初めての給与計算入門|#6新人労務担当者が知っておくべき所得税の計算方法

執筆: 『人事労務の基礎知識』編集部 |

今回は所得税の計算方法や、仕組みについて説明していきたいと思います。支給項目の合計額から、社会保険料などを控除した金額をベースに所得税は算出されていきます。所得税を考える上では、従業員の方の状況や家族の人数なども大事なので、その辺りの情報が給与計算にどのような影響を与えていくのか、一つ一つ整理していきましょう。

所得税とは

そもそも所得税とはどういうものなのかについて説明していきたいと思います。所得税は、個人の所得に対してかかる税金で、1年間、つまり1月1日から12月31日までの間に発生した全ての所得から所得控除を差し引いた残りの課税所得に税率を適用し税額を計算しています。所得の多い人からは多くの税金を徴収する仕組みなので、累進課税制度と言われています。

ちなみに今回は給与に関する所得、すなわち給与所得について説明をしていきますが、日本では課税される対象の所得は10種類あります。なので、人によっては給与所得の税金を収めるだけではなく、他の種類の所得に関する税金を収めている人もいるのです。

【10種類の所得】
1 利子所得
2 配当所得
3 不動産所得
4 事業所得
5 給与所得
6 退職所得
7 山林所得
8 譲渡所得
9 一時所得
10 雑所得

所得税を納める2つの方法

日本では、1年間に稼いだ所得額を自分で計算して税務署に申告することで、自己申告の所得に対する税金を納付する方法が原則です。これを確定申告と言います。しかし、会社に雇用されている方は確定申告を行っていないという方がほとんどだと思います。

なぜなら会社が従業員に支払っている給与の一部から所得税額を預かって、従業員の代わりに国に納付をしてくれているからです。このように、会社が従業員が納付すべき給与所得に対する税金を預かって、代わりに納付することを源泉徴収と言います。

注意すべきなのは、源泉徴収で会社に納付してもらえるのは給与所得だけです。その他の所得を稼いでいる人は、ご自身で確定申告をする必要があります。そのため、労務の担当者はこの源泉徴収の手続きを毎月こなしていくことが必要となります。その手続きに必要な知識をさらに見ていきましょう。

源泉徴収事務の流れ

給与計算の担当者は、従業員に支払う毎月の給与から、適切な所得税額を計算して、給与から差し引いておくという作業が必要になります。そうして、預かった税額を毎月納付していきます。

重要なのは、適正な所得税額を確実に収めるということですね。そのプロセスを順を追って見ていきましょう。

STEP1.給与所得者の扶養控除等(異動)申告書の回収

給与計算を行うためには、まず「給与所得者の扶養控除等申告書」、通称「マルフ」を役員・従業員から回収することから始まります。マルフを回収すべき役員・従業員というのは、自社のみで仕事をしている方や、掛け持ちなどで複数社で仕事をしている場合であっても、メインで働いている会社が自社であるという方です。

この書類の内容については下記記事から詳細をご確認いただけますので、興味のある方は先にご確認ください。

【参考】給与所得者の扶養控除等申告書の書き方。記入すべきは、現住所か住民票か?

ちなみに複数の会社で働いているような方で、自社以外の会社をメインに働いている場合には、税区分が「乙」という扱いになります。この乙の場合には、マルフは回収しなくて大丈夫です。乙の方の所得税額計算では、マルフの情報を使わないからです。

STEP2.源泉徴収税額の計算

源泉徴収税額の計算では、まず会社として原則的な方法を用いるか、電子計算機特例という方法を用いるのかを決めます。決められた方法に従って税額を計算します。計算の方法についてはこの後詳細に解説していきますが、まずは全体の流れを大まかに確認したいと思います。

STEP3.給与振込

所得税額を含めて、計算した給与データを元に振込をおこないます。

STEP4.所得税の納付

源泉徴収税額の納付期限は、支払日を元に考えることになっていて、原則として給与を支払った月の翌月10日までに納付しなければならないことになっています。なお、この納付期限の日が日曜日、祝日などの休日や土曜日に当たる場合には、その休日明けの日が納付期限となります。この納付期限までに納付されない場合には、原則として源泉徴収義務者は延滞税や不納付加算税などを負担しなければならないことになります。

例外規定として、給与等の支給人員が常時10人未満である源泉徴収義務者については、「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を提出してその承認を受けることにより、給与等や退職手当等、税理士等の報酬・料金について源泉徴収をした所得税及び復興特別所得税を年2回にまとめて納付する、納期の特例の制度が設けられていますので、該当する企業であれば意識しておきたいところです。

源泉徴収税額の具体的な計算

源泉徴収税額の計算では、まず会社として原則的な方法を用いるか、電子計算機特例という方法を用いるのかを決めます。まず原則的な方法を見ていきましょう。原則的な方法というのは源泉徴収税額表という表を見ながら税額を算出する方法のことです。下記のリンクから月給の方の税額表が見れるので、ご確認ください。

