福利厚生サービス「Anyperk」がアメリカで躍進!一方で日本の福利厚生市場はどうなのか?
執筆: 『人事労務の基礎知識』編集部 | |
日本人ファウンダーの福山太郎さんがシリコンバレーで提供する福利厚生サービス「AnyPerk」が、多くの期待と注目を集めています。福山さんが史上初の日本人Y Combinator卒業生というだけではなく、
・すでに数千社の企業に独自の福利厚生サービスを提供している実績
・社員表彰プログラム「Rewards(リワード)」というサービスの斬新さ
・モバイル、映画、ジム、レストラン、リゾート割引など400種以上の特典提供
など結果と付加価値を創出している優れた事業として評価を受けています。
その福山さんが他社の取材時に答えられていたコメントの中に下記のものがありました。
「福利厚生サービスは他の多くの国ですでに成功している。アメリカが例外なのだ」
日本人ファウンダーの福利厚生サービス、AnyPerkがVegas Tech Fund等から300万ドルを調達
日本では福利厚生サービス市場はどうなってるの?
このコメントから気になったのは、日本の福利厚生サービス市場ではどうなってるのかということです。そこで、今回は日本の福利厚生サービスを提供するプレイヤーの分析から今後の未来予測を行っていきたいと思います。
まず日本で福利厚生サービスを提供するプレイヤーとして有名な下記2社を分析してみたいと思います。
株式会社リログループ
8,000社以上の契約社数をほこる福利厚生アウトソーシングサービスの会社です。カフェテリアプランの導入支援だけでなく、福利厚生倶楽部も運営しています。
株式会社ベネフィット・ワン
パソナグループの福利厚生アウトソーシングサービス会社。ここが運営する「ベネフィットステーション」にも多くの企業が加入しています。カフェテリアプランだけでなく、セミナーなども開催しています。
福利厚生の大手企業「リログループ」ってどんな会社?
株式会社リログループは、連結子会社45社及び持分法適用関連会社5社により構成されている大きな企業ですね。 現在は、住宅分野とレジャー・ライフサポート分野の双方にまたがる企業福利厚生のアウトソーシングサービスを主力事業とし、その事業基盤を活かして賃貸管理事業やホテル運営事業なども展開しています。
ビジネスモデル
リログループの福利厚生サービスは、顧客は法人であり、法人の従業員会員数に応じて月額報酬を獲得するモデルです。
財務分析
今回分析したいのは、あくまで純粋な法人向け福利厚生アウトソーシング事業の部分なので、その部分の業績を抜粋したいと思います。福利厚生事業の単体のデータとして公開されている最新のものは2017年3月期 第2四半期のものなので、そちらを見ていきます。
福利厚生事業単体2Q累計(6ヶ月間のデータ)
売上高 85.1億円
営業利益 24.4億円
営業利益率 約28.7%
会員数 515万人
会員1人あたりの月次収益
これらの成績を単純に月換算すると、売上高約14億円/月、営業利益約4億円/月です。
これを会員数あたりの単価に直すと
・月平均売上高 271円/会員
・月平均営業利益 77.6円/会員
となります。
法人顧客1社あたりの月次収益
そして法人契約数が最新のものがなかったのですが、2016年4月末時点のデータとして契約社数は8,700社、会員数は480万人という数値が公開されています。
よって1年ほど前の時点で、契約した法人クライアント1社当たりの平均従業員数が551.7人であることがわかります。そして先ほどの最新の会員数515万人を551.7人で割算すると、現在の契約法人推定数約9,335社となりますね。これにより、1社あたりのデータも推定ですが計算できます。
・月平均売上高 149,973円/1社
・月平均営業利益 42,849円/1社
福利厚生といえばベネフィットワン、でもどんな会社?
