労働者の権利と義務の基礎知識
執筆: 『人事労務の基礎知識』編集部 | |
労働者の権利についても管理者として詳しく知っておく必要がありますね。ここでは労働者の権利について詳しく説明していきましょう。労働者の権利に詳しくなって、どんな事態にも対処できるようにしていきたいものですね。
労働者の義務
さて、ここでは労働者の権利についてご紹介していきましょう。権利だけではなく労働者としての義務も生じる、ということを覚えておきましょう。
労働者には労働契約を結んだことで、労働を提供するという義務が生じることになります。
労働の提供にあたっては労働者には以下のような義務があることになります。
- 会社の指揮命令に従う
- 就業規則に従う
- 勤務時間内の私的な行為を慎む
- 会社の設備等は会社の規定範囲内で使用する
- 就業時間中は職務に専念する
労働者の権利
それでは労働者の権利にはどのようなものがあるのでしょうか
退職する権利
解雇については30日以上前に予告しなければならないなどの会社側の義務がありますが、労働者について労働基準法上は退職することについての規程はありません。つまり、労働者には自由に退職する権利があることになります。しかし、民法第627条第1項に以下の規程があります。
「当事者が雇用期間を定めなかった時は、各当事者は、いつでも解約の申し入れをすることができる。この場合において、雇用は、解釈の申し入れの日から2週間を経過することによって終了する。」
つまり、期間の定めのない従業が申し入れた退職は申し入れた日から14日後に成立するということになります。一方で派遣や契約社員などの場合は契約終了期間を明確に定めているので、場合よっては会社側に損害賠償を請求する権利が生ずる場合があります。いつでも退職して良いとは言い切れないことになります。
休憩、休暇の権利
労働基準法では休暇について以下のような定めがあります。
休憩の権利(労働基準法34条)
・労働時間が6時間を超える場合には45分、8時間を超える場合には1時間の休憩を与えなければならない。
・休憩時間を自由に利用させなければならない
年次有給休暇の権利(労働基準法39条)
雇い入れの日から起算して6カ月継続勤務し、全労働日の8割以上勤務した労働者について十労働日の有給休暇を与えなければならない
有給休暇は正社員でなく、パート労働者なども条件に当てはまれば、労働日数に応じて有給休暇が比例付与する必要がありますので注意してください。
詳しくは以下の4ページ目を参考して下さい。
引用元:厚生労働省 有給休暇ハンドブック
ストライキの権利
日本国憲法28条に労働者が労働条件などについて交渉するために、団結し(団結権)、使用者と交渉し(団体交渉権)、使用者に要求を認めさせるための団体行動権である就労放棄(ストライキ)を行う権利が定められています。
ただし、多くの国民が不利益を被るような職種である場合には、公共の福祉の観点からストライキの権利である団体行動権の権利が制限される場合もあります。
労働条件などに関するものである正当なストライキを行った労働者に事業者が処分を与えたり、損害賠償を求めたりすることはできません。
確認しておきたい派遣法の改善点
派遣労働者も派遣元の会社に雇用されて賃金を支払われていることになるので当然労働者なのですが、雇用形態が不安定なことから、立場が弱くなってしまうケースが多いです。そのために最近では派遣労働者の雇用環境の向上のためにも改善がされてきています。ここでは改正された派遣法のポイントについてご説明していきましょう。
平成24年の10月に改正された派遣法の改善点のポイントは以下の通りです。しっかりと確認しておきましょう。
1.日雇い派遣の原則禁止
雇用期間が30日以内の日雇い派遣は禁止になりました。しかし、業務によっては例外があります。また、以下の該当者についても例外になりますので注意してください
- 60歳以上の人
- 雇用保険の適用を受けない学生
- 副業として日雇い派遣に従事する人
- 主たる生計者ではない人
2.グループ企業の8割規制
派遣会社がグループ企業内で派遣を行う場合には全体の8割以下に制限されます。
- 離職後1年以内の人を元の勤務先に派遣することの禁止
- 派遣元会社が離職前の事業者へ派遣労働者として派遣することを禁止
- 派遣先事業者にて該当する従業員を派遣労働者として受け入れることを禁止
(60歳以上の定年退職者は禁止の対象から除外)
3.マージン料などの情報提供派遣料金の明示
雇い入れ時、派遣開始、料金の変更時の以下の料金を明示することを義務化
