従業員に妊娠報告をされたとき会社が注意したいこと
執筆: 『人事労務の基礎知識』編集部 | |
女性の社会進出により、これまで前例がなかったのに育休を取る社員が出てきたという会社も多いのではないでしょうか。従業員から妊娠の報告を受けた時に会社側としてどのように対応すべきなのか、知っておくべき事項はたくさんあります。こちらでは、従業員から妊娠の報告を受けた場合に知っておきたい注意点をご紹介しておきましょう。妊娠や出産に纏わる規定に詳しくなって、会社側として適切な対応ができるようになれると良いですね。
妊娠報告を受けた際に会社側が検討すべき点
雇用環境はどうなる?
妊娠報告を受けた時に、知っておきたいのが以下の事項です
【労働基準法】
- 産前産後及びその後30日間は解雇できない(19条)
- 妊娠中及び産後1年未満の女性に重量物を取り扱う業務や妊娠、出産、哺育等に有害な業務に就かせてはならない(64条)
- 軽易な業務に転換させなければならない(65条)←本人から申し出があった場合
【男女雇用機会均等法】
- 妊娠、出産、産休を理由に解雇をしてはならない
妊娠の報告を受けたからと言って簡単に解雇してはいけないということですね。期間の定めのない社員の場合は当然、妊娠を理由に解雇をしてはなりません。契約社員やパートの場合も契約期間が満了するまでは解雇できないことになります。
それでも育休手続きのこともあるので、育休の取得予定があるのかどうかは従業員本人に確認しておきましょう。妊娠により退職の予定があるのかどうかは、従業員本人から申し出るのを待った方が良いです。マタニティ・ハラスメントにあたるような、妊娠したことによる不利益取り扱いをすることがないように注意する必要があります。
また、妊娠中、もしくは産後母体に有害な業務と思われる業務である場合には配置転換が必要ですし、その他の業務に就いても従業員本人から申し出があれば他の体に負担の少ない軽易な業務に変える必要があります。
労働時間について知っておくべき点
【労働基準法】
- 産前6週間は就業させてはならない(65条)←本人の請求があった場合
- 産後8週間は就業させてはならない(65条)
- 産後6週間経過した場合に本人の請求があり、医師が認めれば就業させることは可能(65条)
- 他の軽易な業務に転換させなければならない(65条)←本人の請求があった場合
- 時間外・休日・深夜労働をさせてはならない(66条)←本人の請求があった場合
- 生後満1年に達しない生児を育てる女性は休憩時間の他に1日2回、各々少なくとも30分の育児時間を請求できる(67条)←本人の請求があった場合
【男女雇用機会均等法】
- 保健指導又は健康診査を受けるための時間を確保しなければならない
- 保健指導に基づく勤務時間の変更、勤務の軽減等必要な措置を講じなければならない
本人の申し出があれば、時間外労働はさせられないということはぜひ覚えておきましょう。また、健康診査を受けるために時間の確保について男女雇用機会均等法では以下のように回数を定めています。
<妊娠中>
妊娠24種から35週まで 2週に1回
妊娠36週から出産まで 1週に1回
医師から特別な指示があった場合にはその指示により必要な時間
<産後1年以内>
医師の指示により必要な時間を確保できるようにする
また医師から指導があった場合には以下の措置を講じなければなりません。
- 時差通勤、勤務時間の短縮等の措置
- 休憩時間の延長、休憩回数の増加
- 作業の制限、休業等
会社として従業員側から医師の指導があったと申し出があった場合には、上記事項に対応しなければならないということになります。
以下の法律を参考にしてみて下さい
引用元:
厚生労働省 働く女性の母性健康管理措置、母性保護規定について
※パート労働者でも以上の法律は適用されますので覚えておきましょう。
産休・育休中の代わりの人材はどうするべきか?
