業務引継ぎは、従業員の退職時期を遅らせる理由になるか。

執筆: 『人事労務の基礎知識』編集部

従業員が自己都合で退職すると、後任探しなど予定外の業務や費用が発生し、会社にとって大きな負担となります。後任者を見つけても、仕事に慣れるまでは周りの従業員にも負担をかけることとなるでしょう。

会社側としては、なるべく早めに退職の意思を従業員から受け取り、余裕をもって対応したいところだと思います。通常2ヶ月ほどあれば、新しく後任を採用しある程度の引継ぎができると思いますが、そんなに早くから意思を伝えてくれる従業員ばかりではないでしょう。

今回は「従業員の希望する退職日までに業務引継ぎを完了出来なかった場合、会社側から退職日を変更してもらうことは可能なのか?」という疑問について説明します。

「自己都合退職」に関しての法律

労使関係の法律といえば「労働基準法」がまず頭に浮かぶのではないでしょうか?しかし、労働基準法には「解雇」に関する規定はあるものの「退職」についての規定がありません。

今回とりあげる「自己都合退職」の場合は、「民法」を参照します。民法では「期間の定めのない契約はいつでも解約の申入れをすることができる」としたうえで、「雇用契約は、解約の申入れの後2週間を経過することによって終了する」とされています。

退職日を遅らせても良い?

従業員の意思で退職する「自己都合退職」は、民法の規定により解約の申入れの後2週間を経過することによって終了します。

つまり、退職の意思表示が会社に到達してから2週間経過すると、後任者がいない、 引継ぎが出来ていない等の問題があったとしてもそれに関係なく退職出来ることになります。

退職の意思表示の方法は退職届が一般的ですが、口頭やメールであっても、原則として有効とされます。ただし、口頭やメールでの意思表示は改ざんの可能性も否定できず、言った言わない等のトラブルに発展しやすいです。また、裁判になった場合は信憑性に欠けるので、出来るだけ退職届を提出してもらうようにしましょう。

そして判例では、会社が退職日を延長することは、労働基準法 5条などに違反すると解されています。

労働基準法第5条【強制労働の禁止】
使用者は、暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によつて、労働者の意思に反して労働を強制してはならない。

上記のことから、労働者の退職の自由を制限する為、会社が強制的に退職日を遅らせることは出来ません。

退職時期を、どうしても遅らせたい時は?

先程も述べましたが、基本的に会社から退職日を遅らせることは出来ませんが、下記の方法で、従業員と事前に約束をすることは出来ます。ただし約束したとしても、民法の「雇用契約は、解約の申入れの後2週間を経過することによって終了する」という規定より拘束力が弱くなります。その点は認識しておきましょう。

退職時期を遅らせるための方法

就業規則に退職について規定する

就業規則を作成する際に「従業員が自己の都合で退職する場合は、少なくとも1カ月前には退職願いを提出しなければならない」というような規定を作りましょう。就業規則は会社のルールです。退職日を決める際にも、この規定をベースに話し合うことが出来ます。

採用時の雇用契約書に記載する

就業規則が無い場合は、雇用契約書に「後任が見つからない時は退職日を引き延ばすこともある」というような文言を記載しておくことで、その雇用契約を元に退職日を遅らせるよう話が出来ます。

重ねて申し上げますが、上記の方法には拘束力は無く、あくまで予防的効果が期待できるのみです。就業規則に1か月前と規定していて、3週間前に退職の意思表示をしても、服務規律違反にはなりますが法律上の処罰等はありません。

また、退職の意思表示をして退職日まで有給休暇を行使する場合もよくある事だと思います。有給休暇は従業員が請求した時に与える必要がありますが、業務の正常な運営を妨げる場合には、会社に有給の使用時季を変更することが認められています。ただし、いくら引継ぎが出来なくても有給休暇は在職中にしか消化できないので、退職前に請求された場合は変更できないと考えておいた方が良いでしょう。

まとめ

従業員が自己都合退職する場合、双方ともに円満退社が望ましいのです。しかし会社にも従業員にもそれぞれの事情があり、折り合いをつける事が難しい場合もあるかと思います。その場合、大前提として「労働基準法で強制的に労働させることは禁止されている」というルールを頭に入れて行動しましょう。退職するかしないかは、従業員が自由に決めるべき事なのです。

退職日を遅らせたいのであれば、まずは従業員と話し合いましょう。退職理由によっては待遇改善をしたり、条件を付けたりすることで退職日を遅らせてもらえるかもしれません。また、拘束力は強くありませんが、会社のルールとして就業規則に規定をする事で、話し合いをスムーズに進められる可能性も高くなるでしょう。

ただし、話し合いの際は、話の持って行き方次第で脅迫と捉えられることもあります。話し方、言い方などには十分に配慮しましょう。

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『人事労務の基礎知識』編集部
『人事労務の基礎知識』編集部
株式会社BEC内で、Gozal(ゴザル)の編集制作を担当する部門です。社会保険労務士/弁護士/税理士などの専門家執筆陣とともに、中小企業の労務・給与計算担当の方が実務上感じる不安を払拭できるよう、情報発信しています。「こんな記事を読みたい!」とTwitterやFacebookでメッセージいただければ、可能な限り執筆いたします。