「過労死」議論の現在。〜2017年4月末版〜
執筆: 『人事労務の基礎知識』編集部 | |
『過労死等防止対策推進協議会・第8回』冒頭で挨拶する、山越敬一労働基準局長。2017年4月27日:編集部撮影
2014年11月に施行された「過労死等防止対策推進法(通称:過労死防止法)」に基づき、国、事業者、労働者、そして遺族や専門家が集まり、過労死について話し合う『過労死等防止対策推進協議会(第8回)』が、2017年4月27日に開催されました。
厚生労働省は今回話し合われた内容・意見を踏まえ、2017年秋に「過労死等防止対策白書 2017年版」を取りまとめる予定です。
今回の記事では、過労死等防止対策推進協議会(第8回)で話し合われた内容・意見をダイジェストします。
前提となる情報:「過労死」関連のデータ
労働環境について
- フルタイム労働者の総実労働時間は、年間2,000時間(月20日労働の場合:約8.3時間/日)
- 1週間の就業時間が60時間以上の雇用者の割合は7.7%(2016年度)。目標は、2020年までに5%以下。
- 年次有給休暇の取得率は48.7%(2015年度)。目標は、2020年までに70%以上。
※出典:厚労省『毎月勤労統計調査』、総務省『労働力調査』、厚労省『就労条件総合調査』
労災について
- メンタルヘルスケアに取り組んでいる事業場は約60%。目標は、2017年に80%以上。
- 脳・心臓疾患の労災補償の支給は200件台後半〜300件/年。支給数1位は「運輸業、郵便業」。
- 精神障害の労災保障の支給は、過去4年間程400件台後半で推移。支給数1位は「製造業」。
※出典:厚労省『労働安全衛生に関する調査』、厚労省『過労死等の労災補償状況』
防止・対策の実施状況
時間外労働の上限規制について、年間720時間以内、最大で月100時間未満とする計画が報告されました。遺族や専門家からは、「過労死ライン」を認める基準になる可能性があると指摘されています。
違法な長時間労働の取締強化のため『労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置 に関するガイドライン』に従い、労働時間の適正把握を徹底。時間外労働が月80時間超の企業への是正指導、及び企業名を公表する方針を発表しました。
また、36協定未締結事業場に対する監督指導を徹底させていくと報告されました。
メンタルヘルス・パワハラ防止について、以下の3点が報告されました。
- 複数の精神障害の労災認定があった企業等を対象に、企業本社を特別指導する
- 「パワーハラスメント対策導入マニュアル」等を活用し、パワハラ防止の啓発を徹底する
- 長時間労働者に関する情報等を産業医へ提供させる事を義務付ける
なお2017年3月29日、労働安全衛生規則等の一部を改正する省令(平成29年厚生労働省令第29号)が公布されています(※2017年6月1日施行予定)。改正された主なポイントは下記のとおりです。
- 1月当たり100時間超の時間外労働を行った労働者の氏名及び当該労働者に係る超えた時間に関する情報を産業医に提出しなければならない
- 労働安全衛生法に基づき、医師または歯科医師が事業者に対し意見を述べる上で、必要となる労働者の業務に関する情報を求められた時は、速やかに、これを提供しなければならない。
その他、過労死等ゼロを目指す取り組み状況
事業主団体に対する労働時間の適正把握等について緊急要請。労働基準法等の法令違反で公表した事案を、厚生労働省Webサイトに掲載する事が発表されました。
労働者に対し、相談窓口をより充実させていく事を発表しました。これまでの実績は、以下のとおりです。
- 労働条件ホットライン(電話):日曜も含めて応対。2016年度は、30,929件の相談実績がありました
- Webサイト「こころの耳」:2016年度は、約370万PVに達しています
- 産業医のレベルアップ。研修実施。及び、小規模事業者及び労働者の相談窓口が設置されました
調査研究の状況
労働者だけでなく、法人役員や自営業者についての実態も調査中。また労災認定の多い、運輸業について、2016年に実施した調査結果を2017年度の白書に反映できるように、取りまとめ中と発表しました。また、「トラック輸送における取引環境・労働時間改善協議会」設置し、平成30年までにガイドラインが策定される予定です。
2010年〜2015年の労災認定に関するDBを構築し、教職員・医療IT産業・の3業種を重点的に解析する計画も発表しました。こちらは、再来年の白書に反映される予定です。
文部科学省の担当者からは、教師の長時間労働、パワハラ問題に関して2016年度に10年ぶりにに実施した「小学校・中学校等教員勤務実態調査」の発表も近日中に発表すると報告がありました(※4/29追記:『教員勤務実態調査(平成28年度)の集計(速報値)について(概要)』が公開されました。)。また、教育現場で長時間労働の温床となっている「部活」について、平成29年中に「運動部活動に関する総合的なガイドライン(仮称)」を作成。学校教育施行規則を改正し、地域のスポーツ指導者等が単独で部活動の指導・引率にあたれる「部活動指導員(仮称)」を位置づけるためのパブリックコメントを開始する方針を発表しました。
啓発・プロモーション状況
2016年度の実績報告、及び2017年度の計画を発表しました。
- 2016年度は、ポスター、パンフレット約100万部作成。新聞広告全国62紙に掲載。Web広告も展開し、計2億8千インプレッションを獲得。2017年度は、11月(過労死等防止月間)を中心に展開予定
- 事業主、労務担当者にむけたセミナーに関して、2016年度は、71回実施。2017年度も継続して実施する予定
- 労働条件ポータルサイトは、2016年4月〜2017年3月の1年間に、27.1万PVを獲得
- パワハラ啓発サイト「あかるい職場応援団」は、2016年度127.7万PVを獲得
- 学生への教育として、大学・高等学校でのセミナーを開催。2016年度は100回開催し、参加者は1200名
- ポータルサイトを活用し、リーディングカンパニー等の情報を発信する予定
- 昨年に引き続き、有給休暇取得促進広告を10月に展開予定
まとめ
過労死防止法に基づく『過労死等防止対策推進協議会(第8回)』が、2017年4月27日に開催され、過労死ゼロに向けた取り組みについて報告されました。
過労死に至る要因として、長時間労働とメンタルヘルスが大きいと考えられています。「時間外労働」の規制については、弱者保護という側面について考慮しつつ、経済発展のために必要な自由な研究活動を保障すること、及び教育現場・医療現場などの「現実」とどう折り合いを付けるかが課題です。
現在、労働関連の法律、通達、ガイドラインは散発的に発信されており、わかりづらくなっています。2017年中に期待されている労働基準法改正で、少しでもわかりやすくなることも期待されています。
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