会社側が最も考えなくてはならないことは、従業員が産休・育休に入った場合の代替要員です。例えば以下のような対処方法があります。
- 必要な時期だけ派遣社員を雇う
- 必要な時期だけパートやアルバイトで賄う
- 他部署より必要な人材を異動させる
- 仕事の簡素化、効率化を考えて代わりの人材を入れなくとも可能かどうかを検討する
必要な時期だけ派遣社員などを雇う会社が多いかもいしれませんが、育休予定者が出たのも何かのきっかけです。このタイミングで仕事内容自体を簡素化して、他の従業員だけで仕事を進めていけないのか検討するのもよいですね、業務の無駄を検討する良い機会になるかもしれません。
会社側でやるべき手続き
従業員が妊娠を申し出た際に会社側がやるべき手続きは以下の通りです。
<妊娠報告時>
- 健康保険・厚生年金の保険 産前産後休業取得申請
- 必要に応じて傷病手当金の受給申請
- 必要に応じて高額療養費の受給申請
すべて社会保険の手続きとなります。傷病手当金は妊娠の経過上、休業が3日を超え、医師が療養を必要と認めた場合で有給を使用しない時に対象になります。高額療養費なども入院などが生じた場合に対象になる可能性があります
<出産後>
【健康保険】
- 出産育児一時金、出産手当金の申請
- 育児休業取得者の申し出、変更届
- 扶養関連の手続き
【雇用保険】
- 育児休業給付の申請
出産後、出生日が確定してから提出できる書類がたくさんでてきます。従業員の妊娠が発覚したら必要な手続きを確認しておくことが大切ですね。特に生まれた子供がすぐに病院にかかる機会が出てきますので、扶養の届け出を健康保険組合に提出して健康保険証の早期発行に努めるようにしましょう。
<職場復帰時>
【健康保険】
- 育児休業等取得者終了届の届出
- 健康保険・厚生年金保険 標準報酬月額特例申出書の届け出
- 健康保険・厚生年金保険 育児休業終了時月額変更届の届出
職場に復帰した際も必要な手続きがありますので、滞りなく行いましょう。
注意したい事例
従業員から妊娠したと申し出があった場合にその事情は人それぞれではないでしょうか。その場合に会社としてどのように対応すべきか知っておくことが大切です。以下、知っておくと役に立つ事例についてご紹介していきましょう。
妊娠した従業員を解雇することはできる?
第1項でも触れたとおり、妊娠したことによる解雇は男女雇用機会均等法で禁止されています。
妊娠したことにより解雇をしてはいけません。
パート労働者の場合も対象になりますので注意しましょう。
引用元:厚生労働省 パート労働法のあらまし を参考
つわりで休んだ場合には傷病手当金の対象になるのか?
従業員の中にはつわりがひどく、会社を休んでしまう場合もあるでしょう。しかし傷病手当金はあくまでも医師が療養の必要があると認めた場合になります。それでも実際につわりがひどいために入院した場合などは、対象になる可能性もあることを覚えておきましょう。
1年契約の従業員が妊娠した場合はどうなる?
1年契約の従業員が妊娠した場合も当然、妊娠を理由に解雇することはできません。また、契約社員であっても他の正社員と同様に労働基準法が適用されて本人の希望があれば、時間外勤務を控えたり、軽易な業務に転換したりする必要があります。健康診査のための時間を確保するなどの対応も必要になってきますので、他の正社員との対応に差がないようにしましょう。
妊娠で休んでいて退職した後に離職証明書は発行する義務があるか?
離職証明書は従業員からの請求があれば発行しなければなりません。この場合は会社側に発行義務があります。休んでいたために給与がゼロの期間についても記載し、備考欄にその旨を記載しておきましょう。その際に退職理由について従業員に確認した上で記載しましょう。自己都合なのか、解雇なのか発行の段階ではっきりさせておかないと後から問題になる場合もあります。
産前休業の強制は可能か?
労働基準法では従業員から請求があれば産前6週間は、就業させることはできないとしていますが、請求がなければ当然働いても良いということになります。家庭の事情や体力に自信のある従業員は産前休暇を申し出ないというケースもありうるということになります。
そうなると本人が請求していないのに産前6週間なので休業するようにと会社が強制することはできません。どうしてもと自宅待機を命じるようであれば、その期間の賃金を支払う必要性が出てくる可能性が高いです。このようなケースの場合は最寄りの労働基準監督署などに相談してみるのも良いですね。
まとめ
従業員から妊娠の申し出があった場合に以下の点に注意しましょう。
- 妊娠したことを理由に解雇してはならない
- 申し出があった場合に時間外労働をさせてはならない
- 申し出があった場合に軽易な業務に配置転換する必要がある
- 健康診査を受けるのに必要な通院時間を確保する
- 医師の指導があった場合に勤務時間や休憩時間に関する対策を講じる必要がある
- 契約社員やパートであっても正社員と同じように対処する
従業員から妊娠の申し出があった際に社会保険、雇用保険の手続き以外にも労働基準法、男女雇用機会均等法により定められた対応をする必要があります。会社の人事担当者として、従業員から妊娠の申し出があった際に正しい対処方法ができるように、必要な知識を把握しておくようにしましょう。
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