ベンチャー企業として異質なほどの組織力を持つSpeee、創業期から組織作りを牽引するキーマンの強烈なこだわり

執筆: 『人事労務の基礎知識』編集部

Speee、創業期から組織作りを牽引するキーマンの強烈なこだわり

Speee History」「社内IVS」など規模を拡大する過程で生じた課題や失敗を組織として共有し、次の意思決定に生かしてきたSpeee。同社の中で創業期から、組織作りを牽引してきた坂本明美氏に、同社の失敗の歴史と課題の乗り越え方についてお話をお聞きしました。

 

Speee社の現在の状況と坂本氏の参画きっかけ

ー現在のSpeeeの組織体制はどのよう規模になっていますか。

10期を迎え、正社員が約250名、パートやアルバイトを含めると約500名の組織です。その500名が、大きく5つの事業部に分かれて日々活躍しています。各部門ごとに役職としては2〜5つの階層がありますね。創業期から存在しているWebマーケティングの事業部がもっとも人数が多く、130名程の事業部となっています。私がジョインした創業期と比較して、大人数となりましたし、新規事業の数も増え、事業部も複数に分かれているなと改めて思っています。

 

ー坂本さんは創業期からSpeeeで働かれているとのことでしたが、参画されたきっかけを教えてください。

Speeeに入社する前は、リンクアンドモチベーションという会社に新卒で入社し5年間ほど在籍しておりました。ベンチャー企業のクライアントに対して、組織コンサルティングを提供する事業の営業職に従事しておりました。クライアント企業の中に入り込んで、採用制度、評価制度、育成制度などワンストップでコンサルティングをしていくPjtを経験させてもらい、リンクアンドモチベーションがまだ未上場で80名規模の時に入社をしてから、退職時には一部上場500名規模の会社になっていました。

当時の業務では、プロジェクトベースでクライアントの組織作りをお手伝いする形だったのですが、1つの会社でじっくりと組織や風土の構築・運用をやってみたいという思いが年々強くなっていき、そんな時に出会ったSpeeeに参画することになりました。

 

ーSpeee入社時から現在にいたるまで、どのようなお仕事をされてきたのか教えてください。

speee03(株式会社Speee HR戦略マネージャー 坂本明美氏)

入社した当時は社員が20名くらいの規模で、SEO事業のみを展開しておりました。現代表の大塚がSEOコンサルタントとしてクライアント対応もしつつ、人事も兼任している時代で、より採用や人事に注力するフェーズとなり人事総務専任として入社しました。

 

私の入社以前からSpeeeは、社員のモチベーションを高めるための施策を積極的に行っておりまして、年4回ほど優秀な成績を収めた社員の表彰式を開催するイベントを行ったり、毎年社員旅行にも行ってました。新卒・中途の採用面接全般、給与計算などの労務、風土形成イベントの運用など人や組織に関わることは幅広く任せてもらうことができました。

それから企業規模も大きくなるにつれて人事総務チームも今では20名ほどになっております。私は2014年に産休に入り、2015年に復帰をしてからは人事総務チームとは別に「HR戦略」というユニットを作って、配属されています。人事・組織に関連して、何か新しい仕組みを作ったり、発生した問題を解決していく専門機関としての役割を担っています。

 

急成長する組織に生じる課題と乗り越えていくために必要な考え方

ー創業期(従業員30名前後)の時期における組織課題について教えてください。

創業期の人事について課題が生じた領域として、大きく2つあります。1つは採用、もう一つはロイヤリティの維持向上です。30人規模の会社が採用を行う場合、面接官と採用候補者がのちに同じ空間で働くことになります。面接をした人間は、採用した人が活躍できずにくすぶっている場合でも自分が採用した結果であると受け止めなければなりません。候補者の良いところも課題点も含めて採用責任を持つという意識が非常に重要となります。

 

しかし当時は、面接や書類を通じて候補者を採用した場合に起こりうるリスクや問題点を分析をすることはしっかりとやっていましたが、課題点も踏まえて責任を持って最終的な意思決定を行う意識が会社として弱かったようにおもいます。ベンチャーの創業期には、採用プロセスのあらゆる部分で十分な準備をすることができません。魅力的なオフィス環境、働きたくなるような会社の紹介ページ、作り込まれた採用プロセス定義書などはありませんでした。あれもこれも準備して対策を行うことには限界があると思っています。だからこそ、面接を担当する人間が非常に重要で、できれば採用のフロント部分を経験してきた人が面接の担当者となり、代表・創業者と同じレベルで夢や想いを語れるような力も備えている必要があると思います。ベンチャーの採用では、採用担当者が覚悟と責任を持って、夢や想いを軸に口説いていくことも重要だと今でも思います。できれば代表が面接をした方がいいですが、毎回代表が話せるわけではないので、採用担当者が代表の想いを汲んで話せる必要があると思います。

