勤務間インターバル制度で先行する3社の現状(2017年後期版)

執筆: 『人事労務の基礎知識』編集部 |

勤務間インターバル制度のイメージ画像

心身ともに、前日の仕事の疲れを残さないよう働く事の重要性が専門家によって指摘されています。終業時刻と翌日の始業時刻の間に一定時間あける事を制度化する仕組み、いわゆる「勤務間インターバル制度」は、働き方改革に関連して今後どう法制化していくべきか活発に議論されている領域です。
 
今回の記事では、勤務間インターバル制度で先行する企業として著名な「本田技研工業株式会社」「ユニ・チャーム株式会社」「KDDI株式会社」の事例について最新情報を紹介します。
 

インターバル制度をとりまく環境

安倍首相が主導する「働き方改革」の実行計画では、勤務間インターバル制度について下記のように言及しています。
 

労働時間等の設定の改善に関する特別措置法を改正し、事業者は、前日の終業時刻と翌日の始業時刻の間に一定時間の休息の確保に努めなければならない旨の努力義務を課し、制度の普及促進に向けて、政府は労使関係者を含む有識者検討会を立ち上げる。また、政府は、同制度を導入する中小企業への助成金の活用や好事例の周知を通じて、取り組みを推進する。

 

「労使関係者を含む有識者検討会」について

働き方改革実行計画に従い、厚生労働省によって「勤務間インターバル制度普及促進のための有識者検討会」が設置されています。この検討会では、労使の代表、及び学識経験者が集い下記3点を中心に話し合いが行われています。

  1. 国内における勤務間インターバル制度の導入状況などの実態や課題の把握
  2. 諸外国における勤務間インターバル制度と運用状況の把握
  3. 勤務間インターバル制度導入促進を図るための方策

 

「中小企業への助成金の活用」について

中小企業を対象に、最大50万円を上限に「勤務間インターバル制度」に取組んだ際の経費の一部を支給する助成金が提供されています。

支給の対象となる「取組内容」

  • 労務管理担当者に対する研修
  • 労働者に対する研修、周知・啓発
  • 外部専門家(社会保険労務士、中小企業診断士など)によるコンサルティング
  • 就業規則・労使協定等の作成・変更(時間外・休日労働に関する規定の 整備など)
  • 労務管理用ソフトウェアの導入・更新
  • 労務管理用機器の導入・更新
  • その他の勤務間インターバル導入のための機器等の導入・更新

支給の対象となる「成果目標」

  • 事業主が事業実施計画において指定したすべての事業場において、休息時間数が「9時間以上11時間未満」又は「11時間以上」の勤務間インターバルを導入すること。

申請締め切りは、2017年12月15日(金)です。自社が対応するかについて社会保険労務士等に相談してみるのもよいでしょう。

「本田技研工業株式会社」事例の最新情報

本田技研工業株式会社(以下、HONDA)は、F1に代表されるスポーティーでミニマルなブランドイメージで、国内外にファンの多い自動車メーカーです。HONDAはまた、国が制度化する前に先進的な労務ルールを社内導入し続けていることでも知られています。

労働法制に先駆け、独自の労務ルールを導入

HONDAの創業精神は、「人間尊重」。

  • よく働きよく遊べ
  • 高効率高賃金
  • 時間を尊重する

上記3つを見ると、まさに今進行中の「働き方改革」の精神と通じるものがあり、創業者の先進性を感じます。HONDAはこの精神に基づき、多様な従業員一人ひとりが持つ力を発揮可能なよう、働きやすい職場環境作りに力を注いでいるといいます。
 
HONDAの先進的な労務管理の沿革

  • 週休2日制(完全5日制)を実行したのが1973年。これは、1988年に週40時間/1日8時間の法制化に先立つこと15年前である。
  • 有給休暇取得促進を1970年代頃から行い、現在では有休取得率は概ね100%である。
  • 勤務間インターバル制は、1970年頃に「深夜業における翌日出社時間調整ルール」として導入済みである。

