スタートアップに在宅勤務制度はフィットするのか?専門家と話し合ってみた
執筆: 有馬美帆 | |
今回は、スタートアップでは採用すべきか否かがよく議論になる「在宅勤務制度」についてお送りいたします。今回はクラウド労務管理サービス「Gozal」を運営する弊社の代表取締役 高谷と、スタートアップの労務支援に強い社労士シグナルの特定社会保険労務士 有馬美帆さんが二人で在宅勤務制度について考察してみました。
有馬美帆さん
社労士シグナル/特定社会保険労務士スタートアップのクライアントを多数抱えており、IPOに向けた労務管理・人事制度の整備を提供。
高谷元悠
株式会社BEC/代表取締役クラウド労務管理サービス「Gozal」を運営している会社の中の人。
在宅勤務を採用したGozal開発チームの実情
有馬さん
BECさんは在宅勤務についてどうお考えですか?
高谷
働き方は自分で考えて決めてもらっていますので、在宅勤務が人生の幸福度や仕事のパフォーマンスを向上させると思うなら、チャレンジしてもらえるようにしています。
有馬さん
なるほど!現在すでに導入されているということでしょうか?
高谷
入社から6か月間は在宅勤務原則禁止という導入方法をとっています。会社のこと、サービスのことなどを肌で感じてもらいたいですし、既存メンバーとコミュニケーションをとって欲しいと思っているからです。
有馬さん
入社から6か月は、指導や教育のために在宅勤務禁止だけど、それ以降はOKということですね。
高谷
6ヶ月後は目的と理由を申請をして、チームの承認を得れば誰でも在宅勤務を含めて自由な働き方をしていただくことが可能です。
有馬さん
チームの承認が必要というのは良いですね。期限が守れなかったり、仕事に対してルーズな方は承認が下りない場合もあると。
高谷
一定期間、お互いのことを知る機会を設けた後は自分で考えた働き方を実行して欲しいと思っています。
有馬さん
在宅勤務をしている人はいらっしゃいますか?
高谷
います!
有馬さん
従業員全体で何%程度の方が在宅勤務をしていますか?
高谷
約10%の方が利用していますね。
有馬さん
その方たちは月に何%程度、在宅勤務をしているのでしょうか?
高谷
月に2,3日くらいですかね。
有馬さん
在宅勤務をしている方からは、どのように働きやすくなったという声が挙がっていますか?
高谷
例えば、場所を変えて集中して作業したいとか、その日の気分によってじっくり企画を練りたいという場合に、家でやることで効果があるという方もいますね。
有馬さん
逆にチームの方からは、仕事がしにくいという声は挙がることも想定はされますが。
高谷
弊社だと在宅している場合も、月に2,3日だけなのでコミュニケーション不足になるとかはあまり感じていません。今のところは特に問題はないかなと思います。
在宅勤務が向いてる組織とはどういう組織か?
高谷
社労士さんとしていろいろな会社を見られていると思うのですが、在宅勤務を適用することが向いている企業はどういう会社だと思いますか?
有馬さん
仕事と育児・介護の両立をしているメンバーが多い会社であれば、在宅で仕事ができるという面で両立はしやすく向いていると思います。具体的には、一般的な婚姻時期を迎える世代または親族の介護が必要となる世代のメンバーが多い会社などです。
育児・介護やご家庭の状況によっては、在宅でないと仕事ができないという方もいると思いますので、そういった方々でも安心して働いてもらえる会社を目指すのであれば、在宅は必須という場合もあるかもしれません。
職種でいうと、エンジニアやクリエイター、ライター、翻訳などが考えられます。つまり、働く場所は関係なく、個人で時間をかけて企画したり創作するような業務の場合には、比較的相性がいいと考えられるということですね。
また在宅勤務というと、全日在宅勤務を考えられる方が多いのですが、数日のみ在宅勤務も選択肢として考えられると良いかなと思います。月に数日だけ在宅勤務を許可したり、1日のうちでも半日だけ在宅勤務を許可するなどのパターンも検討されても良いかと思います。
最近ではIBMが在宅勤務を一部を廃止したニュースもありましたので、会社によっては合わないことも当然あり得ることにもご留意頂きたいと思います。
在宅勤務によるメリットと、デメリットは何か?
高谷
では在宅勤務制度によって実現できるメリットは何だと思いますか?
有馬さん
まずは先ほどの話と重なりますが育児と介護の両立がやりやすくなるということです。育児介護の状況に応じて、在宅で勤務できるとありがたいという方は少なからずいらっしゃると思います。
そして優秀な人材の採用・離職防止策として機能する場合もあると思います。自由に働けるということに魅力を感じる方にとっては、在宅勤務は魅力的な制度だと思いますので、採用でも有利になる場面もあります。長時間労働などが問題になっている会社では、労働時間の抑止にも繋げやすく、離職を防止する施策としても考えられますね。
あとは、企業イメージの向上につながる場合もあるでしょう。在宅勤務は自由な働き方を推奨しているというイメージを社会に発信する材料と言えるので、間接的ではありますが、在宅勤務によって得られるメリットの一つと思います。
最後に、よく言われることですが通勤時間の削減にも効果があります。在宅勤務なので、当然通勤がなくなります。通勤によるストレスやコスト、時間を削減することができるのでこの点も大きなメリットかなと思います。オフィスから遠く離れた場所で暮らしている従業員ほどメリットは大きくなると思います。
高谷
ありがとうございます。では、在宅勤務制度のリスクやデメリットはどういった部分にありますか?
