶者の合計所得金額が38万以下(給与のみの場合、給与収入103万円以下)

控除額:a.一般の控除対象配偶者は38万円

    b.老人控除対象配偶者は48万円(12月31日現在70歳以上の者)

◯扶養控除◯

要件:給与所得者と生計を一にする親族で年間の合計所得金額が38万円以下

控除額:a.一般の控除対象扶養親族(16歳以上)38万円

    b.特定扶養親族(19歳以上23歳未満)63万円

    c.老人扶養親族(同居老親)58万円、(同居老親以外)48万円

◯障害者控除◯

要件:給与所得者又は控除対象配偶者や扶養親族が一定の障害状態に該当するとき。

控除額:a.障害者    27万円

    b.特別障害者  40万円

    c.同居特別障害者 70万円

参考:該当の障害状態について国税庁HP「障害者控除」

◯寡婦(寡夫)控除◯

要件:夫(もしくは妻)と死別又は生死が明らかではない又は離婚した人で、その後婚姻していない寡婦(寡夫)が以下の要件を満たす場合。 扶養親族もしくは生計同一の子がいる その年の所得が500万円以下

控除額:a.寡婦控除    (イ)もしくは(ロ)に該当する場合  27万円

    b.特定の寡婦控除 (イ)及び(ロ)を共に満たす場合   35万円

    c.寡夫控除    (イ)及び(ロ)を共に満たす場合   27万円

◯勤労学生控除◯

要件:次の3つの要件をすべて満たす場合

  • 勤労による所得がある
  • 合計所得が65万円以下でかつ給与所得以外の所得が10万円以下
  • 小、中、高、大学、高等専門学校の生徒、一定の要件を備えた専修学校、各種学校の生徒、認定職業訓練を受ける訓練生であること。

控除額:27万円

書類「給与所得者の保険料控除申告書兼給与所得者の配偶者特別控除申告書」を提出することで受けられる控除

◯配偶者特別控除◯

要件:給与所得者の合計所得金額が1000万円以下で、その生計同一の配偶者の合計所得金額が38万円超76万円未満であること

控除額:3万円から最高で38万円(配偶者の所得によります)

参考:申告書の「配偶者特別控除額の早見表」

◯社会保険料控除◯

要件:その年に支払った厚生年金保険料、健康保険料、雇用保険料等 a.給与からの控除分 b.申告による社会保険料控除額 従業員や生計同一の配偶者、扶養家族の国民年金保険料や国民健康保険料

控除額:保険料全額

◯生命保険料控除◯

要件:その年に支払った生命保険料、個人年金保険料、介護医療保険料です。 平成23年12月31日以前(旧契約)と平成24年1月1日以後(新契約)では控除額の計算方法が異なります。

控除額:新契約は最高4万円、旧契約は最高5万円

    a.1種類で新、旧の双方で契約している場合、新旧の合計額(最高4万円)

    b.3種類の控除額合計が生命保険料控除額となります。(最高12万円)

参考:申告書の生命保険料控除 計算式

◯地震保険料控除◯

要件:損害保険契約等に係る地震等損害部分の保険料等を支払った場合

控除額:a.地震保険料だけの場合 最高5万円

    b.長期損害保険料だけの場合 最高 1.5万円

    c.a、b両方の場合 合算し最高5万円 平成18年12月31日までに締結した長期損害保険契約は地震保険料控除に合わせて控除の対象となります。

◯小規模企業共済等掛金控除◯

要件:以下の3つの掛金が対象となります。

  • 中小企業基盤整備機構と契約した共済契約
  • 企業型、個人型の確定拠出年金
  • 心身障害者扶養共済

控除額:その年に支払った掛金全額

税額控除

住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除)(年末調整ができるのは2年目以降からです。)
要件:住宅ローン等を利用して住宅を新築又は建築後使用されたことのない住宅を取得した場合で、2年目以降の場合。(控除を受ける最初の年は従業員本人が確定申告により手続きする必要があります。)
控除額及び控除期間:居住開始した年やローン残高によって異なります。

年末調整で受けられない控除

近頃は自然災害が多く、思ってもみない被害が身近になってきましたね。また、突然の大病で入院したりすることもあるでしょう。住宅を取得した初年度に行う住宅ローン控除等も問い合わせが多いのではないでしょうか。年末調整では受けられませんが、知っていると従業員に案内しやすいですね。

  • 雑損控除:災害又は盗難若しくは横領によって、資産について損害を受けた場合等
  • 寄付金控除:国や地方公共団体、特定公益増進法人などに対して行った寄付金(ふるさと納税のワンストップ特例以外)
  • 医療費控除:従業員本人や生計同一の配偶者や親族のために支払った医療費について、一定の金額が控除されます。
  • 住宅ローン控除(1年目):住宅を取得した1年目は年末調整では控除できません。

年末調整で受けられない控除はどうすればよいか?

年末調整の対象となっていない項目及び、年末調整の際には忘れていたり、証明書が間に合わずに手続きできなかったものについては、翌年税務署に確定申告を行うことによって精算することができます。

確定申告の作成方法

申告書の作成に当たっては、国税庁のホームページに確定申告書作成コーナーがありますので、参考にされると良いでしょう。平日は税務署に相談に行くのは難しいですが、日曜に相談会を設けている税務署もありますので、確認してみるよう案内しましょう。また、確定申告書作成コーナーではe-Taxで電子申請する場合だけでなく、用紙で申請する場合でも利用できます。項目に入力するだけで自動計算し申告書が出来上がるので計算する手間が省けて便利です。

住宅ローン控除(1年目)を申告する場合

住宅ローン控除を受ける従業員から相談があった場合は、少し注意が必要です。まず、1年目かどうかの確認をしましょう。1年目の場合確定申告が必要ですが、控除に際し居住した時期や床面積等の要件があり、添付書類も多いので、事前に税務署や国税庁のホームページで確認することをお薦めしましょう。

確定申告の提出方法

確定申告は税務署に直接提出するだけでなく郵送でも提出することが可能です。また、日曜日に相談会と合わせて提出の受付を行っている税務署もありますので、従業員の住所地の税務署に確認してもらいましょう。

まとめ

年末は従業員の方も自身の仕事で忙しいことが多く、年末調整の書類の提出も滞りがちです。税務署から会社に届いた申告書類には、あらかじめ記入可能な給与支払者の名称、所在地欄はゴム印を押した上で従業員に配布するなど事前準備をしておきましょう。また、控除項目については、自分自身に当てはめて、家を買ったときや、子供を扶養に入れた時等をイメージすると楽しく覚えやすいのでしょう。