誰がための「柔軟な働き方」?
執筆: 『人事労務の基礎知識』編集部 | |
テレワークや副業・兼業のガイドライン等について、有識者や労使団体の代表者が検討する、厚労省「柔軟な働き方に関する検討会」。
2017年10月3日(火)に第1回が開催され、2017年11月20日(月)には第4回目が開催されました。
今回の記事では「柔軟な働き方に関する検討会」の第4回で提示されたモデル就業規則の改定案の中身と出席者から出された意見を紹介します。
副業・兼業が「禁止」から「届出制」に!?
今回、厚労省・モデル就業規則の副業・兼業に関する部分について改定案が提示されました。モデル就業規則は、厚労省がWebサイト等に掲載している就業規則例で、主に中小企業で幅広く参考とされています。
現在公開されているモデル就業規則では、副業・兼業は禁止(下記⑥)されています。
(遵守事項)
第11条 労働者は、以下の事項を守らなければならない。
①許可なく職務以外の目的で会社の施設、物品等を使用しないこと。
② 職務に関連して自己の利益を図り、又は他より不当に金品を借用し、若しくは贈与を受ける等不正な行為を行わないこと。
③勤務中は職務に専念し、正当な理由なく勤務場所を離れないこと。
④会社の名誉や信用を損なう行為をしないこと。
⑤在職中及び退職後においても、業務上知り得た会社、取引先等の機密を漏洩しないこと。
⑥許可なく他の会社等の業務に従事しないこと。
⑦酒気を帯びて就業しないこと。
⑧の他労働者としてふさわしくない行為をしないこと。
今回提示された変更案では労働者の遵守事項における副業・兼業に関する規定(「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」)を削除のうえ、以下の規定を新設するという方向性で、下記改定案が示されました。
今回提示された、モデル就業規則の改定案(副業・兼業部分)
(副業・兼業)
第65条 労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。
2 労働者は、前項の業務に従事するにあたっては、事前に、会社に所定の届出を行うものとする。
3 第1項の業務が第11条第1号から5号に該当する場合には、会社は、これを禁止又は制限することができる。
この変更については、使用者/労働者/専門家の一部から強く意見が出されました。
割増賃金は誰が払う?過労死の場合の責任は?
労働者側代表として出席した、日本労働組合総連合会(連合)の村上氏からは、連合の基本的な考えが下記の通り示され、一部のプロフェッショナルによる副業・兼業ばかりにフォーカスして自由化するのではなく、生活の制約の中でやむを得ず副業・兼業する人たちのセーフティーネットを準備するのがまず先だという意見が出されました。
連合の「柔軟な働き方」に関する基本的な考え方
- 自営型テレワークなどの「柔軟な働き方」については、就業者の保護などをはじめとして、法的規制が未整備・未解決の課題が多く、その解決をはかることが必要である。
- 「柔軟な働き方」は、個別労使が職場の実態などを踏まえつつ協議を行った上で決めるべき事項であって、国・政府が普及・促進をはかるものではない。
- 「柔軟な働き方」の名のもとに労働関係法令上の使用者責任や社会・労働保険料逃れなど、就労者保護の観点から問題となる行為が助長されることがないようにすべき。
使用者側代表として出席した、経団連や商工会議所、中小企業団体中央会の代表者は、副業・兼業を現在でもケースバイケースで認めている状況を説明した上で、労基法38条(『労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。』等)についての正式な解釈が曖昧である点が指摘されました。
例えば、複数の会社で労働者が働いた場合に、労働時間の通算によって生じる割増賃金を誰が負担するのか解釈が定まっていないという点です。主な解釈に下記のようなものがありますが、厚生労働省の正式な見解は出されていません。
- 労働者の1日の労働時間が8時間を超えて以降使用する事業主が義務を負う
- 時間的に後で労働契約を締結した事業主が時間外労働の手続きなどを負う
また、万が一過労死等があった場合に、各企業や、労働者本人の責任範囲はどうなるのか?といった意見も出されました。
まとめ
少子高齢化で労働力が減少する中、柔軟な働き方によって潜在的な労働力を活用しよう、それには副業・兼業も有効な施策の一つだと「働き方改革」の中で言われています。
高度なプロフェッショナリティを持つ人材の副業・兼業については、その専門性ゆえに、労働者側が比較的有利な労働条件を得やすいと考えられますが、単純労働を複数行って生計をたてている方はなかなか満足のいく労働条件が得づらいと考えられます。
副業・兼業には、様々なバリエーションがあります。政府がやるべきなのは、高度なプロフェッショナルの副業・兼業の邪魔をしないようにしつつ、弱者の副業・兼業を保護する適切なセーフティーネットづくりなのではないでしょうか。
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