「労働契約法」で非正規雇用はどう守られているのか

執筆: 田中靖子(たなかやすこ)

労働者を雇用する際には、労働条件を話し合いを行い、労働契約を結びます。しかし、労働者は雇われる側であるため、弱い立場にあります。「労働契約法」は、会社が好き勝手に労働条件を決めてしまわないように、弱い立場にある従業員を守るために存在します。

労働契約法には、派遣やパートなどのいわゆる「非正規雇用」と呼ばれる人たちについてのルールも定められています。非正規雇用に関するルールは、近年大きく改正が行われました。今回は、非正規雇用に関する法律改正について解説します

法律改正で追加された3つのルール

労働契約法の改正で、新たに3つのルールが加わりました。一つずつ見ていきましょう。

1.「雇止めの法理」の法定化

「雇止め」とは、契約期間が満了したときに、会社が契約を更新しなければ、そこで雇用が終了することです。契約の更新がされるかどうかは、会社の判断に左右されます。

労働者としては、更新の時期が近づく度に、「更新を拒否されたらどうしよう」「今から職探しをして間に合うだろうか」と、不安を感じてしまいます。そこで裁判所は、「一定の条件がそろえば、会社が更新を拒否することはできない」というルールを作りました。これを、「雇止めの法理」と言います。

「雇止めの法理」は、裁判所が創り出したルールです。今までは法律に定めがありませんでした。法律に定めが無いので、裁判所がどのような判決を出すのか、事前に予測できないという問題がありました。今回の法律改正では、このルールがきちんと法律に定められました。

「雇止めの法理」は、労働契約法19条に定められており、既に平成24年8月10日から施行されています。

(A)ルールの対象者

雇い止めの法理の対象となる労働者は、次の2種類のケースです。

a)今までに何度も更新されたことがあり、更新拒否が実質的に解雇に相当する場合

今までに何の問題もなく契約が何度も更新されている場合は、「次も更新されるだろう」と考えるのが通常です。過去に何度も更新されているのに、突然会社から更新を拒否されると、実質的にはクビにされるほどのダメージがあります。そこで、今までに何度も契約が更新されている場合は、会社が更新を拒否することができなくなります。

何度更新されていればよい、という具体的な決まりがあるわけではありません。契約期間や契約内容によって、総合的に判断されます。

b)契約が更新されるだろうと期待することについて合理的な理由がある場合

「合理的な理由」という曖昧な表現になっているのは、様々な事情を考慮したうえで判断されるからです。

例えば、数年がかりのプロジェクトを任されており、上司から「あなたがプロジェクトの途中でいなくなってしまっては困るから、契約が更新されるように上に伝えておく」と言われた場合には、合理的な理由の一つとして考慮されます。

反対に、急病で入院した正社員の代わりに急きょ雇用されて、「入院期間の6ヶ月間だけお願いします」と事前に伝えられており、臨時的な業務のみ任されている場合には、合理的な理由がないと判断されます。

(B)手続き

このルールを適用するために複雑な手続きは必要ありません。単に、会社に「更新してください」と伝えるだけです。口頭で伝えても構いませんが、念のため書面で伝えておきましょう。書面で伝えておけば、万が一会社とトラブルとなった際に、証拠として提出することができます。

更新を希望することについては、契約期間が満了する前に伝えておきましょう。当然に更新されると信じている場合には、契約期間中に伝えそびれてしまうことがあるかもしれません。そのような場合には、契約期間が終了した後にすぐに会社に連絡して、「当然に更新されると思っていたので伝えるのが遅くなったが、今後も契約を更新してほしい」と伝えましょう。期間が切れた後に直ちに伝えたのであれば、法律上保護されます。

2.無期労働契約への転換

派遣やアルバイトの場合、雇用期間が1年や3年と限定されています。雇用期間が短いため、長期的な人生設計を立てることができません。契約が更新されたとしても、「今回は更新されたが次は更新されないかもしれない」という不安がつきまといます。

このような不安を解消するため、「契約が通算5年を超えて更新された場合には、労働者が希望すれば、自動的に期間の定めのない労働契約に転換することができる」という制度ができました。これを「無期労働契約への転換」といいます。

このルールは労働契約法18条に定められており、平成25年4月1日から施行されています。

 

ルールの2つのポイント

1つめのポイントは、「自動的に」という点です。

今までの法律においても、会社と労働者が話し合いをして、無期限の労働契約としてすることはできました。しかし、今回の改正によって、「労働者が希望すれば、会社が拒否することはできず、無期限で雇わなくてはいけない」ということになりました。会社と話し合いをする必要はありません。

会社の意向を気にする必要が無いので、労働者にとっては大きなメリットです。

 

2つめのポイントは、「期間の定めのない労働契約に転換する」という点です。

今までの契約が1年や3年という期間限定の契約であったとしても、この制度を使えば、好きな期間だけ働くことができます。結婚や出産の時期を気にすることなく、定年まで働くこともできます。

