会社を全面禁煙する場合の注意点は?

執筆: 『人事労務の基礎知識』編集部 |

全面禁煙

欧米では飲食店だけでなく、一般店舗やオフィスでの禁煙は常識化されています。日本でも2003年に健康増進法が施行されてから、禁煙・分煙の動きはありましたが、先日、健康増進法改正案の骨組みが発表され、2020年の東京オリンピックに向けて禁煙の動きが更に活発になってきました。

現在日本の企業では分煙という形が一般的ですが、「全面禁煙」に踏み切った企業が10年前より10倍に増えてきている調査結果もあります。
今回は、今後ますます動きが加速していくと予想される全面禁煙について説明します。

禁煙にするのは違法?

労働基準法には喫煙・禁煙に関する規定はありません。

ですが、健康増進法には

学校、体育館、病院、劇場、観覧場、集会場、展示場、百貨店、事務所、官公庁施設、飲食店その他多数の者が利用する施設を管理する者は、これらを利用する者について、受動喫煙を防止するために必要な措置を講ずるよう努めなければならない

と定められています。この規定は努力義務ですので違反したからといって罰則はありませんが、そもそも会社には従業員が快適で安全に働ける環境を整える義務があります。ですので、従業員が受動喫煙しないように設備を整える事が必要になってきます。

また、事業所内の禁煙・分煙の設備等が不十分な状況で、受動喫煙により従業員が健康を害した場合は、会社がその責任を取らなければなりません。そのような事情をふまえると、会社の就業規則で禁煙に関する規定を作る事自体は、むしろ行わなければならない措置だと言えるでしょう。
そして就業規則に規定をする場合には、「休憩時間を除くか含むか」が問題になってきます。法律上、休憩時間には自由利用の原則がありますが、無制限に自由利用が認められるわけでもありません。その辺りの調整は会社の判断に委ねられていますが、あまり行き過ぎた規定にすると違法と判断される事もあります。「勤務時間内の喫煙を禁止する」など、あくまでも社内で受動喫煙に繋がる可能性を防止するための規定にしましょう。

会社を全面禁煙にするメリット・デメリット

「百害あって一利なし」と言われる煙草ですが、会社を全面禁煙にするとどのような影響があるのでしょうか?
まずメリットとしては、「喫煙所を設けるための費用削減」「病気の発症を予防し、病気による有能な社員の退職を防止」「生産性の向上」などが挙げられます。病気のリスクが下がることはもちろんですが、全面禁煙にする事をきっかけに従業員も禁煙に踏み切り、煙草が吸えないイライラなどがなくなることで結果的に生産性が上がることにも繋がるようです。
デメリットとしては、「喫煙者が離席してタバコを吸いに行くため、仕事をする時間が減少する」という状況になる可能性があります。煙草は嗜好品であるため、必ずしも喫煙者のために場所を用意しなければならないという事はありませんが、喫煙所まで短時間で移動できるなどの配慮はある方が良いでしょう。もし全面禁煙にするのであれば、併せて就業規則で「勤務時間内の喫煙を禁止する」と規定しておくことをお勧めします。

禁煙に取り組んでいる企業

実際に禁煙に取り組んでいる企業をいくつかご紹介します。

星野リゾートグループ

「大変申し訳ございませんが、星野リゾートグループでは喫煙者は採用いたしておりません」という一風変わったフレーズで始まる採用ページには、なぜ喫煙者を採用しないかということが書かれています。「社員は家族」という価値観を大事にしてきた社長の星野佳路氏が、あるベテラン社員の死をきっかけに、社員の喫煙者をゼロにすることを目的とした「Uプロジェクト」を自らの手で発足しました。喫煙者であっても、入社時に煙草を断つと誓約すれば入社する事は可能です。

日本交通株式会社

健康増進法が施行された翌年の2004年から業界初のタクシー乗務員の「車内完全禁煙」を実施しています。管理職による車両の品質チェックを行い、違反した乗務員に対しては個別指導を行い、罰則も設けています。そして2008年からは全面禁煙を実施しています。品質向上のための一つの戦略として禁煙化を導入し、業務拡大を続けている企業です。

テルモ株式会社

医療機器から、医薬品など医療に関する幅広い商品を扱う総合医療メーカーであるテルモ株式会社は、「医療を通じて社会に貢献する」という理念を掲げており、医療に携わる一員として自らの心身健康のため就業時間内の喫煙は完全に禁止としています。また禁煙推進プログラムとして、事業所内の産業医による「社内禁煙外来」の開設や、禁煙外来治療終了後に最大2万円の経済的補助制度などを導入しています。

まとめ

昔は「一服することにより業務がはかどる」「喫煙所で他部署とのコミュニケーションが取れる」などと言われてきましたが、今では訪問先企業の応接室は禁煙のところが多く、多数の企業が入るビル全体が禁煙という建物もあり、社会全体が禁煙の動きとなっています。喫煙は自分だけでなく、周りにいる人々にも有害な影響を与えることは、周知の事実です。今のところ法律上では、会社での禁煙は努力義務ですが、いずれは会社の義務になるかもしれません。従業員に喫煙者がいる場合は反対意見もあるかもしれませんが、従業員と会社の今後のためにも、禁煙に関する制度の導入を始めてみてはいかがでしょうか。