「柔軟な働き方」を従業員が選べる制度の導入・運営のポイントを、ヨックモック社に聞きました。

執筆: 『人事労務の基礎知識』編集部 |

株式会社ヨックモックホールディングスにて、総務人事部・人事グループのグループ長・山口政徳さん/主任・池田晶子さん

洋菓子業界を約50年近くの長きに渡りリードしている、ヨックモックグループ。
 

創業期からの従業員も定年のピークを越え、新卒採用を積極的に展開していることもあり、平均年齢は以前に比べ若返り30代前半になっているといいます。また、洋菓子を製造・販売する企業の特性として、女性従業員が圧倒的に多いという特徴があるそうです。
 

今回は、そんなヨックモックグループの「柔軟な働き方」支援例を勉強させていただくため、東京・九段の株式会社ヨックモックホールディングスにて、総務人事部・人事グループのグループ長・山口政徳さん/主任・池田晶子さんに話を聞きました。
 
 

まず最初に、従業員の方の構成について特徴的な点があれば教えてください。

 

当社は、洋菓子の製造・販売を国内外で展開しています。グループの総従業員は750名程度おりますが、特に販売部門では女性スタッフが多く、ほどんどが女性従業員です。
 

会社設立から間もなく50年を迎え、設立時からの従業員の方の定年退職はピークを過ぎています。また、近年新卒採用を活発化させていることもあり、製造部門を除くと平均年齢は34歳となっており、年々若返りが進んでいます。
 

女性が多く、年齢層も30代前半ということで、ワークライフバランスにセンシティブな従業員が多いというのは、当グループの特徴だと思います。子育てをしている者は年々増加し、育休・産休中の従業員だけでも20名近くおります。
 
 

確かに、百貨店などのヨックモックで働いていらっしゃる方を見ると、女性の方が多いですよね。

 

はい。店舗に関しては、ほとんどが女性だと言っても過言ではありません。当社を運営していく上では、性別に関係なく、優秀な従業員が、各自のワークライフバランスを保ちながら、柔軟に働ける環境・制度を構築・運営することが重要です。
 

現在では、例えば柔軟な働き方を選べる制度について言えば、3種類準備しています。
 
 

3種類の「柔軟な働き方を選べる制度」について、詳しく教えてください。

 

当社の柔軟な働き方を選べる制度は、下記のような構成となっています。
 

  1. 育児・介護休業法に則った短時間制度
  2. キャリアサポートのための短時間制度
  3. 勤務時間の前倒し制度


 

順番に説明します。
 
 

まず育児・介護休業法に則った短時間制度についてです。この制度は、育児の場合法定どおりお子さんが3歳になった直後の4月末までという制限がありますが、管理職の従業員が、時短中も管理職のまま勤務できるという点が特徴です。
 

現在当社では、グループ長(課長相当)でこの制度を利用している従業員がいるほか、リーダー(係長相当)でも複数名が利用しています
 
 

次にキャリアサポートのための短時間制度(キャリサポ社員制度)です。育児と介護に限定し、育児の場合はお子さんが小学校1年生まで、介護の場合は通算で3年間利用可能です。
 

この制度を利用する場合は、管理職から一旦離れる必要があります。これは例えば、部長職の従業員が介護等で短時間勤務を3年間続ける場合、その責任と権限を持ったままでは、公私で心理的に負担がかかってしまうので、少しでもその負荷を減らして介護に集中してもらうのが良いのではないかという判断で制度設計しました。
 

制度の解除を申請すれば、再び管理職に戻ることが可能です。解除申請時に社内ポストの調整が困難な場合は、特命業務担当として、一定の地位や給与を保って職場に復帰できるシステムとなっており、柔軟性を確保しています。なお、短時間勤務の時間は、4時間と6時間から選択することができます。
 

キャリアサポートのための短時間制度は、当社独自の制度であり、制度設計の検討を幾度となく繰り返しました。例えば、店舗スタッフと事務職で内容を分けるべきかどうかについて。事務職だけを対象にすれば、店舗のように遅番対応などがないため、制度をより柔軟に設計できます。しかし当社は企画から販売まで一貫してお菓子に関わり、価値をご提供しています。店舗スタッフであっても、事務職であっても、短時間制度を利用したいと考えている従業員がいる限り、不合理な待遇差を作ってはいけないと判断しました。
 

