いまさら聞けない社会保障制度の常識

執筆: 田中靖子(たなかやすこ) |

「社会保障制度の見直し」ってなに?

自民党の石原大臣が、10月5日(水)の社会保障に関する講演で「消費税は10%では賄いきれない。次は12%、14%、15%という形で上げることを国民に問いかけて選挙をしていかなければならない」と発言しました。みなさん「社会保障」と「消費税」の関係をきちんと説明できるでしょうか? 「社会保障制度の見直し」とは何なのでしょうか。なぜ必要で、一体どのような改革が行われ、私たちの生活にはどのような変化がおとずれるのでしょうか。 今回の記事では、今さら他人には聞けない社会保障制度の見直しについて、分かりやすく解説します。

どうして社会保障制度の改革が必要なのか?

現在の社会保障制度は、戦後に制度設計されたものです。近年急速な少子高齢化が進んでいるため、現在の制度のまま維持することができなくなっています。ではどうして「少子高齢化」が進むと、社会保障制度に影響が出るのでしょうか? 「少子高齢化」と「社会保障制度の改革」の間には、3つのステップがあります。

  1. 高齢化による社会保障費の増大

    高齢化が進むと、お年寄りの医療や介護の費用がかかるため、社会保障費が増大します。2014年度の社会保障費は、約30.5兆円でした。この金額は、約20年前に比べると、約3倍にも増大しています。

  2. 財源の不足

    高齢化が進んでも、税収入が増加していれば、医療や介護の費用をまかなうことができるため、問題はありません。しかし、現在の日本は景気が十分に回復しておらず、経済成長率が横ばいであるため、税収入は横ばい状態です。

    社会保障費は増大しているのに、税収入が変わらないということは、赤字の額が年々増大しているということです。このまま放置してしまうと、赤字の額が火だるま式に増加する一方です。

  3. 借金の増大

    現在、社会保障費の不足額は、国債でまかなわれています。国債とは、国の借金です。国債を発行すればするほど、私たちの孫やひ孫の世代の負担が大きくなります。

    約20年前の国債発行額は7.3兆円ですが、2014年度の発行額は42.3兆円にものぼります。この20年間で、約6倍にも増大しています。

    つまり、私たちの孫やひ孫世代が返す借金が、どんどん大きくなっているということです。私たちの孫やひ孫の負担を少しでも軽くするためには、早急に社会保障制度を改革しなければいけないのです。

具体的に、どのような改革が行われるのか?

それでは、具体的にどのような改革が行われるのでしょうか? 改革の方向性として、3つのポイントがあります。

  1. 子供・子育て支援の充実

    小規模の保育所を充実させ、保育ママを増やすなど、子供を安心して預けることができる場所を増やします。また、共働きの家庭のために、放課後児童クラブを充実させ、保護者が帰宅するまでの子供の居場所を増やします。

    これらの子育て支援政策は、国ではなく、市町村が行うことになっています。市町村が責任を持って行うことで、地域密着型の子育てサポートを充実させることができます。

  2. 医療・介護サービス保護の強化

    病院ごとの連携を強化することで、どこにいても適切な医療サービスを受けられるようになります。東京都心に住んでいようが地方の農村に住んでいようが、誰でも平等に、高度な医療サービスを受けることができるようになります。

  3. 公的年金制度の充実

    アルバイトやフリーターなどの短時間労働者も、厚生年金に加入できるようになります。出産や育児のために仕事を休まなければいけない女性については、厚生年金の保険料を払う負担を免除されます。

どうやって財源をまかなうのか?

それでは、これらの改革の財源はどこから出てくるのでしょうか? 実は、この財源は「消費税の引き上げ」によってまかなわれます。 政府は、近い将来に消費税を10%に引き上げることを計画しています。消費税を1%引き上げるごとに、税収は約2.8兆円増えると言われています。社会保障制度改革が提唱された当時の消費税は5%でした。消費税を5%引き上げることによって、税収は約14兆円も増えることになります。 この約14兆円の増収分は、全て社会保障制度改革に使われることが決定しており、具体的な配分も決まっています。 0.7兆円は子育て支援に、1.5兆円は医療・介護サービスの強化に、0.6兆円は年金制度の充実に、残りの11.2兆円は社会保障の安定化のために使われます。 具体的な配分が決まっているというのは安心ですが、きちんと計画通りに使われるのかどうか、今後も国民全体で監視していくことが必要です。

いつから消費税が上がるのか?

現在の政府は、2019年10月1日から消費税を10%に上げることを計画しています。 当初の政府計画では、2015年10月に消費税10%を引き上げる予定でした。しかし、国民の反発が大きく、日本全体の経済状況も良くないことから、一度2017年4月に延期され、さらに2019年10月に延期されました。 現在の計画では、2019年10月から引き上げるということになっていますが、もし今後に経済が悪化するなどの事情が生じれば、さらに延期されるかもしれません。

まとめ

少子高齢化が進み、社会保障制度を改革する必要性が高まっています。改革の3つのポイントは、子育ての充実、医療・介護サービスの強化、公的年金制度の充実です。改革の財源は、消費税の引き上げによってまかなわれます。2019年10月から消費税が10%になる予定になっており、引き上げによる税収は全て社会保障制度改革に使われる見込みです。

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