ただし、この法律では「契約期間が伸びる」ということしか認められていません。非正規の社員として無期限で働くことができる、という意味です。

勤務条件は今までと変わりませんので、基本給やボーナスは今まで通りの額が支給されます。派遣やパートとして働いている場合は、その地位が存続されます。正社員の地位となるわけではありません。

会社によっては、契約期間の転換をする際に、正社員に登用する制度を設けている場合もあります。他にも、給与やボーナス等の諸手当を見直す制度を設けている会社もあります。契約期間の転換をお考えの方は、会社の就業規則や雇用契約書を確認してみましょう。

(A)ルールの対象者

「今までの契約が通算で5年を超えて更新された場合」には、このルールの対象となります。起算日は、最初の契約が始まった時点です。

例えば、契約期間が3年の人は、契約が一度更新されただけで、通算で6年働くことになります。次の更新のときに、会社が更新を拒否したとしても、無期転換の申込みができます。

契約期間が1年の人は、契約が5回更新されれば、通算で6年となります。更新が4回の場合は、勤務期間の通算がちょうど5年なので、「5年を超えた」とは言えません。

このように、契約期間によって様々なモデルケースが考えられます。判断のポイントは、「続けて5年を超えて働いているか」です。更新の回数は関係ありません。

続けて5年以上働いていることが条件なので、途中で契約が途切れている場合は、ルールの対象外となります。これを「クーリング」と言います。ただし、契約が途切れている期間が6ヶ月未満であれば、契約が続いているものとみなされ、クーリングの対象とはなりません。

育児休暇で勤務しなかった期間がある場合は、育児休暇は正当な権利ですので、クーリングの対象とはなりません。

ただし、60才以上の労働者については注意が必要です。定年後に継続して雇用されている労働者については、制度の対象外とすることがでるという特例があります。定年後に再雇用されている方については、会社の就業規則や雇用契約書を確認してみましょう。

(B)手続き

契約が満了する前に、会社に「無期転換の申込みをする」ということを伝えましょう。

契約期間中であれば、いつでも申込みをすることができます。契約期間が満了する前に、早めに伝えておきましょう。口頭で伝えた場合も法律上有効とされていますが、口頭では「言った言わない」の争いの元となるので、書面で伝えることが得策です。会社に書面を提出する際には、念のためコピーを取って手元に保管しておきましょう。

会社によっては、無期転換の申込み用の書式を用意していますので、申込みをお考えの方は、会社に確認してみましょう。

3.不合理な労働条件の禁止

労働契約法20条では、不合理な労働条件を禁止しています。「不合理」とは、「派遣やパートの労働条件と、正社員の労働条件を比較して、待遇が不平等である」ということを意味します。

会社がこの法律に違反した場合は、その労働条件は無効となり、正社員と同等の条件で働くことができます。また、不合理な労働条件で働かされたことについて、会社に損害賠償を請求することもできます。

(A)ルールの対象となる労働条件

賃金に限らず、あらゆる労働条件が対象となります。福利厚生や教育訓練、災害補償や服務規律など、全ての労働待遇について適用されます。

(B)具体例

例えば、正社員と派遣労働者が、同一の工事現場で同一の危険な仕事をしている場合、全く同じ業務を担当しているのに、正社員には災害補償があり、派遣労働者には何の補償もない、ということがあります。

このような場合、不合理な労働条件に該当します。派遣労働者がケガをした場合には、正社員と同等の災害補償を会社が支払わなければいけません。

このルールは、既に平成25年4月1日から施行されています。派遣やパートを雇用している会社は、労働条件が不合理なものでないかどうか、一度確認してみましょう。待遇が不平等である場合は、就業規則を変更する等して、待遇を改善しましょう。

待遇を改善する際には、従業員にとって不利益変更とならないように配慮しましょう。正社員の待遇を派遣やパートの待遇に合わせて引き下げてしまうと、不平等さが是正されるとはいえ、正社員にとっては不利益変更となります。派遣やパートの待遇を正社員に引き上げるのであれば、問題はありません。不利益変更となるおそれがある場合は、労働組合ときちんと協議を行い、変更内容を労働者に周知させましょう。

まとめ

労働契約法の改正により、新たに3つのルールが加わりました。第一に、雇止めの法理が明文化されました。第二に、契約が通算で5年を超えて更新された場合は、無期限の労働契約を申し込むことができるようになりました。第三に、正社員と比べて派遣やパートを不平等な労働条件で雇うことが禁止されました。3つのルールにより、非正規雇用の労働者の保護が強化されました。正社員との格差は無くなりつつあります。非正規雇用の従業員を雇用している会社は、今一度労働条件を確認しておきましょう。

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田中靖子(たなかやすこ)
田中靖子(たなかやすこ)
東京大学卒業後、2009年に司法試験に合格、弁護士として会社設立や知的財産権等の会社法関連の業務を扱う。現在は海外に在住し、法律関連の記事の執筆や講演を行うなど、日常に潜む法律トラブルの情報を世界に発信している。