当社では、2003年から新卒採用を本格化しており、その従業員のお子さんの年齢構成と制度対象者数を試算し、まずは小学校1年生までを対象として制度運営するのが妥当だと判断しました。
 

小学校1年生までというのは、店舗運営にとってかなりのチャレンジです。これは、当社のように店舗を構える企業に共通の課題ではないでしょうか。
 

多くの百貨店では、店舗の閉店時間は20時前後です。その後、レジを閉めたり、配送手配をしたりと閉店後作業が残っています。また、お歳暮などの繁忙期には、その閉店後作業が増加します。その対応をするのは、通称「遅番」と呼ばれる、後勤務シフトの従業員です。遅番の従業員は午後からの出社ですので、退社時刻は21時を超える場合があります。
 

短時間制度を利用する従業員は、ほとんどが遅番を避けたいと考えています。これは特に育児中の従業員をイメージしていただければ、理解していただきやすいと思います。短時間制度を利用する従業員が、全体の中で一定以上になると、店舗は営業できなくなる可能性があります。
 

キャリアサポートのための短時間制度の今後の課題は、お子さんの対象年齢をどう上げていくか、そして短時間制度利用社員が増えても、早番や遅番等の店舗のシフト組みをいかに行っていくかです。難しいテーマですが、今後の社員や店舗運営の状況を踏まえながら柔軟に制度改定を行っていく方針です。
 

正直、当社だけでは解決できない問題で、社会全体で男性の育児参加が進む必要があります。もちろん、業務改善などの努力で遅番オペレーションを軽減するといった企業努力は今後も進めていきます。
 
 

最後に勤務時間の前倒し制度について説明します。この制度はフルタイムのまま働きたいという従業員ニーズに対応したもので、現在の制度ではトライアルで勤務時間を1時間半前倒しできるようになっています。
 

対象者は、育児、介護、自分の通院をする従業員です。育児、介護については年間の利用上限はありませんが、自分の通院については1年間で最大12日まで利用することができます。
 

半休との使い分けについて説明しますと、この制度を導入する前は半休取得の上限が年10日だったのですが、制度導入後に無制限としました。これにより、例えば繰り越して有給休暇を最大で40日間持っている従業員は、80日まで半休を使う事が可能となりました。
 

最近ではこの制度を利用し、ご両親の入院介護をしている従業員がいます。
勤務時間の前倒しについて、現在は1時間半という制限を設けて運用しているのですが、前倒し時間をもっと柔軟に変えられるかどうか、こちらも今後柔軟に制度改定を行っていく予定です。
 
 

以上3つの制度は、独立したものではありませんので、今後は途中からキャリアサポートのための短時間制度の利用申請をする従業員も増えてくるのではないかと考えています。
 
 

制度の導入前に、従業員にはどのように告知するのでしょうか?

株式会社ヨックモックホールディングスにて、総務人事部・人事グループのグループ長・山口政徳さん/主任・池田晶子さん

まず、従業員向けに制度説明会を開催します。そして社員が見られるオンラインの掲示板に、制度の説明を掲載します。また、就業規則の変更を伴う今回のような場合は、就業規則も読んでもらうようお願いします。
 

また、当社では1 on 1(ワン・オン・ワン)のような上司と部下のコミュニケーション機会を重視しています。産休に入る前や復帰のタイミングで従業員と上司および人事担当者の面談機会も設けています。その際にも制度を案内しています。
 

当社は巨大な企業ではありませんので、従業員の方から私たちに直接質問がきて、それにお答えするといったコミュニケーションも行えているのではないかと思います。
 
 

男性の従業員の方も、制度は認知しているのでしょうか?

 

他の企業の状況はわかりませんが、当社の場合は認知していると思います。というのも、短時間勤務で働く従業員が一般化し、日常的な風景になっているためです。短時間勤務とはちょっと違いますが、育休を数ヶ月単位で取得する男性社員もいますよ。
 
 

ありがとうございました。

こちらこそ、ありがとうございました。
 
 

編集後記

子供の頃、ヨックモックの筒状の洋菓子(シガール)を初めて食べた時、口の中で解けながらバターの香りが広がっていく体験に衝撃を受けました。この文章を書いている途中ときおりその記憶がよみがえり、食欲をそそっていました。笑
 

顧客に衝撃(感動)を与える商品を提供するヨックモックの従業員の方たちを、山口さんや池田さんたち人事部門の方たちがさらに下から支えていると感じて、なぜか山口さんや池田さんに自分も感謝していました。