出産時に高額医療費を受けとる条件と保障内容

執筆: 『人事労務の基礎知識』編集部

 

高額療養費制度とは「健康保険が適用される治療をした人が、月初めから月末までの医療費が高額になった場合に、一定の金額(自己負担限度額)を超えた分が払い戻される」という制度です。

妊娠・出産は病気ではないので、原則医療費は保険が適用されず全額自己負担となります。出産育児一時金が支給されるので自己負担の費用のほとんどはまかなえますが、帝王切開や切迫早産など治療が必要な時は保険が適用になり、高額療養費制度の対象となる場合があります。

今回は、従業員の妊娠・出産時に高額療養費制度の対象となる条件や内容について説明します。

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妊娠・出産でも対象となる条件とは?

基本的には妊娠・出産時には保険適用外ですが、下記のように異常やトラブルがあった場合等は高額療養費制度の対象となります。

妊娠中に対象となる条件

  • 重症妊娠悪阻
  • 子宮頸管無力症
  • 妊娠高血圧症候群
  • 児頭骨盤不均衡の検査
  • 逆子や前置胎盤の検査
  • 前期破水
  • 切迫流産、切迫早産
  • 流産、早産
  • そのほかの疾患や持病による合併症

出産時に対象となる条件

  • 微弱陣痛での陣痛促進剤の使用
  • 吸引、鉗子分娩
  • 帝王切開
  • 会陰裂傷、止血のための処置や投薬
  • 無痛分娩の麻酔(心臓病などで医師が必要と認めた場合のみ)
  • 死産

自然分娩は保険適応外なので高額療養費制度は利用できませんが、自然分娩での出産時に医療的処置が必要な場合や産後の状態が悪く退院が長引くなどの場合は高額療養費の対象となります。

高額療養費制度の内容

冒頭でも記載しましたが、高額療養費制度は1月(月初めから月末まで)の医療費が高額になった場合に、一定の金額(自己負担限度額)を超えた部分が払い戻される制度です。

自己負担限度額の上限は下記の通りです。

所得区分 自己負担限度額 多数該当
①区分ア
標準報酬月額83万円以上
252,600円+(総医療費-842,000円)×1% 140,100円
②区分イ
標準報酬月額53万円~79万円の方
167,400円+(総医療費-558,000円)×1% 93,000円
③区分ウ
標準報酬月額28万円~50万円の方
80,100円+(総医療費-267,000円)×1% 44,400円
④区分エ
標準報酬月額26万円以下の方
57,600円 44,400円
⑤区分オ(低所得者)
(被保険者が市区町村民税の非課税者等)
35,400円 24,600円

引用元:協会けんぽ

上記のように所得に応じて自己負担限度額の上限が定められており、またいくつかの条件を満たす場合は、さらに負担を軽減する仕組みも設けられています。

高額の医療費の支払いが続いたときには「多数該当高額療養費」という制度があります。この制度は1年間で自己負担限度額を超える医療費の支払いが3カ月以上あった場合に4ヶ月目から自己負担限度額が引き下げられます。切迫早産などで長期入院が必要になる場合に利用できます。「多数該当高額療養費」制度を利用するための手続きは特にありません。

注意点

  • 個室代や差額ベッド代、食事代は医療費に含まれません。
  • 自己負担限度額は同じ医療機関の医療費のみを合計し計算しますが、同じ医療機関でも入院と外来の医療費、医科と歯科は合計することが出来ません。
  • 合算できる医療費は同じ月のみですので、月をまたいで入院した場合は継続した入院であっても高額療養費制度の対象にならない場合があります。

高額療養費の手続き

高額療養費制度の手続きには二通りの方法があります。

事前申請

帝王切開をすることが決まっている等明らかに医療費が高額になりそうな場合は、事前に手続きをする事が出来ます。下記の申請書を記入し、保険証のコピーを添付して保険証に記載されている協会けんぽの各支部に提出します(郵送も可)。申請が受理されると「限度額適用認定証」が送られてきますので、医療機関の窓口に保険証と併せて提出してください。事前申請をしておくと、一旦立て替える必要がないので、窓口での負担が少なくなります。

健康保険限度額適用認定申請書(※引用元:協会けんぽ)

事後申請

予想外の帝王切開や出産時にトラブルがあり、医療費が高額になった場合は事後申請をしましょう。窓口では一旦総医療費の3割分を支払い、領収証をもらっておきます。下記の申請書に記入し、保険証に記載されている協会けんぽの各支部に提出します(郵送も可)。申請が受理されると、自己負担限度額を超えた分が振り込まれます。ただし、払い戻しされるまでには最低3か月はかかるので、一時的でも大きな負担を避けたい場合は、万が一に備えて事前申請をしておく方が良いでしょう。

健康保険高額療養費支給申請書(※引用元:協会けんぽ)

※記入例:健康保険高額療養費支給申請書記入の手引き(※引用元:協会けんぽ)

自己負担限度額は基本的には同じ医療機関のものしか合算出来ませんが、一人が同月に複数の医療機関に受診した場合でそれぞれが21,000円以上の自己負担があった場合は合算することができます。

また同一の健康保険に加入している家族(同一世帯)が同月にそれぞれ21,000円以上の自己負担があった場合も合算することができます。共働きでそれぞれ別の健康保険に加入している場合は合算出来ないので注意しましょう。

確定申告時の注意点

高額療養費制度は一旦支払った医療費が払い戻しされるものなので、所得には該当せず確定申告をする必要はありません。ただし医療費控除を受ける場合は、高額療養費として払い戻された金額は合計から差し引かなければなりません。また、出産育児一時金(42万円)も同様で医療費控除で申請できるのは42万円を差し引いた金額のみです。

会社員は給与から所得税が天引きされていますが、妊娠・出産で医療費を多く支払った場合は医療費控除によって税金が戻る可能性があります。確定申告を行うことで、翌年度の住民税が下がる可能性もありますので、病院や調剤薬局での領収書は保存しておきましょう。

まとめ

妊娠・出産は病気ではないので、基本的には自費診療というのが一般的なイメージです。しかし、出産までの過程や出産時に異常やトラブルがあった場合は、健康保険が適用になり、高額療養費制度の対象となります。高額療養費制度と直接関係はありませんが、医療費をたくさん支払っている場合は確定申告をすれば税金が戻ってくる可能性もあります。

妊娠・出産はおめでたいことですが、従業員は会社を休むことになり、経済的な心配も出てくるでしょう。そんな時に「こういった制度もありますよ」と説明してあげることで、会社への信頼度アップにもつながります。正確な情報理解し、従業員の不安を和らげてあげましょう。

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『人事労務の基礎知識』編集部
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株式会社BEC内で、Gozal(ゴザル)の編集制作を担当する部門です。社会保険労務士/弁護士/税理士などの専門家執筆陣とともに、中小企業の労務・給与計算担当の方が実務上感じる不安を払拭できるよう、情報発信しています。「こんな記事を読みたい!」とTwitterやFacebookでメッセージいただければ、可能な限り執筆いたします。