- 派遣労働者本人の派遣料金
- 派遣労働者が所属する事業所における派遣料金の平均額
4.待遇に関する事項などの説明
労働契約締結時に、以下の内容を説明することを義務化
- 雇用された場合の賃金の見込み額や待遇に関すること
- 派遣会社の事業運営に関すること
- 労働者派遣制度の概要
5,派遣先の都合で派遣契約を解除する時に講ずべき措置
派遣先の都合で契約を解除する際には以下の措置を講ずるように努めなければなりません。
- 無期雇用労働者としての雇用する機会の提供
- 紹介予定派遣の対象とすることで、派遣先での直接雇用を推進
- 無期雇用への転換を推進するための教育訓練などの実施
- 派遣労働者が無期雇用労働者か否かを派遣先への通知事項に追加
派遣会社は派遣先会社へ無期雇用なのか否かを通知する必要があります。
- 均衡待遇の確保
派遣会社は派遣労働者の賃金を決定する際には以下の点に配慮しなければなりません。
- 派遣先の労働者の賃金水準
- 派遣労働者の職務内容、職務の成果、意欲、能力、経験など
※教育訓練や福利厚生についても均衡に向けた配慮が必要
※派遣先会社も派遣会社に必要な情報を提供する協力が求められる
労働契約申し込みみなし制度(平成27年10月1日施行)
派遣先が業種や派遣期間などについて違法と知りながら派遣労働者を受け入れている場合、派遣先が派遣労働者について労働契約の申し込みをしたとみなす制度です。平成27年10月1日からの施行となっています。
派遣法の改正のポイントの詳細については以下を参考にしてください。
引用元:厚生労働省 派遣法が改正されました
労働安全衛生法での労働者の定義
労働安全衛生法に定められている健康診断の実施の際にも、労働者の定義について迷う場合が出てくるのではないでしょうか。ここでは労働安全衛生法の労働者の定義についてご説明していきましょう。
労働安全衛生法での労働者の定義は労働基準法での労働者の定義と一緒です。つまり、
労働基準法第9条
「労働者とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用されるもので、賃金を支払らわれる者をいう。」
ということになります。
健康診断の対象となる労働者とは
更に健康診断の対象者については労働安全衛生法では「常時使用する労働者」としています。
その具体的な対象者は以下の通りです。
- 期間の定めのない契約により使用されるものであること
- 1年以上使用されることが予定されている者、及び更新により1年以上使用されているもの
- 1週間の所定労働時間が通常の労働者の4分の3以上であること
※3に該当しなくとも2に該当する場合には通常の労働者の2分の1以上の労働時間である場合も実施することが望ましい
ある程度長い期間雇用しているアルバイトやパートについても実施の必要があるということですね。また、派遣労働者の場合は原則、派遣元会社で実施することとなっています。
詳細は以下を参考にしてください。
引用元:東京労働局 労働安全衛生関係
衛生管理者の選任の必要がある労働者の範囲とは
労働安全衛生法では従業員の職場環境を管理するために、常時50名以上の労働者を使用する事業所に対して衛生管理者を選任することが義務付けています。この場合の労働者には以下の対象者をカウントします。
- 常時雇用されるもの
- 派遣労働者
- 在籍出向者
- パートやアルバイト(通常の労働者の4分の3以上の労働時間のもの)
※例えば社員が10名、対象になるパートが50名の会社の場合は衛生管理者の選任義務があることになります。
まとめ
このように見てみると労働者にはいかにたくさん権利があるのか、といったことがわかりますね。労働者は経営者に比べると弱い立場なので、法律によって多くの権利で守られています。従業員を管理する業務を遂行するにあたっては労働者の権利について熟知し、法律違反の対応を行わないように注意しましょう。
また、非正規雇用者、つまり派遣労働者やアルバイトなどは正社員と違って様々な法律の対象外のように感じてしまいますが、賃金を支払われている以上、労働者になる場合がほとんどです。
正社員と同等の権利を与えて対処しているのか、法律違反はしていないのかを今一度確認してみましょう。
こちらの記事もごらんください。
・労働者とは |労働基準法の定義
・有給休暇の基礎知識。法律と罰則を詳しく解説
・休憩時間の一斉付与の原則とは|労働基準法の定義
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