競業避止や守秘義務を、退職者と約束する方法
執筆: 『人事労務の基礎知識』編集部 | |
企業における秘密保持義務とは、従業員がその職務上知り得た秘密情報や個人情報を漏えいしてはならない義務のことです。企業が秘密情報として管理しているもの、あるいは取引先や社員の個人情報等を漏えいしないよう、従業員はその在職中に守秘義務が課されています。これは企業活動上当然に必要な重要機密や個人情報が漏えいすると、顧客や取引先、企業自体も多大な不利益を被ることがあるためです。退職すると、在職時の秘密保持義務に関する契約は解除されてしまいますが、情報漏えいによる不利益は在職者、退職者に関係なく発生します。したがって退職後についても秘密情報を漏らさないように、退職時に秘密保持義務に関する契約書や誓約書を交わして、企業の防衛を図る必要があります。
退職後の競業避止義務について
秘密保持義務と同様に退職後に課されることがある義務として競業避止義務があります。
従業員が、重要な営業上のノウハウや機密情報、固有の技術を同業他社に漏らしたり、技術を盗むことで甚大な不利益を被ることがあります。同業他社への転職や技術を習得した退職者の独立起業、顧客の引き抜き、元同僚のヘッドハンティングなど、明らかに企業の営業を妨害する行為を禁止するための制約が競業避止義務です。退職時に交わす競業避止義務の誓約書は、元従業員である退職者の企業への背信行為を禁止することですが、この誓約書により退職者による不利益の発生を防止し、営業妨害行為への歯止めとなることを期待できます。
退職後の秘密保持義務および競業避止義務の法的有効性について
企業は従業員が退職後に同業他社への転職する等により企業の利益を著しく害することを避けるため、退職時に秘密保持義務や競業避止義務を誓約書として課し、退職後の行動を制約する場合があります。しかし一方で退職者には職業選択の自由があるため秘密保持義務や競業避止義務が過度の制約とならないようにしなければなりません。したがって、誓約書の内容が退職者にとって不当な制約とならないようにすることも重要なポイントとなります。法律的に有効な契約となるためのチェック項目がいくつかありますので見ていきましょう。
①守るべき企業の利益があるかどうか
守るべき企業の利益とは、技術的な秘密や営業上の重要なノウハウなどを指します。
②従業員の地位
役員や部長職などの要職にあり機密情報に接しているため、制約を課す必要があるといったように、合理的に認められる立場の者への制約であるかどいうかという視点。
③地域的な限定
会社のすぐ近くに開業し、営業妨害となるなどの地域的な限定があるかということ。
④競業避止義務の存続期間
競業避止義務の存続期間や行為の範囲について制限がかけられているかということ。
⑤代償措置が講じられているか
制約を課す人に対し高い報酬を支払うなどの代償がとられているかということ。
誓約書を作成する際にはこのような点に注意し、過度の制約ではなく法律的に有効なものとなるように、合理的な内容を項目に盛り込むようにします。
誓約書のひな形
上記①~⑤でそれぞれの企業に則した内容のものを、項目に盛り込んで作成する。
アルバイトに対しての退職後の秘密保持義務・競業避止義務
近年はアルバイトがインターネットなどを介し安易な気持ちで会社の機密情報や顧客の個人情報を友達に漏らしたことが発端となり、大きな社会問題となってしまうケースが話題にのぼることが多いですね。
アルバイトは学生や就職未経験者などで、会社への帰属意識も薄いため、職務上知り得た秘密や営業上重要なノウハウを漏えいしてはいけないという意識に乏しいことがあると思われます。
アルバイトも従業員と同様、職業の自由がありますので、退職後の勤務先について過度に制約することは認められませんが、アルバイトだからといって、企業の秘密情報やノウハウに触れていないとは言い切れません。昨今の社会情勢を見ると、アルバイトにも個人情報保護法の施行等、情報の取扱いに対する社会人としての考え方を理解してもらうことは、企業を防衛する意味で必要なことであると思われます。情報漏えい防止対策の一環として、アルバイトの退職時に秘密保持義務や競業避止義務に関する合意をとることを検討することも重要となってくるでしょう。
まとめ
企業の秘密情報、ノウハウなどを退職者に漏らされると甚大な不利益を被ることから、その防止策として、退職後にも秘密保持義務や競業禁止義務を課す場合が増えてきていると思われます。一方で、職業の自由という観点からも、退職者に対し一般的、抽象的に同業他社への転職を禁止するというような規定は合理性に欠けるとして認められない可能性があります。
よって、退職時に交わす秘密保持義務及び競業避止義務に関する誓約書等は、顧客の個人情報を流出させる等の秘密情報漏えいを禁止する、実際に高度な企業秘密に関わっていた者の同業への転職、独立起業、社員のヘッドハンティングを禁止する、顧客の引き抜きを禁止する、競業避止義務を課す期間を規定するなど、法的有効性の高い内容の誓約書とすることに注意して作成しましょう。また、従業員のみではなく、アルバイトについても秘密保持義務の周知や競業避止義務を課すことについて考慮する時期となっているかもしれません。
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