賞与(ボーナス)支給を始める準備と、計算方法

執筆: 『人事労務の基礎知識』編集部

賞与(ボーナス)とは毎月の給与とは別に年に数回一定時期に支給する賃金です。「原則として労働者の業務成績に応じて支給され、その支給額があらかじめ確定されていないもの」とされているので、毎月の給与のように必ず支給しなければならないものではありません。一般的には一定期間内の勤務時間や業務成績などに基準を定め、その内容に基づいて支給金額の計算を行います。中小企業のボーナスは2016年だと平均で277,086円となっています。(参考:大阪シティ信用金庫-中小企業の冬季ボーナス支給状況

お盆や年末年始にかけて出費が重なるということで、慣例的に多くの企業が夏と冬の年2回に分けて支給していますが、支給日は会社によって様々です。またそれとは別に決算で大幅に利益が上がる場合に決算賞与を支給している会社もあります。決算賞与を支給すると、節税対策や従業員のモチベーションアップにもつながるという利点もあります。

賞与を支給する準備

賞与(ボーナス)制度がある会社がほとんどだと思いますが、先に述べた通り法律的には賞与の支給義務はありません制度として導入する場合には就業規則で賞与に関する規程(ルール)を作る必要があります。 (※正社員、パート従業員等雇用形態に関わらず常時10人の従業員がいる場合は管轄の労働基準監督署へ届出なければなりません) そして一度就業規則で規定すると、賞与の支給義務が生じます。規程を作る際には下記の点に注意しましょう。

賞与規定の対象者を明記する

まずはどの従業員が対象となる規程なのかを明確にしておきましょう。例えばパート従業員に賞与を支給しない場合は、対象となる従業員の範囲を明確に記載しなければパート従業員等への賞与の支払義務が発生するので注意が必要です。

(例) 「この規程は、社員の賞与について定めたものであり、この規程はパートタイマー、契約社員等には適用しない」

賞与の支給時期を記載する

賞与の支給時期については下記の例のように、「○月上旬」程度にしておくと良いでしょう。賞与の支払日を確定すると、その支払日に支払義務が発生してしまいます。また、査定条件を満たさない場合や支給日前に退職した従業員等は支給しないと規定しておくことで、トラブルの防止にもなります。

(例)  支給時期は原則として以下のとおりとする。ただし、原則として入社後6ヶ月を経過しない者および支給日に在籍しない者については賞与を支給しない。 ・夏季賞与 毎年7月上旬 ・冬季賞与 毎年12月上旬

会社業績によって支給しない場合があることを明記する

業績次第では支給する事が厳しい場合もあるかと思います。そうなった場合のことも考えて、下記のような文言を記載しましょう。この一言で業績低下の場合などは、支払義務がなくなります。

(例) 会社業績が低下した場合、その他やむを得ない事由がある状況によっては支給時期を変更、もしくは支給しないことがある。

査定期間、査定方法を明記する

賞与は従業員のモチベーションに大きく影響しますので、出勤率や人事考課等で公平に査定する事を明記します。しっかりと合理的に支給額を決定しているという事が対象の従業員に分かるようにしておきましょう。

(例) 賞与を計算するにあたり、出勤率および人事考課等の計算対象期間は以下のとおりとする。    夏季賞与 前年10月1日より 3月末日までの半期    冬季賞与    4月1日より 9月末日までの半期   1.各人の賞与の決定については以下に定める事項を勘案して行う。 ①資格等級および役職  ②対象期間内の人事考課 ③対象期間内の出勤率 ④その他特別の事項

元々就業規則がある場合は、賞与規程を会社で作成し変更届を管轄の労働基準監督署へ提出すれば手間や時間をかけずに制度の導入が出来ます。ただし、トラブルを防ぐためにも上記の内容には注意をして下さい。就業規則自体がない場合は就業規則を作る必要があるので、社会保険労務士に相談しながら会社で作成する又は社会保険労務士に作成依頼をする方が良いでしょう。作成依頼をすると1~2ヶ月程度の時間と数万円~数十万円(会社規模による)の費用がかかりますが、会社に合った就業規則が出来るので、トラブルが起きた場合でも対応しやすくなるでしょう。

対象になる従業員とは

一般的に賞与は正社員に支給されるものと思われがちですが、賞与には支給義務がありませんので、賞与制度を導入する際には会社が支給対象の従業員の範囲を自由に決めることが出来ます。ただし、パート従業員や役員等は下記のようにいくつか注意点があります。

正社員

どの会社でも正社員は支給の対象となるかと思いますので、就業規則の規程に沿って支給額を決定します。基本的に賞与の査定には「出勤状態」「成績」「勤務態度」などが一番影響するでしょう。そして各会社で作成した人事考課表などの評価点を支給額にプラスしている場合が多いようです。会社業績にもよりますが、基本給×2~4ヶ月分を年2回に分けて支給する事が一般的です。

パート、アルバイト従業員等

パートやアルバイト従業員に賞与を支給している会社は少ないですが、賞与を支給することに関しては特に問題はありません。ただし、就業規則に支給の対象であると規定しておかなくてはなりません。パートやアルバイト従業員は正社員よりも就業時間が少ない事が多く、正社員との違いを明確にするため、「寸志」として支給されることが多いようです。全員一律で支給するか勤務年数に応じて支給するか様々ですが、金額は約1~5万程度が相場のようです。特にパート従業員が扶養控除内で働きたいという場合は、賞与を支給して103万円を超えてしまわないよう注意が必要です。

