従業員に健康診断を受けさせる義務と費用の考え方

執筆: 『人事労務の基礎知識』編集部

だれでも病気にかかったと分かれば、病院に行ったり薬を飲んだり自宅で休んだりします。自覚症状が出て初めて、対処することが多いと思います。風邪などであればまだよいのですが、問題になるのは自覚症状が現れた時にはもう手遅れという病気です。

健康診断の目的は、自覚症状のない段階で早期に病気を発見することです。また、健康診断の結果から生活習慣の乱れを識別し、病気にかかりやすいライフスタイルを改め、病気を予防するために役立てることもできます。年齢や性別により、用心しなければならない病気が異なるので、検査項目も異なることでしょう。会社で従業員に健康診断を受けさせる場合はいったいどの検査項目が必要なのか紹介します。

健康診断の実施義務

健康診断は従業員のために実施されます。ですが労働安全衛生法66条では、事業者(会社)がこれを実施しなければならないと定められており、従業員に健康診断を受けさせることは会社に義務づけられています。
パート労働者は健康診断を受けられないのでしょうか。健康診断を受けさせなければならないのは、正社員、契約社員、週所定労働時間の3/4以上労働するパート労働者となっています。それぞれの労働時間を確認して、個別に対応することになります。

健康診断の流れ

  • 健康診断の種類
    主なものとして、雇入時の健康診断、定期健康診断、特定業務従事者の健康診断、海外派遣労働者の健康診断などがあります。ここでは、最もなじみの深い定期健康診断を取り上げます。

 

  • 健康診断の項目
    以下の項目を検査しなければならない、と労働安全衛生規則44条に定められています。

1.既往歴・喫煙歴・服薬歴・業務歴の調査2.自覚症状および他覚症状の有無の検査
3.身長、体重、腹囲、視力、および聴力の検査(1000Hz・30dB)(4000Hz・30dB)

4.胸部X線検査

5.血圧の測定

6.尿検査(尿中の糖および蛋白の有無の検査)

7.貧血検査(赤血球数、血色素量)

8.肝機能検査(GOT、GPT、γ‐GTP)

9.血中脂質検査(LDLコレステロール、HDLコレステロール、中性脂肪)

10.血糖検査(空腹時血糖またはヘモグロビンA1c)

11.心電図検査

 

  • 省略可能なもの
    ただし、年齢と性別によっては、上記の項目の中でも医師が必要でないと認める場合に省略できるものがあります。

①身長測定:20歳以上

②聴力検査:45歳未満(35歳と40歳を除く)の者については医師が適当と認める聴力の検査(オージオまたはその他の方法)に代えることができる

③喀痰検査:胸部X線検査によって疾病の発見、結核発病のおそれがないと診断された者、および胸部X線検査を省略した者

④胸部X線検査:40歳未満で下記に該当せず医師が認めた者

ア.5歳毎の節目年齢(20歳、25歳、30歳、35歳)の者

イ.感染症法で結核に係る定期の健康診断の対象とされている施設等で働く者

ウ.じん肺法で3年に1回のじん肺健康診断の対象とされている者 ※アイウの人はX線検査を省略できないという意味です

⑤心電図検査、血中脂質検査、肝臓機能検査、貧血検査、血糖検査は35歳未満と36歳以上40歳未満の者について省略可

⑥腹囲測定:40歳未満(35歳を除く)の場合、妊娠中の女性またその他で、内臓脂肪の蓄積を反映していないと診断された場合、BMIが20未満またはBMIが22未満であって自ら腹囲を申告した場合

  • 料金の違い
    健康診断について病院などに問い合わせると分かりますが、医療機関によって料金が違います。これは、健康診断は健康保険の対象外であるため、医療機関ごとに自由に料金設定ができるからです。さらに、検査項目も自由に設定できます。ある病院は最小限の検査で低料金、別の病院はガン検診なども項目に加えた手厚い検査をしてくれるかもしれません。手厚い健康診断の最たるものが、人間ドックです。人間ドックには、上記の項目には含まれていない検査、例えば眼底、眼圧、呼吸機能、尿素窒素、尿酸値、クレアチニン、血小板、アミラーゼなども測定しますし、腹部の超音波検査、便の潜血検査、消化器の内視鏡検査(胃ガンや大腸ガンの検査)も実施されます。このように詳細に検査する代わりに、料金も一般の健康診断の10倍以上はかかります。後述しますが、従業員に人間ドックを受けさせても、それを会社の福利厚生とすることはできません。
    健康診断の費用をなるべく抑えたい場合でも、必ず「労働安全衛生規則44条に基づいています」とか「労働安全衛生法で義務づけられた定期健康診断です」などといったコメントが付いているものを選びましょう。ホームページで調べれば、そのような表示があるかどうか確認できます。

費用負担はだれがすべきか

健康診断は従業員のためのものだから従業員に払わせる、という会社もまだあるようです。ですが、健康診断を受けさせる義務は会社にありますので、会社が費用を負担するのが当然です。正社員でもパート労働者でも、同じです。

勘定科目はどうなるか

健康診断を会社の負担で受けると、それは現物給付とみなされるのが本来の扱いです。そうなると給与となり、課税されることになります。従業員の手取りは減り、会社は源泉徴収の事務の手間がかかります。ただし、一定の条件を満たせば、福利厚生として扱うことが可能になります。満たすべき条件とは、特定の従業員だけでなく全社員が対象であること、費用を従業員に持たせるのではなく会社から医療機関へ直接支払うこと、人間ドックのような高額なものではない常識的な金額であること、の3つです。これら3つの条件を満たした場合、健康診断にかけた費用は福利厚生費という勘定科目で計上することができます。

まとめ

健康診断の項目については労働安全衛生法と労働安全衛生規則で定められており、年齢や性別で若干の違いがあります。パート労働者にも、その所定労働時間によっては健康診断を受けさせなければなりません。料金は社会保険の対象外です。実施義務は会社にありますので、従業員ではなく会社が費用負担するべきです。福利厚生費という勘定科目で計上するための条件には注意しましょう。人間ドックは詳しい検査ですが、福利厚生に含めることはできません。
健康診断の目的は、自覚症状のない段階で病気を発見することです。その結果から従業員の健康状態を識別し、予防に役立てることができます。会社と従業員の双方に益があるように、健康診断を活用しましょう。

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『人事労務の基礎知識』編集部
『人事労務の基礎知識』編集部
株式会社BEC内で、Gozal(ゴザル)の編集制作を担当する部門です。社会保険労務士/弁護士/税理士などの専門家執筆陣とともに、中小企業の労務・給与計算担当の方が実務上感じる不安を払拭できるよう、情報発信しています。「こんな記事を読みたい!」とTwitterやFacebookでメッセージいただければ、可能な限り執筆いたします。