【参考】給与所得の源泉徴収税額表(平成29年分)

表の使い方としては、その月の課税対象の給与総額から社会保険料などを控除した金額が、表の中で、どの行に該当するのかを見るだけです。

例えば下記のような給与の方がいた場合をシミュレーションしていきましょう。

支給項目基本給300,000円
通勤手当(非課税)15,000円
控除項目健康保険料15,856円
厚生年金保険料29,091円
雇用保険料945円

上記で注意すべきは通勤手当は一定の金額までは、所得税の課税対象から外れるということです。課税の対象となる金額は下記のように計算できます。

課税対象額=総支給額-非課税支給額-社会保険料(健保・厚年・雇保・介保等)

先ほどの例だと、総支給額は基本給と通勤手当を合計した「315,000円」ですね。そして非課税支給額は通勤手当の「15,000円」。社会保険料は、3項目を合計して「45,892円」です。式に当てはめた結果、課税対象額は「254,108円」となります。

ここで月額表に戻ります。表を見ると「254,108 円」は「254,000円以上257,000円以下」の行に該当します。

そして最初のステップで扶養控除等申告書を回収している場合には「甲」の列を見ていくことになります。もし扶養控除等申告書を回収していない「乙」であれば、乙の列を見ていくことになります。今回は「甲」の場合を想定して考えていきましょう。

「甲」の列には「扶養親族等の数」と書かれていて、その下に人数ごとの列が並んでいますね。ここでもマルフをみれば扶養親族等の数がわかるので、2人であれば「2人」の列を見ます。

「254,000円以上257,000円以下」の行で、「甲の扶養親族等の数2人」の列を見ると、金額として「3,510円」と書かれています。こうしてその月の給与から控除すべき所得税額を算出することができました。

なお、注意点として下記のようなことが挙げられます。

・扶養控除等申告書により申告された扶養親族等の数が₇人を超える場合には、扶養親族等の数が₇人であるものとして求めた税額から、扶養親族等の数が₇人を超える1人ごとに1,610 円を控除した金額を求めます

・扶養控除等申告書にその人が障害者(特別障害者を含みます。)、寡婦(特別の寡婦を 含みます。)、寡夫又は勤労学生に該当する旨の記載があるときは、扶養親族等の数にこれらの一に該当するごとに 1人を加算した数を扶養親族等の数とします。

・扶養控除等申告書にその人の控除対象配偶者又は扶養親族のうちに障害者(特別障害者を含みます。)又は同居特別障害者(障害者(特別障害者を含みます。)又は同居特別障害者が国外居住親族である場合には、親族に該当する旨を証する書類が扶養控除等申告書に添付され、又は当該書類が扶養控除等申告書の提出の際に提示された障害者(特別障害者を含みます。)又は同居特別障害者に限ります。)に該当する人がいる旨の記載があるときは、扶養親族等の数にこれらの一に該当するごとに1人を加算した数を扶養親族等の数とします。

次に例外的な計算方法である、電子計算機特例という方法を簡単に紹介しておきます。

給与所得に対する源泉所得税及び復興特別所得税の額は、「給与所得の源泉徴収税額表」によって求めることができますが、その給与等の支払額に関する計算を電子計算機などの事務機械によって処理しているときは、月額表の甲欄を適用する給与等については、別の表を用いて、所得税額を計算することができます。

その表が下記リンクから確認できます。

【参考】源泉徴収税額の電算機計算の特例

どちらの方法で計算するかは会社の判断ですので、採用している方式によって計算を行ってください。

毎月の源泉徴収が年末調整につながる

所得税というのは、所得に応じて公平に課税を行うための仕組みです。そのために、先ほど説明した通り、扶養している親族の数や、障害・寡婦などの状態に応じて税額を変動させています。

しかし、本当に公平な課税を行うなら他にももっと検討するべき項目はあるはずです。ただ、毎月行う業務の負担を大きくしすぎると、そもそも源泉徴収を行うことすら難しくなります。そこで、毎月の源泉徴収業務は大まかに、そして詳細な計算を年に1回行うことになっています。

そして、その年1回の手続きを年末調整と言います。

毎月大まかに計算した所得税額を再度、いろいろな情報をプラスして計算し直して、徴収した税額の過不足を算定します。つまり、毎月の所得税を計算していた源泉徴収は、年末調整によって公平な金額となって、無事ゴールを迎えるということです。

年末調整の詳しい手続き・やり方については下記リンク先にいくつか記事がありますので、ご興味ある方はそちらもご参照ください。

【参考】年末調整カテゴリの記事一覧

以上が給与計算に関する所得税の基礎知識です。正確な計算をしておかなければ、税金の未払いという状態にもなりかねません。タフな業務ですが、頑張っていきましょう!