 

ロイヤリティの維持向上も苦労したことの一つです。当時は離職する社員も少なくはありませんでした。離職の原因の全てを確認することはできませんが、会社の方針と社員個々の意志のベクトルをあわせる活動がうまくいっていなかった、また十分それが行えるほど人事もマネジメント陣も経験値が足りていなかったと、いま振り返ると感じています。不満や課題意識があるメンバーと表層的な言葉のキャッチボールはできても、想いの部分でキャッチボールはできていなかったことも少なからずありました。

ただ、やはり経験をしていく中で会社としても想いを共有していくことの重要性を認識し、頻繁に社内イベントを実施して交流機会をつくったり、過去の意思決定の歴史を共有したり、様々な施策を行っています。結果として離職率も大幅に改善しています。これらの風土が構築できたのも創業期の失敗や苦労を話で聞いたのではなく、実際に会社として経験し、乗り越え、反省点を次につなげてきたからだと思っています。

 

ー100名を超える組織に移っていく中での失敗や難しさを教えてください。

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(株式会社Speee HR戦略マネージャー 坂本明美氏)

経営における人事側面での失敗というと「本意ではない退職がでてしまうこと」また、「それを起こした原因の根っこを早期発見できない、もしくは、解決能力が自分たちに足りない」という経験が、”失敗”に該当するのかな、と思います。また、”失敗”までいかなくとも、”危険信号、危機”という意味では、「社員のやる気の低下がパフォーマンスや業績に影響を与えてしまう状況」、これも組織開発において人事が未然にどれだけ察知し、”失敗”にまで至らないよう、組織をリカバーするか、が重要だと考えます。その観点で、Speeeで私が在籍してきた7年を振り返ると、2、3度は失敗の経験をしたと感じています。

 

アーリーステージの場合、全体をみて意思決定する人と、その意思決定の背景を理解して具体業務をやる人が同一(創業期あるあるでいろんなことを1人の人間が担う現象)もしくは、具体業務をやる人の間近に意思決定の人がいるので、本質がずれていかないので、スピード感やクオリティが担保されやすいと感じます。しかし、規模が数百名になり、フロアが複数に別れてくるステージになると、具体業務を遂行している人が、「何のためにこの業務を行うのか?」を理解することの物理的難易度があがるため、少しずつ「目的を見失った業務」が横行していくことになります。

 

そういうシグナルに気づいたタイミングで、しんどいことかもしれませんが、ひとつひとつの目的を共有したり、考えてもらう、その上で、「昔は必要だったかもしれないが、今のステージでは不要だよね」ということを自分たちで導き出して、「過去慣性通りにやるではなく、やめる」ということも実行できるようになっているかどうか、が拡大した組織の中で、新規メンバーも業務にオーナーシップをもてているかどうかの見極めポイントだと感じます。大塚が「SpeeeHistory」という社内の事業組織の歴史を記している社員限定公開の読み物があるのですが、その目的も「過去の意思決定の歴史を情報公開することで、今のベストな意思決定に活かしてほしい」という思いがあります。

 

斬新な人事制度の裏にある10ヶ月間に渡って行った全パターンのシミュレーション

ー新しい人事制度を導入するプロセスと運営時の苦悩について教えてください。

全員が喜ぶ人事評価制度をつくることは難しいので、「なぜ導入するのか?なぜ変えるのか?」を濁さずに、可能な限り率直に伝えられる設計にする、ということを心がけてきました。人事評価制度は現在のものでver.4になりますが、最も大変だったのは、グレード制度の導入でした。グレード制度とは、複数の事業部があるSpeeeグループの全メンバーに階級をつける仕組みで、誰がどのグレードの社員なのか分かるようになっています。グレードによって、果たすべき役割や要求される水準が伝達され、社員の意識付けになっています。

 