株式会社ベネフィットワンは連結子会社8社、持分法適用関連会社2社で構成されています。グループとしては、企業の福利厚生代行サービスを中心とした会員制サービス事業を主な事業として展開しています。
サービスの概要
中核事業である福利厚生代行サービスは、顧客企業が、ベネフィットワンの運営する「ベネフィット・ステーショ ン」に入会することで法人会員となり、法人会員の従業員がベネフィットワンと契約関係にあるサービス提供企業の運営する宿泊施設やスポーツクラブ、各種学校等の福利厚生メニューを利用できるものです。
ビジネスモデル
ベネフィットワンは法人会員から入会金および従業員会員数に応じた月会費を収受し、個人会員が宿泊施設等を利用した際に、加入コースに応じた補助金を支給しています。
財務分析
分析対象としては、福利厚生事業の部分です。事業単体のデータとして公開されている最新のデータとして2017年3月期第2四半期のデータを見ていきたいと思います。
福利厚生事業単体2Qのデータ(6ヶ月間のデータ)
売上高 71.1億円
営業利益 17.2億円
営業利益率 約24.2%
会員数 420万人
営業利益のデータは公表されていないので、福利厚生事業以外の事業も含めた全体の営業利益率24.2%を使って算出しています。
会員1人あたりの月次収益
そして、これらの成績を単純に月換算すると、月売上高約12億円、営業利益約3億円となります。これをさらに会員数単位に換算すると
・月平均売上高 285.7円/会員
・月平均営業利益 71.4円/会員
法人顧客1社あたりの月次収益
法人契約数についてデータが最新データが公開されていなかったので、最近のデータとして公開されている2014年の会員数約347万人、法人数約4,700社というデータから、1社あたりの平均会員数が738人と推定されます。
先ほどの2017年3月期第2四半期の会員数が420万人をこの738人で割り戻すと、約5,691社と推定できます。これにより、1社あたりのデータも推定ですが計算できます。
・月平均売上高 210,859円/1社
・月平均営業利益 52,714円/1社
両者を分析して見えてきた福利厚生アウトソーシング事業の強さ
両者の分析結果を改めて整理してみます。
福利厚生事業データ | リログループ | ベネフィットワン |
売上高(月換算) | 14億円 | 12億円 |
営業利益(月換算) | 4億円 | 3億円 |
営業利益率 | 約28.7% | 約24.2% |
契約法人数 | 約8,700社 | 約5,691社 |
会員数 | 515万人 | 420万人 |
1社あたりの平均会員数 | 551.7人 | 738人 |
1社あたり月売上高 | 149,973円 | 210,859円 |
1社あたり月営業利益 | 42,849円 | 52,714円 |
1会員あたり月売上高 | 271円 | 285円 |
1会員あたり月営業利益 | 77円 | 71円 |
上記のデータは部分的に推測の域を出ないのですが、実データを組み合わせて推定しているので大きなずれはないと考えられます。まず注目すべきは両者ともに営業利益率が非常に高いことがわかります。ともに25%前後の営業利益率を誇っています。
また1社あたりの平均会員数、つまりメインターゲットとなる法人の規模はどちらも従業員数500名を超えるような比較的大きな企業です。月次の1社あたり売上高は140,000円と210,000円となっており、思ったよりも安いと思う方もいらっしゃるかもしれません。
これからの福利厚生サービスは?
上記2社が、5,000社を超える大企業などに活用されてきた背景には、圧倒的な提携企業ネットワークが要因です。レジャー、エンターテイメント、ジムやレストランなど多様なジャンルで、たくさんの提携企業を抱えています。後発の企業にとっては、同様のレベルまで提携企業を増やすことが難しいでしょう。
今後も福利厚生をアウトソーシングするニーズは根強く残っていくと思います。なぜなら、自社で福利厚生プランを管理したり、連携先企業を獲得するとコストが見合わないためです。
また福利厚生の運用管理を受託する企業として今後参入するならば、既存のプレイヤーとは異なる価値を目指す必要があります。既存プレイヤーの価格設定がかなり安いので、コストで勝負しても生き残れないことが想定されます。
今後もニーズが残っていく領域としては考えられるポイントは
・サービスのラインナップの独自性(他の会社にはないサービスが含まれている)
・カスタマイズの柔軟性(会社に合わせてプランを柔軟に変えられる)
・福利厚生の効果測定機能の拡充(どれくらい効果があったかレポートが充実)
・従業員の健康増進に対する価値提供(従業員がより健康になる)
・従業員の満足度向上に対する価値提供(従業員の満足度、幸福度が高まる)
などが考えられます。「AnyPerk」のようなスタートアップが、日本の福利厚生アウトソーシング市場に参入して、勝ち残っていく可能性は否定できません。『バックオフィスの基礎知識』編集部では今後も福利厚生マーケットの状況を定点観測していきたいと思います。
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