解雇する前に理解すべき、懲戒処分の基礎知識

執筆: 大橋 智子

 

「懲戒処分」は、それを受ける人の「従業員」としての立場や、その方の人生そのものにまで影響を与えるもの。もし社長が「あの従業員を懲戒処分にしたい」と考えたら、社長が自由に処分内容を決めてしまってよいのでしょうか?

いいえ、そんなことはありません。懲戒処分を行う場合には企業が守らなければならない一定のルールがあるのです。もし企業側がルールを知らず、思うがままに従業員を懲戒処分にしてしまったら、法律違反をおかしてしまうことになります。懲戒処分には明確な基準があるのです。

懲戒処分をするための基準って何?減給するときの注意点は?

懲戒処分基準としてまず守らなければならないのが「労働基準法」です。

この法律は、会社が従業員を雇用するにあたり守らなければならない義務が定められています。懲戒処分についても、従業員の生活をおびやかす不当な処分が行われないように一定の制限がおかれています。

そして次に守らなければならないのは、社内であらかじめ定めている就業規則です。

就業規則にあらかじめ定めていない種類の懲戒処分を、社長の裁量で自由に行うことはできません。これは先ほどもお伝えしたとおりですね。

就業規則は、会社側にとっても社員にとっても、懲戒処分を行うにあたって守らなければならない基準なのです。

さて、ここで考えてみましょう。

従業員が行った何らかの良くない行動に対し、会社が「懲戒処分を行いたい」と考えたとします。しかし、今回従業員が行った行動は就業規則上の懲戒事由に定められていないとします。

そこで、会社側が事後的に就業規則を改定すれば、その就業規則を基準として懲戒処分を行ってもよいのでしょうか。
答えはNOです。そんなことは許されませんよね。就業規則は、制定(あるいは改定)された日から将来に向かって効力を持つのであって、過去に対して適用することはできません。

懲戒処分の種類にはどんなものがあるの?

懲戒処分にはいくつかの種類がありますが、ここでは代表的なものを紹介します。

 

1.戒告

懲戒処分の中でも軽い処分が「戒告」です。これは会社が従業員に対して口頭で注意をするというものです。会社が社内外に対して「きちんと叱りましたよ」ということをアピールするためのもの、と言ってもいいかもしれません。

 

2.けん責

「けん責」とは、戒告よりやや重い処分です。社員に「始末書」などの文書を提出させる点が戒告との違いです。その社員が「悪いことをしたと自ら認めた」ということが文書で残るわけです。

 

3.減給

減給とは、平たく言えば給与カットあるいはボーナスカットということです。

労働基準法では、一回に減給できる金額の上限を「一日の平均賃金の半額まで」かつ月給制であれば1か月あたりの減給額の上限を「月給の10%まで」と定めています。

 

4.出勤停止

会社が従業員に対して、一定の期間を定めて出勤停止を命じることがあります。当然ながら給与は支払われません。出勤停止が解除されたあとはふたたび会社に戻って働くことができます。

5.懲戒解雇

これは懲戒処分の中でも最も重い処分です。

企業が従業員を一方的に解雇することは労働基準法で厳しく制限されているため、よほどのことがない限りできません。

 

なぜそのような法律があるのでしょうか。

「企業と従業員との間には、圧倒的な力の差がある」という基本的な考え方が前提にあるからです。そのため、労働基準法は弱い立場にある労働者が守られるように、企業にさまざまな義務を課しています。企業が従業員を簡単に解雇できないように法律で定められているのは、労働者を守ることによって、企業とそこで働く労働者からなる経済社会全体のバランスを取るためなのです。

懲戒解雇を行うときの注意点についてはここでは解説しませんが、もし実際に懲戒解雇せざるを得ないという場面に遭遇したら、しかるべき手順をしっかり踏むようにくれぐれも気をつけてくださいね。

懲戒処分はどのように本人に通知すればよいの?

さて、適用する懲戒処分種類が決まったら、その処分内容を本人に通知しましょう。

懲戒処分通知は文書で行いましょう。減給や出勤停止、懲戒解雇など従業員の権利に何らかの影響を及ぼすものであれば、企業の代表者による記名押印済みの書類を本人に交付します。

懲戒処分は何のためにあるの?

ところで、懲戒処分は何のためにあるのでしょう?悪いことをした従業員を懲らしめるためでしょうか?

懲戒処分の本当の目的はそれだけではありません。

懲戒処分とは、簡単に言えば「何か悪いことをした人を罰する」という行為です。しかし企業そのものは人を罰するために存在しているのでも、人の行いを正すために存在しているのでもありません。

企業の目的は「事業により収益をあげ、利益を得る」ことです。

そして企業が収益をあげるためには、事業を成功させるために従業員が一丸となって働くことが必要です。

企業は従業員に対して「事業を成功させるための行動をしてほしい」と願っています。それは裏を返せば「事業を成功させるために妨げとなるような行動をしないでほしい」ということでもあります。

「このような(良くない)行動をしたら、懲戒処分にしますよ」という就業規則は、実は「このような行動はしないでくださいね」という、企業の従業員に対する願いを表したものでもあるのです。

つまり、懲戒処分の本当の目的は「従業員を罰すること」ではなく、企業のためにも従業員のためにもならない無駄な行動や社内トラブルなどを「予防する」ことにあるのです。

まとめ

・懲戒処分は労働基準法や就業規則というルールに基づいて行われるものです。どんなに従業員の行動が「おかしい!」と思っても、就業規則に定めのない処分を行うことはできません。

・懲戒処分にはさまざまな種類があります。「減給」には金額の上限が労働基準法で定められているので、上限額を超えないように注意しましょう。

・「懲戒解雇」は簡単にはできません。ハードルが高いということを覚悟して、しかるべき手続きをもれなく踏んでいきましょう。

・懲戒処分の通知は文書で行いましょう。
懲戒処分の目的は罰することよりも、誰のためにもならない行動や社内トラブルなどを予防すること。

従業員みなが気持ちよく働き、利益をあげることができる企業こそが理想的な姿といえるでしょう。「懲戒処分」はそのような企業の目的を達成するためのひとつの手段なのです。