従業員が離婚した場合の社会保険・雇用保険等の労務手続き

執筆: 『人事労務の基礎知識』編集部 |

従業員から離婚したとの連絡があると、滅多にない業務なので何から手を付けたらよいか困りますね。

しかも実は、雇用保険や社会保険、年末調整関連等、手続きは盛沢山です。何度もやり取りをするのは、お互い気が引けるので、従業員に確認すべき内容等をあらかじめ整理しておくと、スムーズにすすみます。

チェックリストにそって確認する

  1. 戸籍上で離婚した日の確認
  2. 離婚後の氏(苗字)の確認
  3. 被扶養者の有無の確認
  4. 住所変更の有無の確認
  5. 交通費変更の有無の確認

まずは、戸籍上、正式に離婚したという事実確認が大切です。それに基づいて手続きに必要な項目を確認していきましょう。

必要となる項目は、まず①戸籍の上で離婚した日、②離婚後の氏(苗字)の確認です。

女性の場合、旧姓に戻るのが普通ですが、お子さんがおられる場合や仕事の関係上、婚姻時の氏を名乗る場合もありますので、注意が必要です。

続いて③被扶養者変更の有無。従業員が妻(もしくは夫)を被扶養者にしていた場合は、必ず削除となりますが、子供については、離れて暮らしても扶養に入れたままとする場合もあります。

尋ねづらい内容ですが、他の確認事項と合わせたチェック項目形式にすると従業員からも事務的に回答してもらいやすいです。他には④住所の変更の有無、⑤通勤に伴う交通費の変更の有無等も確認しましょう。

雇用保険の手続き

氏名変更をする場合は、新氏名の確認できる戸籍や住民票等を添付し「雇用保険被保険者氏名変更届」をハローワークへ提出します。

雇用保険喪失・氏名変更届記入例 2

引用元:ハローワークインターネットサービス

 

社会保険の手続き

氏名変更をする場合は、健康保険被保険者証を添付の上「 健康保険・厚生年金保険被保険者氏名変更(訂正)届」を年金事務所へ提出します。

住所変更をする場合も、「健康保険・厚生年金保険被保険者氏名変更(訂正)届」を年金事務所へ提出します。添付書類は必要ありません。

健康保険・厚生年金保険被保険者氏名変更(訂正)届

引用元:日本年金機構

従業員の配偶者や子供が被扶養者になっていて、離婚することで被扶養者から外れる場合は健康保険被保険者証を添付の上「健康保険 被扶養者(異動)届」を年金事務所へ提出します。特に離婚した配偶者の健康保険証等は時間が経つとなかなか連絡が取れなくなることがあり、不都合が生じます。返却が必要な旨をできるだけ早めにお伝えしましょう。

健康保険被扶養者異動届 1枚目

引用元:日本年金機構

 

通勤の交通費の変更や、家族手当の減少等により標準月額報酬が2等級以上変更になった場合は、年金事務所へ「月額変更届」を提出しましょう。

健康保険・厚生年金保険被保険者月額報酬変更届

引用元:日本年金機構

 

詳しい手続きについては「従業員や家族に、氏名・生年月日・住所の追加・変更・訂正が発生したときの社会保険手続き」にて解説しています。

配偶者控除や扶養控除の手続き

離婚後は経済的にも収入減となることが多いと思われます。離婚した従業員は年末調整で寡婦控除もしくは寡夫控除が受けられる場合がありますので、従業員の税負担を少しでも減らせるよう、さりげなく教えてあげられるとよいですね。

本題に入る前に、この聞きなれない用語からお話しします。寡婦(かふ)とは夫と死別し、若しくは離婚した後婚姻をしていない女性のことで、寡夫はその逆の妻と死別し、若しくは離婚した後婚姻をしていない男性のことです。

では本題の、離婚した従業員が所得税法上の控除を受ける条件と控除額についてご説明します。まず、寡婦と寡夫では条件が異なるので注意しましょう。所得税法上の寡婦は次の①か②のいずれかに当てはまる場合で、控除額は27万円です。

①夫と離婚した後再婚せず扶養親族がいるか又は総所得金額が38万円以下の他の人(夫等)に扶養されていない同一生計の子がいること。

②夫と離婚した後再婚せず、合計所得金額が500万円以下であること。

さらに、この①と②の両方とも当てはまる場合は特定の寡婦として27万円にプラス8万されて合計35万円の控除ができます。一方、寡夫の方は次のAとBの両方とも当てはまる場合で、控除額は27万円です。A妻と離婚した後再婚せず扶養親族がいるか又は総所得金額が38万円以下の他の人(妻等)に扶養されていない同一生計の子がいること。B妻と離婚した後再婚せず、合計所得金額が500万円以下であること。つまり、特別の寡婦と同じ条件にならないと、男性である寡夫は寡夫控除とならない、少し厳しい条件となっています。この寡婦控除・寡夫控除の申告は年末調整の際の「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」で手続きできます。年末調整の際に記入してもらう「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」の中段「c」欄に寡婦等の該当者は数字に○をする箇所があります。該当する従業員には寡婦・寡夫控除についての説明をして差し上げられると頼りにされそうですね。

その他の社内手続き

従業員の氏名が変更となる場合は、社内においても色々と変更事項が発生しますね。名刺や社員証、ネームバッチ、emailアドレス、振込口座の名義変更に伴う変更等から、社内電話帳などの小さな変更まで様々なものに変更が必要となります。さらに、家族手当を支給している場合や、ファミリー用の社宅を提供している場合なども変更が必要となってくるでしょう。それぞれの会社に則した変更事項を洗い出しておくと、いざという時に便利です。

まとめ

従業員の離婚に関する手続きは、かなり立ち入った内容も確認しなければならないので、配慮のいる仕事となりますね。社会保険関連の手続き、給与や税金関係の手続き、社内における変更手続きなど項目分けし、チェックリストを作成すると手続き漏れが防げます。手続き内容が分かると、従業員に確認する事項もリストアップできるので、チェック項目形式で従業員から回答をもらうことができます。できるだけ少ないやり取りで、お互いストレスなく手続きできるよう心がけるとスムーズにいくのではないでしょうか。