移籍型出向とは|労働基準法の定義

執筆: 『人事労務の基礎知識』編集部 |

最近では、所属している企業から出向して、別の企業で仕事を行う「出向契約」の有効性が注目されています。出向することで、新しい仕事・チームを経験して成長できますし、出向を受け入れる企業としても能力が高いメンバーの加入によって生産性が上がったり、他業界であるがゆえに新しい発想をしてくれる可能性について期待をすることができます。

出向を活用することを支援するサービスも出現しており、例えば「出向制度をオープンかつ戦略的に活用し、イノベーションを推進できる人材を育成します。」という思いを持ってサービスを展開されているローンディールさんはさまざまなメディアで掲載されるほど、注目されていますので、ご興味ある方は是非公式サイトからサービスをチェックしてみてください。

「Loan DEAL」http://loandeal.jp/

 

出向とは

出向という概念は「労働者派遣事業関係業務取扱要領」という難しい名前の資料で説明がなされています。そこで出向の定義があります。

いわゆる出向は、出向元事業主と何らかの関係を保ちながら、出向先事業主との間において新たな雇用契約関係に基づき相当期間継続的に勤務する形態である
(労働者派遣事業の意義等)

つまり出向とは、もともと在籍していた会社と雇用契約などの関係を維持した状態のままで、別の会社にて新たな雇用契約を締結して、しばらく働くよというものです。おそらくみなさんのイメージと大きくそういないかと思います。

 

さらに詳細に資料を読んでいくと、出向には2つの種類があることがわかります。それが在籍型出向と移籍型出向と呼ばれるものです。今回は移籍型出向について整理しておきます。

 

 

移籍型出向とは

移籍型出向とは、出向元企業と出向する労働者の間にある労働契約関係を終了させ、出向先との間に新たな労働契約を締結するスキームです。移籍型出向によって出向した労働者は、出向先とのみ労働契約関係があるので、出向先の使用者のみが出向労働者について労働基準法上の使用者としての責任を負うことになります。

 

移籍型出向は労働者派遣なのか?

移籍型出向は、労働者を別の会社に派遣しているように見えます。労働者派遣を行う場合には、労働者派遣を行う事業者として許可を取得して、法律を守っていく必要があるので、負担が大きくなります。

これについて先ほども紹介した「労働者派遣事業関係業務取扱要領」の中で説明があります。

移籍型出向については、出向元事業主との雇用契約関係は終了しており、労働者派遣には該当 しない。

つまり、出向元の事業主との雇用契約関係が終了している以上、移籍型出向の場合には、労働者派遣ではないとされているということです。

 

移籍型出向は職業紹介事業なのか?

雇用契約を終了して別の会社に出向させるという形式を見て、ふと「職業紹介事業に似ているな」と勘の良い方なら思うかと思います。判断について、先ほどの資料で説明があります。

移籍型出向を「業として行う」場合には、職業紹介事業に該当し、 職業安定法第 30 条、第 33 条等との関係で問題となる場合もあるので注意が必要である。

移籍型出向を事業として行う場合には、職業紹介の事業と判断されて、各規制を受けることになるケースので、ご注意ください。

 

出向の法的実態は、出向のスキームによって変化するので、労務をご担当の方におかれましてはその実態を捉えて、自社が出向者と労働契約を締結している状態ないのかどうかチェックをしていただければと思います。

 

 

労働基準法の定める労働者と使用者の定義

移籍型出向の説明で何度か出てきた労働者と使用者については、労働基準法で明確に定義がされています。具体的には労働者については労働基準法第9条に記載がありますし、使用者については労働基準法第10条に記載があります。ぜひその定義をご確認ください。

 

第九条

この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。

 

第十条
この法律で使用者とは、事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者をいう。

 

移籍型出向では、この使用者が「出向先」となり、労働者は「出向者」となり、その2者間で労働契約が成立した状態になります。出向元企業と出向者との間の労働関係は終了していることにもご注意ください。