有馬さん
直接オフィスで同じ空間で仕事をしていると、上司が部下に対して指導・教育を行うことがあると思うのですが、在宅勤務だとそれが出来にくくなります。
指導や教育は仕事の話をしている中で、「こうした方がより良くなるかもしれない」などのアドバイスを送るという場合もあると思うので、一緒にいないとそのような会話をする機会はどうしても減ってしまいます。
またオンラインだと複数人での打合せがやりづらい部分があります。スカイプなどで複数人でミーティングをする場合、少しやり方に工夫したりする必要が出てくると思います。
最近では雑談の重要性を指摘する意見もあると思います。在宅勤務の場合だとこの雑談が生まれにくい性質があり、雑談のメリットを受けることができなくなると思います。
在宅勤務だとサボる社員が出てくるのではないかという意見も時々聞きます。このリスクもデメリットとして考えられるでしょう。
在宅勤務制度の導入の流れ
高谷
うちも導入するときにいろいろ社労士さんに相談しました。在宅勤務制度の導入は難しいのでしょうか?
有馬さん
在宅勤務制度の導入自体は難しくありませんが、しっかりとした規則を作る必要があります。在宅勤務の規定のポイントとしていくつか紹介します。
在宅勤務の規定のポイント
①業務の範囲は具体的に明示する
→経理業務、企画書の作成編集業務など。
また、会社が必要と認めて指定した業務…という規定を入れることで、ある程度の柔軟性をもたせることが出来るでしょう。
②適用範囲は明確にする
→入社半年以上経過したもの、自宅に送受信可能なパソコンなどの機器を有するもの、その他会社が必要と認めて指定したものなど。
③申請方法も手順を含め明確にする
→当日の朝にメールで申請すればいいのか、前日の業務時間終了時までにメールで申請すればいいのか、所定申請書類を設けるのかなど。
会社の判断や諸事情により在宅勤務を中止する場合も想定されるため、業務上その他の事由により在宅勤務の承認を取り消すことができる旨の規定をいれるなど、柔軟性をもたせることが望ましいと考えます。
④在宅勤務の頻度の設定をする
→1カ月に3回まで、1年間に通算して30回まで、その他会社が必要と判断した場合など。
⑤在宅勤務時間の取り扱いを明確にする
→所定労働時間勤務したものとみなすか、9:00-18:00とするのか、本人の自己申告制で1日8時間とするのか、在宅のみフレックスタイム制を導入するのかなど。
⑥在宅勤務中の業務報告方法は明確にする
→1日のうち何回報告させるかの頻度の明示、日報・電話・メールなどの報告スタイルの設定など。
⑦在宅勤務場所の指定についての明示も必要不可欠
→自宅のみとするか、自宅以外の場所も許可する場合は、会社の情報などのセキュリティ上の取り扱いに留意して設定をする必要があります。
⑧業務上生じる費用についての負担の割合の設定も明確にする
→通信費、コピー用紙などの備品代、光熱費の負担割合など
在宅勤務の労災と通勤費の取り扱い
高谷
在宅勤務の従業員が、家で怪我をしてしまった場合の労災認定はどうなるのでしょうか?
有馬さん
労災の認定は、原則として労働に関係のあることで怪我をした場合であれば認められます。例えば、仕事の紙をはさみで切っていた際に誤って手を切ってしまったときは認められるなどです。
そのため在宅勤務中に怪我をした場合には、その怪我をした状況が業務と関連しているのか個別に判断していくしかありません。在宅で状況が見えづらくなるので、業務との関連性がわかりづらいかもしれません。
高谷
在宅勤務の従業員には通勤費は発生しないと考えていいのでしょうか?
有馬さん
通勤費は実費精算的な要素もあるので、在宅勤務をした労働日に関する通勤手当を支給しないとする制度も可能です。ただ定期で買っていると在宅勤務をした日の通勤費を控除することは実務上煩雑なため、難しいと考えます。
スタートアップが在宅勤務制度を導入する際の注意点
高谷
在宅勤務の導入を考えているスタートアップの経営者にアドバイスをお願いします!
有馬さん
在宅勤務制度を導入する企業は、「自由な働き方を採用する企業である」とPRできる機会は多いと思います。しかしそういった効果ではなく、ぜひ目的に立ち返り導入を検討して欲しいです。あくまで在宅勤務制度は手段であって、目的ではありません。
とりわけスタートアップにおいては、日々経営者の意向も変わるような変化が激しい場合が多いため、情報共有・意思疎通が重要だと思います。そして特に若いチームであればあるほど、独身従業員も多く、在宅勤務の大きなメリットである「仕事と育児・介護の両立のしやすさ」も享受できないケースがあります。
目的を見失うことなく、在宅勤務で何を実現したいのかをシミュレーションすることが第1歩だと思いますね。
※今回の記事は、平成29年6月1日の法令施行分までを対象としたものです。
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