オーストラリア・ワーホリ帰国者の雇用手続きで注意するポイント
執筆: 『人事労務の基礎知識』編集部 | |
就職希望者の面接をしていると、ワーホリ(ワーキング・ホリデー)から帰国したばかりの希望者に出会うことがあります。今回の記事では、ワーホリ人気ナンバー1のオーストラリアから帰国した、住所不定の就職希望者をフルタイムの正規従業員として雇用する場合の注意点を解説します。住所不定というと、何やら怪しい響を感じるかも知れませんが、ワーホリの帰国直後は、友人宅や親戚宅を転々として過ごしている方も少なくありません。そういった事情を考慮しての注意点を解説します。
なお、「オーストラリア」の部分を、「カナダ」や「ニュージーランド」、「イギリス」に置き換えて読んで頂ければ、オーストラリア以外からのワーホリ帰国者の場合にも役立つ内容としています。
こちらの記事も参考にしてください;
– 『従業員雇用手続き全体の流れと、4つの重要なマイルストン』
まず「住民票」と個人番号(マイナンバー)が必要です
フルタイムで雇用する場合、労働保険と社会保険に加入させる必要があります。それぞれ加入手続きの際には、労働者名簿を作成しますが、その中で住所は必須項目です。住所不定でなければ、履歴書から分かりますが、今回想定するケースは住所不定の場合です。住所不定の場合でも、住民票がある場合と、無い場合で対応が異なります。
住民票がある場合
海外滞在の予定が1年未満の場合は、普通の海外旅行と同じ扱いとなるため、住民票を抜く必要はありません。そのため、帰国直後の住民票には、最後に登録された住所が記載されています。一旦、その住所を使って加入手続きをします。
なお、住民票発行の際には「個人番号(マイナンバー)付を発行してください」と伝えてもらうよう依頼しましょう。
住民票が無い場合
1年以上の海外滞在予定の場合、住所地の市区町村に「海外転出届」を提出します。この手続は、いわゆる「住民票を抜く」という行為で、この手続が完了すると住民票が無くなり、「転出証明書」を受取ります。この転出証明書は、帰国後に元の住所と別の市区町村に転入する際に必要となります。
住民票が無いと、雇用保険や社会保険に加入する事が大変困難となります。雇用保険については、原則として手続き可能と言われていますが、マイナンバーが必要と言われて断られる可能性があります。また、断られなかったとしても、雇い入れ日の翌月10日までに手続きをすることが条件となります。もしマイナンバーがない場合や忘れてしまった場合は、確認をするために住民票の登録が必要なので、実質的にどこか身を寄せている場所が属する市区町村役場で住民票登録する必要があります。社会保険についても、資格取得届を受理した事務センターが、住民票の登録があるかどうか確認(住基確認)し、登録が無い場合は手続きが完了しません。よって、住民票登録が無いままでは、社会保険に加入できません。早めに新しい住居を確保し、住民票を登録し直すよう従業員に伝えましょう。
住民票を再登録する場合、「転出証明書」とともに、パスポートを見せる必要があります。帰国の日からあまり間隔が空くと、その間何をしていたのかと疑われることになります。早めに(2週間以内には)役所に行くよう勧めましょう。
再登録手続きの際、国民健康保険と国民年金の加入について役所の担当者から話があるはずです。その時には、「会社で社会保険に入る予定である」と伝えてもらうよう依頼しておきましょう。そうしないと、二重に加入することになり、後から解除の手続きが必要になります。
なお、住民票の再登録と同時にマイナンバーも発行されます。住民票発行の際には「個人番号(マイナンバー)付を発行してください」と伝えてもらうよう依頼しましょう。
ワーホリ帰りの従業員の給与計算は、住民税に注意!
業務(労働)がスタートしたら、今度は第一回目の給与計算のことを考えておく必要があります。給与の総額は月の基本給と実労働時間、それに通勤手当で決まるのでシンプルなのですが、控除する金額については確認が必要です。所得税や社会保険、労働保険は普通の従業員と変わりませんが、住民税については注意が必要です。
住民税は「前年の所得等に対してかかる税金」です。毎年1/1に日本に住んでいる人に、前年分の住民税を、その年の6/1~翌年5/31にかけて支払う仕組みです。
- 1年以上のワーホリでオーストラリアにいた場合:今年の1/1はオーストラリアにいたため、その年の6/1〜翌年5/31に支払う住民税は免除されます。
- 1年未満のワーホリでオーストラリアにいた場合:今年の1/1に海外にいたとしても、その合計期間が1年未満であれば住民税は免除されません。帰国後にパスポートの日付を確認したうえで、納税通知書が出されます。ごくまれに、1年以上のワーホリもただの旅行とみなし、海外滞在とはみなさずに住民税を徴収する自治体があります。この場合も納税通知を受け取ります。
社会保険・資格取得手続き
採用した日付をもって、社会保険に加入する手続きします。社会保険の加入には基礎年金番号が必要となります。従業員がわからない場合、本人自身で確認してもらいます。本人がパスポートなどの身分証明書を持って最寄りの年金事務所に行き、年金加入記録を確認してもらえば、そこに記載されています。
雇用保険・資格取得手続き
雇用保険資格取得届も、採用した日付をもって提出します。雇用保険料はその月の給与によって変化しますので、毎月の給与計算の際に算出します。
海外在住期間は、国民年金の扱いがどうなるのか?
オーストラリアにいた間の社会保険は、日本の国民年金や国民健康保険からは外されることになっています。ワーホリ中の従業員は、医療保険は民間の保険会社を利用していた可能性が高いです。では、年金はどうなっていたのでしょうか。この期間は年金未納者になってしまうのでしょうか。
住民票を抜くと同時に、国民年金の対象外になります。そしてこの海外滞在期間は、いわゆるカラ期間とされます。未納や滞納ではなく、年金をもらうのに必要な期間の計算に含めることのできる合算対象期間となるのです。ただし、この期間は年金の支給額に反映されません。この期間についても任意加入して年金保険料を支払えば、将来の受給額に反映されます。
まとめ
ワーホリ帰国者は基本的に、普通の日本人従業員と変わりはありません。給与からは雇用保険、健康保険、厚生年金を控除します。違う点といえば、住民税は翌年5月分までは徴収義務はありません。また、住民票を抜いている場合には早急に住民票を作成することが必要です。住所が確定していない場合は、早急に住所を確定し、住民票を再登録してもらってください。海外に長期間滞在していた人材を採用するにあたっての注意点は、以上となります。
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