このグレード制度の仕組みを構築するために、10ヶ月ほどにわたって、役員とともに、「社員のキャリア変遷」「事業の変遷」「職種の多様化」などの未来予測をしつつ、Speeeの評価制度はどうあるべきかを考えてきました。当時はまだSEO事業とメディア事業がはじまったばかりという事業ステージでしたのでこれから始まるtoC事業や、今後増えていく開発系メンバーにもフィットする評価制度とは?を想像し、関係者間の認識をそろえることが難しかったですね。

 

また、育成の方針設計も工夫が必要でした。将来的にはスペシャリストは増えるだろうが、あえて100名未満のタイミングではスペシャリストコースを形成せずに、ゼネラリストコースのみにし、スペシャリスト的特性の社員にも、全体感を理解してもう事を求めていく方針などをきめました。それはそれ以降一気に組織が拡大した際に、あとから入社した社員に会社の価値観やルールを伝えられる人が増え、拡大期を支えたと感じています。

 

人事評価制度は、つくる側の人間は作り込みたがるという罠にはまりがちな業務だとおもいますが、使われて、役立てるかどうかを何度もシミュレーションすることが何より大事だと思います。思いつく全てのパターンでシミュレーションを行った上で、さらに「こういうケースではリスクはないか?」という疑問を出し尽くす。そういった努力抜きでは質の高い制度はできないと考えています。また新しい人事制度のネーミングは工夫するようにしています。言葉で文化が作られていくと思うので、一つ一つの制度に対して、手は抜かずに名前の設定まで全力を尽くします。ネーミングに価値観を乗せて、制度をスタートすることが重要だと思います。

 

ーメンバーの最適配置を実現するための仕組みとして何か制度はありますか。

最適配置のための仕組みとしては、2つの制度があります。1つは事業部の中で異動を行う制度で、「Growing(グローウィング)」と呼ばれています。もう一つは事業部外異動を行う制度で「PS(Personal Shift)」と呼ばれています。「グローウィング」は事業部内で職種を異動させて、新しいチャレンジを支援する仕組みです。「PS」は事業部をまたいだ異動となるので、事業部間の利害などが反することもあります。事業部のトップ同士の話し合いだけだと決まらないこともあります。そこでHRがエージェントのような形で間に入って、まず本人の希望を聞きます。その後、異動先の事業部に目的や役割を伝えて協議し、その上で異動元の事業部に伝えてスケジュールや抜けたポジションの対策を協議、実行していきます。
将来的な幹部候補としての成長を考えるとこれらの制度を通じて、異なる部署・事業部に異動して多様な経験を経て成長することが重要だと考えています。またずっと同じ部署職種にいると優秀な社員ほど飽きてしまったり、視野狭窄になる可能性もあるので、希望に応じて効果的な異動ができる仕組みを作っています。

 

Speeeの組織作りを牽引してきた坂本氏が考えるベンチャーの人事

ー変化の激しい組織における人事の役割の定義についてお考えをお聞かせください。

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(株式会社Speee HR戦略マネージャー 坂本明美氏)

人事はとてもシンプルな役割だと私はおもっています。「社員に活躍してもらう」これに尽きると思います。社員が活躍することで会社の業績はのび、お客様・ユーザーにも価値が届けられるとおもいますし、本人も自己肯定感を得られ意欲に満ちてきます。その状態を理想に描き、もし、活躍していない社員、グループがあれば、その問題の本質をさぐり、関係者を巻き込んで、風土やルールや業務を変えていく、ということが大事だと思います。問題の本質は、案外本人だけということは少なく、環境や職種適正なども大いにからんでおり組織へのアプローチになることもあります。

「社員に活躍してもらう」ことにどれだけコミットできるかがベンチャーの人事を担う上でとても重要だとおもいます。いい人を採用した、他社にない制度を導入した・・・では、人事のミッションを達成するための通過点でしかなく、採用した社員が、既存の組織に溶け込み、力を発揮し続けられることを実現するために、どれだけ愚直に踏み込んで行けるかが重要だと実感します。。一人一人の仲間が活躍することに強烈なこだわりを持って、考え続けることが人事の役割だと信じています。

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『人事労務の基礎知識』編集部
『人事労務の基礎知識』編集部
株式会社BEC内で、Gozal(ゴザル)の編集制作を担当する部門です。社会保険労務士/弁護士/税理士などの専門家執筆陣とともに、中小企業の労務・給与計算担当の方が実務上感じる不安を払拭できるよう、情報発信しています。「こんな記事を読みたい!」とTwitterやFacebookでメッセージいただければ、可能な限り執筆いたします。