役員

役員についても賞与を支給することは問題ありません。しかし従業員と違い役員の賞与は経費にはならず、うっかり支給してしまうと法人税や所得税、住民税などが課されてしまいます。従業員と同じように勤務している兼務役員に対する賞与など一定の条件を満たせば経費となる場合もありますが、一般的には役員賞与を支給せずに済むよう、経営計画をしっかり立て毎月の報酬を決定する方が良いでしょう。

査定条件を満たさない従業員

「賞与を支給する準備」でも記載しましたが、賞与支給日に在籍していない(※自己都合退職の場合)又は入社後間もない従業員に対する賞与については「原則支給しない」と定めておきましょう。何も規程がなければ、入社1ヶ月でも賞与を支給しなければなりません。原則支給しないと定めておき、賞与を支給する分には何の問題もありません。また、査定期間や賞支給日に産前産後休業・育児休業中の従業員の賞与についても会社に判断が委ねられています。特に女性が多い職種の会社は、トラブル防止のためにも「原則支給しない」と定めておくと良いでしょう。

賞与を計算する時の注意

賞与の支給額が決まれば賞与の計算をしなければなりません。毎月の給与計算とは計算の仕方が異なりますので、下記の点に注意しましょう。

健康保険料(介護保険料)と厚生年金保険料の計算

健康保険や厚生年金保険などの社会保険料は標準報酬月額に保険料率を掛けて計算しますが、賞与の場合は賞与額から1,000円未満の端数を切り捨てた額を標準賞与額とし、それに保険料率を掛けて計算します。

(計算例)  賞与額:352,500円の場合(東京都) →  標準賞与額: 352,000円

  • 健康保険料:352,000円x 9.96% x 1/2 = 17,529.6円 → 17,530円
  • 厚生年金保険料:352,000円x 18.182% x 1/2 = 32,000.32円 → 32,000円

※上記の料率は会社負担分・従業員負担分を合わせたものとなっているので、この率を掛けた1/2の金額を賞与から徴収します。 ※円未満は五捨五超入となり、50銭以下切り捨て50銭超は1円とします。 ※40歳以上65歳未満は介護保険料も対象になります。 ※都道府県別社会保険料率表(H28年度)→協会けんぽ

雇用保険料の計算

雇用保険に加入している場合は雇用保険も控除しなければいけませんが、こちらは毎月の給与から控除する場合と違いはありません。

雇用保険料率H28年度→厚生労働省

源泉所得税の計算

所得税の計算には社会保険料、雇用保険料の金額が必要ですので、必ず社会保険料、雇用保険料の計算の後に行いましょう。

①前月の給与から前月の社会保険料等を差し引き、前月の課税対象額を求めます。その金額と扶養親族等の数を「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」に当てはめて税率を求めます。 ②(賞与額 ― (賞与から控除する社会保険料 + 雇用保険料)) × 上記の税率で所得税を計算します。

賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表(H28年度)→国税庁

住民税

所得税は年間所得金額確定前に来年度分を概算で支払いますが、住民税は年間所得金額確定後、各市区町村で住民税を計算し、前年度分を支払う仕組みになっています。計算された住民税は月々の給与から住民税を徴収するので、賞与から住民税を徴収する必要がありません。

賞与を支給した後の手続き

賞与を支給した場合は、支給日より5日以内に「被保険者賞与支払届」と「被保険者賞与支払届総括表」を管轄の年金事務所又は健康保険組合に提出しなければなりません。この届出により賞与の金額を把握し、賞与にかかる社会保険料を徴収します。

賞与を支給しなかった場合には、「被保険者賞与支払届総括表」で不支給と記入して提出して下さい。

70歳以上の従業員に賞与を支給した場合は、老齢厚生年金の調整をするため「70歳以上被用者算定基礎・月額変更・賞与支払届」もあわせて提出します。

また、賞与支給の予定月を年金事務所に登録すると、支給予定月前に年金事務所から被保険者賞与支払届と被保険者賞与支払届総括表が送られてきますので、支給する事がある程度決まっている場合は提出漏れを防ぐためにも登録しておくと良いでしょう。

賞与支払届・総括表→日本年金機構70歳以上算定基礎・月額変更・賞与支払届→日本年金機構

まとめ

賞与は従業員にとってモチベーションアップの一つの要素です。会社側にとっても貢献してもらう手立てであり、経費として支給出来るのであれば一石二鳥です。

賞与の支給は法律上でも「義務」ではありませんので、支給してもしなくても会社の自由です。従業員が数名であれば社長が独断で賞与を決定するという会社もあるでしょう。しかし、退職時など万が一トラブルになった場合に支給条件等会社のルールを説明出来なければ会社側が不利になります。トラブルを防ぎ、万が一の時も対応出来るよう制度を整えておくに越したことはありません。

賞与の計算方法は毎月の給与計算と異なる点がいくつかあるので、注意が必要です。特に各保険料の料率は変更される事が多いので、今年度の料率を確認してから計算するようにしましょう。

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『人事労務の基礎知識』編集部
『人事労務の基礎知識』編集部
株式会社BEC内で、Gozal(ゴザル)の編集制作を担当する部門です。社会保険労務士/弁護士/税理士などの専門家執筆陣とともに、中小企業の労務・給与計算担当の方が実務上感じる不安を払拭できるよう、情報発信しています。「こんな記事を読みたい!」とTwitterやFacebookでメッセージいただければ、可能な限り執筆いたします。