1970年といえば、いまから40年以上前。日本はまだ高度成長が続いており、その環境下であることを考慮するとよりHONDAの凄さが理解できます。

『深夜勤務における翌日出社時間調整ルール』概要

基本情報

  • ルールの対象:労働組合員約37,500名 ※2017年3月時点
  • ルールの規定文書:事業所毎に労使で締結している時間外勤務協定書

事業所ごとの時間外勤務協定書に記載されているルール詳細
仕事の特性や通勤事情を考慮し、休息時間を領域毎に設定されています。

領域勤務終了時間翌日出社時間休息時間
生産領域23:30~00:2910:00~9時間半~11時間
終業時間帯によって変動
00:30~02:2913:00~
02:30~連勤休
研究開発領域22:15~8:15~
※22:00を起点に15分単位で遅らせる
※17時間の連続勤務で連勤休
10時間
本社領域22:15~10:15~
※22:00を起点に15分単位で遅らせる
※17時間の連続勤務で連勤休
12時間

実運用の考え方は、下記の通りです。

  • 22時を超える働き方が必要であると判断された場合、当日15時までに勤務終了時間と翌日の出社時間を労働組合に通知し協議を行う
  • 所定労働時間の開始時間と翌日出社調整時間との差は、勤務時間としてみなす。 例)始業9:00で翌日出社調整時間が11:00の場合、9:00~11:00の2時間を勤務したものとみなす
  • 原則的に出社調整時間前の勤務は認めていない。但し業務特性を踏まえ協議の上、認める場合がある。その際、みなし分の賃金に加えて割増賃金を支給する

自社での評価

『まれに生じる長時間労働が避けられない事態や突発の呼出し就業において、十分な休息時間を確保するための緊急避難的な規定であり、日常的にこのルールが適用されるものではないことが前提』として運用し、以下のメリット(/デメリット)があるとしています。

メリット

  • 深夜勤務における負担軽減につながっており、メリハリある働き方や安定的な生活サイクルを作り出すことができている
  • 労使で従業員の働き方を把握できる仕組みとなっており、きめ細やかなマネジメントが徹底できている

デメリット

  • 無し
  • 業務特性を踏まえたルールを職場ごとに労使で定めているため、事業影響はない

「ユニ・チャーム株式会社」事例の最新情報

ユニ・チャーム株式会社(以下、ユニ・チャーム)は、女性用品やおむつ等を国内外で生産・販売するメーカーです。

「“信念と誓い”と企業行動原則」を定めています。

  • お客様への誓い:私たちは、常に全力で尽くし続けることによって、No.1のご支持を頂くことを誓います。
  • 株主への誓い:私たちは、業界一級の利益還元を、実現することを誓います。
  • お取引先への誓い:私たちは、公平で公正な関係を保つことによって、お互いの健全な成長の実現を誓います。
  • 社員への誓い:私たちは、ひとりひとりに自信と誇りを提供し、社員及びその家族の幸福を実現することを誓います。
  • 社会への誓い:私たちは、全ての企業活動を通じて、そこに携わるひとびと、及び社会全体の、経済的かつ精神的充足に貢献することを誓います。

ユニ・チャームの掲げる「働き方改革の目的」

  • 社員一人ひとりが健康でいきいきと活躍出来る働きがいのある会社を目指します!
  • 勤務間インターバル制度や在宅勤務制度等を通じて、一人ひとりが最重点戦略に思考と行動を集中し、無駄を排除することで、効率的な働き方を推進します。
  • また、労働時間の短縮により創出した時間を自己成長の機会に活用するなど、公私の充実を目指す働き方を進めて参ります。

「勤務間インターバル制度」概要

ユニ・チャームでは「休息時間を確保することによる社員の健康・安全・集中力の維持」を目的として、2017年1月よりユニ・チャームに勤務する全社員(約1600名)を対象として勤務間インターバル制度を導入しています。

ルールの規程は、就業規則に書かれています

  • 勤務終了時刻から次の勤務開始時刻までの間に、最低8時間以上の休息時間を確保しなければなりません。

「8時間」の根拠については「社内の実勤務時間の実態、科学的・医学的見解、他社の状況等を勘案」し「労使協議の上、まずは『最低8時間を義務、10時間を努力義務』に設定」したとしています。

 

防止策・警告システムについて

ユニ・チャームでは、そもそもの残業を防止するために、22時を過ぎると30分間隔で社員のPCに残業防止アラートが出るようにしています。

同社ではWeb勤怠システムを導入しており、翌朝出勤時にインターバル時間が確保できていない場合は、打刻画面で「勤務インターバル制度:違反」と表示され、メールでも本人と上司に警告が送付されるようになっています。

