従業員への福利厚生に関する基礎知識
執筆: 『人事労務の基礎知識』編集部 | |
福利厚生は就職先選びのポイント
若い人たちは、どんな基準で就職先を選んでいるのでしょうか。給与や仕事の内容だけでなく、会社の福利厚生も重視されています。
昨今、過酷な労働環境で従業員を酷使するブラック企業が話題を呼んでいますが、それとは正反対に従業員を大切にする会社なら、若い人たちも関心を寄せます。実際にそのことをアピールするため、多くの企業がウェブサイト上で、自社の福利厚生を紹介するページを公開しています。一方で、経営が苦しくなってきた会社の場合は福利厚生を削らざるを得ないこともあります。福利厚生の種類やそれにかける費用を単純に増やせばいいというものではなく、魅力ある会社にするためにはバランスが重要です。
福利厚生とは何か
福利厚生とは本来の給与に上乗せして提供される、金銭以外の報酬です。金銭以外の形で出される諸手当や、設備や施設を利用できること、イベントなどがあります。これらは本来、現物給与となるところですが、一定の条件を満たせば給与とならず、課税の対象外となります。また会社にとっても、節税効果があります。
一定の条件とは何でしょうか。税務上の基本原則として、少額不追及の原則というものがあります。少額の現物給付なら給与とはみなさず、課税しないという意味です。また、従業員全体に機会があることも必要です。特定の者に限定したものは給与となります。かといって、それを受けられない者に同額の金銭を支給するなら、これも給与とみなされ、その福利厚生を受けた者も含めて課税されます。
そのため、福利厚生を導入する会社が注意すべきなのは、これらが給与にならないようにするという点です。また後述する交際費とならないようにすることも必要です。その点を明確にするため、福利厚生規定を必ず作成してください。この規定がないと、税務調査で福利厚生であることを否定され、多額の税が課せられるリスクがあります。福利厚生費として計上できるようルールに沿った運用をし、節税に努めましょう。
主な福利厚生の種類
それでは、主な福利厚生について見ていきましょう。福利厚生と混同しやすいものも説明していきます。
・社員旅行:福利厚生の代表です。社員の慰安だけでなく交流も促すので、業績アップにも還元されることが期待されますが、実は条件があります。それは、4泊5日以内で社員50%以上参加という条件です。なぜなら、福利厚生は社会通念上妥当な金額(つまり比較的短期間の旅行)で、すべての従業員に公平でなければならないからです(従業員の半数以上が参加できないような旅行は、公平性が疑われる)。これらの条件のボーダーライン付近にあるものについては、ケース・バイ・ケースで税法上の判断を受けることになります。意外に思われるかもしれませんが、不参加者に対して旅費に相当する金銭を支給すると、参加者・不参加者のどちらにとっても給与とみなされ、福利厚生扱いされません。結果として、旅費相当額について課税されてしまいます。
・保養施設:これも、福利厚生としてすぐに思い浮かぶものの一つかもしれません。保養施設は従業員全員が一律で利用できるものでなければなりません。利用報告書など、利用状況が分かるものを整備しておく必要があります。
・医療保険:会社を契約者、全従業員を加入者とする、医療保険契約を結ぶ会社もあります。この場合、会社が払う保険料は福利厚生として扱われます。もし従業員がケガや病気になったら、最初に保険会社からの給付金を会社が受け取ります。次に、その中から従業員に対して見舞金が支払われます。社会通念上相当な額を超える見舞金は給与とみなされ、従業員に所得税が課されてしまいます。なお、名称は似ていますが、健康保険は社会保険の一部です。社会保険・労働保険の会社負担分は法定福利厚生となり、課税されることはありません。
福利厚生とはならないもの
・商品券:記念や表彰として商品券が用いられることがあります。ですがこれは、税務上は福利厚生とはなりません。なぜなら、商品券は流通性が高いからです。そのため、商品券の額は給与とみなされ、課税されます。旅行券の場合には別の基準があり、一年以内に旅行をして券を使用したなどの条件を満たせば、福利厚生とされます。ここでは記念品として、または表彰された際に恩恵的に配られる商品券を念頭に置いていますが、もし賃金つまり労働の対価として商品券を用いるなら、これは(労働協約の締結などの複雑な手順を踏まない限り)労働基準法違反となってしまいますので、気を付ける必要があります。
・交際費:福利厚生とは、全従業員に利用する機会が与えられているものです。特定の従業員に限って接待や贈答などをすると、それは給与あるいは交際費として扱われます。交際費も会社の経費として、課税はされません。では、福利厚生費と交際費はどこが違うのでしょうか。交際費には上限があり、この上限が時々改定されることがあるのです。一方、福利厚生費には上限がありませんので、会社の支出をなるべく福利厚生として計上することが節税となります。
まとめ
日本の企業が福利厚生にかける費用は平均2万5000円と言われています。福利厚生が充実しているのは主に大企業というイメージがあるかもしれませんが、近年では中小企業でも十分な福利厚生を提供できるよう、福利厚生の代行サービスもあります。
福利厚生は、職場を魅力あるものとするために活用できるものです。ただし、むやみに導入すると現物給付となります。福利厚生規定を作成し、税務上の扱いを確認しておくなら、節税しながら従業員への保障を手厚くすることができます。
この記事で取り上げたものは福利厚生の一部に過ぎません。近年はユニークな制度を取り入れて、他社との差別化を図る企業も増えつつあります。どのような制度であれ、従業員が働きやすいと感じられる会社にする、という目的を念頭に置いてください。
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