メールを受け取った本人と上司は、1週間以内に代休・有休・勤務時間等で調整する必要があり、それがなかった場合は、「改善報告書」を人事に提出する義務が発生します。

自社での評価

勤務間インターバル制度の課題として、ユニ・チャームでは下記3点を挙げています

  • 制度の周知徹底と意識と行動変革
  • 正しい勤務実態の掌握
  • 持ち帰り残業の防止

これら3点は、残業防止策の導入を開始した企業に共通して見られるものではないでしょうか? 制度の精神が従業員に根付くまで、ルールの微調整をしつつ、粘り強く運用する必要がありそうです。

「KDDI株式会社」事例の最新情報

KDDI株式会社(以下、KDDI)は、情報通信分野で国内有数の巨大企業です。コンシューマ向けサービスでは「au」ブランドの携帯電話サービスで良く知られています。

「勤務間インターバル制度」の沿革

KDDIは自社で通信設備やサーバ等の運用を行っているため、運用保守部門に限定して会社発足当時から「輪番・交代勤務(夜勤・宿泊)における「連続勤務」の禁止」をルール化していました。

  • 2000年:KDDI発足。通信設備の運用保守部門に限定し「輪番・交代勤務(夜勤・宿泊)における「連続勤務」の禁止」をルール化
  • 2015年:「勤務間インターバル制度」を全社員に拡大。健康管理のためのインターバル指標(:8時間あける)の導入
  • 2017年:健康管理のためのインターバル指標を「8時間あける」から「11時間あける」に変更

インターバル時間変更の根拠

1. 総務省『社会生活基本調査-生活時間に関する結果(平成23年)』

  • 睡眠や食事などの「1次活動時間」の週平均時間は、1日あたり9時間54分
  • 通勤時間の週平均は、1日あたり1時間10分
⇒ 労働時間以外の生活時間は「11時間」(9時間54分+1時間10分=11時間4分)

 

2. 厚労省『脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準について』/『時間外労働時間数と脳・心臓疾患発症の因果関係について』/『過労死等防止対策推進法』(平成26年11月1日)

  • 業務と、脳や心臓疾患発症との関連性が高いといわれるのは、発症前の1ヶ月間で「時間外労働時間数が概ね100時間超」、2ヶ月間、または6ヶ月間で「時間外労働時間数が概ね80時間超」
⇒ 1日あたり12時間労働すると、「過労死ライン」とされる「時間外労働80時間」となる。24時間-12時間で、1日の休息時間として12時間の確保が健康の観点から望ましい

 
⇒1、2を考慮して、「11時間」に変更
 

勤務間インターバル制度の規程文書

就業規則にて、非管理職(契約社員、嘱託等含む)を対象として勤務時間としてのインターバルを義務化
規定内容は;

  • 時間外労働を含む当日の勤務終了時刻から、次の勤務開始時刻までに最低8時間のインターバルを設ける
  • 裁量労働制社員は、当日の労働時間が13.5時間を超えた場合に適用する。 13.5時間は、所定就業時間7.5時間+36協定で定める1日残業時間の上限6時間の合計値

自社での評価

  • 導入前は、一部で否定的な意見もあり、導入による混乱も危惧されたが、導入は想定以上にスムースに実施され、業務への目立った影響等は確認されていない。
  • 制度の性格上、インターバル確保の可否確認などは全て、「事後」にならざるを得ないため、実際の運用においては社員・上司への継続した啓発活動が重要。
  • インターバル確保自体は目的ではなく、他の勤務制度との相乗効果を期待。また、断続的勤務にならざるを得ない社員への例外適用なども整備が必要。

まとめ

「勤務間インターバル制度」は、労務管理で先進的な大企業において、名称は違えど古くから導入されている制度です。

「夜遅くまで働いたら、翌朝の出社はゆっくりでいいよ」というのは、明確に制度化されていないにしても、中小企業でもよく耳にする声掛けではないでしょうか。中小企業についてはそれを制度化して運用すると支払われる補助金があります(2017年12月15日申請分まで)。

制度化するにあたっては、自社の実情を正確に把握した後、今回紹介した「本田技研工業株式会社」「ユニ・チャーム株式会社」「KDDI株式会社」などの先行事例を参考に検討すると良いでしょう。

出典