「残業」割増賃金未払い企業の発覚・事後取組の例 [2017年3月末集計]
執筆: 『人事労務の基礎知識』編集部 | |
残業をした従業員には、労働基準法で定められた割増賃金を支払わなければなりません。
割増賃金を正しく支払わなかった場合、それがどのように発覚し、事後にどのような取組みを実施するのでしょうか?
先日厚生労働省が公表したレポートから、その内容を紹介します。
時間外労働と割増賃金のおさらい
就業規則や、労働条件通知書等で定められた所定労働時間を超えて働く場合、つまり「残業」する場合、以下に示す条件以上の割増賃金を労働者に支給する必要があります。これは労働基準法で定められているルールです。
- 通常の1.25倍〜:1カ月の合計が60時間までの時間外労働、および深夜労働
- 通常の1.35倍〜:休日労働
- 通常の1.50倍〜:1カ月の時間外労働の合計が60時間を超えた場合の、60時間を超えた部分の労働(※当分の間、中小企業は適用除外)
※労基法の範囲内の所定外労働には、労基法上の割増賃金支払い「義務」はありません
事案の発覚と、事後取組の例
厚生労働省は2015年度から、民間企業に委託してSNSやブログなどに書き込まれた「賃金不払」等のワードを監視しています。この監視で得られた「疑わしき情報」は、労働基準監督署に共有され、企業への立ち入り調査の情報源となっっています。
以下の「事例1」については、インターネット上での監視活動が、事案発覚に結びついた例です。
事例1(業種:電気通信工事業)
賃金不払残業の状況
- インターネット上の求人情報等の監視情報を受けて、労基署が立入調査を実施。
- 会社では、労働者が「申告書」に記入した超過勤務時間数により賃金計算を行っていたが、パソコンのログ記録とのかい離、夜間の従業員駐車場の駐車状況、労働者のヒアリング調査結果などから、賃金不払残業の疑いが認められたため、労働時間の実態調査を行うよう指導。
企業が実施した解消策
- 会社は、パソコンのログ記録や警備システムの情報などを用いて調査を行い、不払いとなっていた割増賃金を支払った。
- 賃金不払残業の解消のために次の取組を実施した。(1)代表者が「賃金不払残業撲滅宣言」を行うとともに、全店で説明会を開催した。(2)「申告書」とパソコンのログ記録に30分以上のかい離が認められた場合には、理由を明記させ、所属長の承認を得ることとした。(3)総務部職員が定期的に、労働時間が適正に把握されているかについて実態調査を行い、必要な指導を行うこととした。
事例2(業種:木材・木製品製造業)
賃金不払残業の状況
- タイムカード打刻後に作業を行うよう指示されているとの労働者からの情報に基づき、労基署が立入調査を実施。
- 立入調査の際、労働者に対して無記名アンケートを実施したところ、大多数の労働者からタイムカード打刻後に翌日の準備作業や清掃作業が行われ、また昼休憩時間中に会議が開催されているとの回答が得られ、賃金不払残業の疑いが認められたため、労働時間の実態調査を行うよう指導。
企業が実施した解消策
- 会社は、労働時間の実態調査を行った上で、不払いとなっていたタイムカード打刻後の作業時間及び会議に出席した時間について、割増賃金を支払った。
- 賃金不払残業の解消のために次の取組を実施した。(1)休憩時間中の会議を禁止した。(2)社内説明会を開催し、全ての作業が終わった後にタイムカードを打刻するなど、労働時間を適正に記録することについて全管理者及び労働者に徹底した。(3)タイムカードが適正に打刻されているか否かを確認するため、代表者自らが社内巡視を行うこととした。
事例3(業種:小売業)
賃金不払残業の状況
- 違法な長時間労働が疑われる情報を基に、労基署が立入調査を実施。
- 会社は、タイムカードにより労働時間を管理していたが、警備記録を確認したところ、タイムカードの打刻時刻とかい離があり、また、会社が指示したユニフォームへの着替を行った後にタイムカードを打刻している状況も認められたため、労働時間の実態調査を行うよう指導。
企業が実施した解消策
- 会社は、労働者からのヒアリングなどの実態調査を行い、不払いとなっていた割増賃金を支払った。
- 賃金不払残業の解消のために次の取組を実施した。(1)店長会議において労務管理に関する勉強会を開催するとともに、店舗内の主任会議、朝礼及び社内報においてタイムカードを適正に打刻するよう、全労働者に周知を図った。(2)人事総務部職員が、定期的に警備記録とタイムカードの打刻時刻を確認するとともに、各店舗の労務管理状況の抜き打ちチェックを行うこととした。(3)労働組合と労務管理に関する議論を行い、改善すべき点をとりまとめ、順次実施した。(4)賃金台帳などの労務管理に関する書類について、定期的に社会保険労務士による監査を実施することとした。
事例4(業種:電気機械器具製造業)
賃金不払残業の状況
- 賃金不払残業に関する情報が労基署に複数寄せられたことから、立入調査を実施。
- 会社は、労働者が始業・終業時刻をパソコンに入力し、上司が日々承認することにより労働時間を管理していたが、パソコンのログ記録とのかい離が認められ、また、月末になると一定の時間を超えないよう残業を申告しない様子が伺われるなど、賃金不払残業の疑いが認められたため、労働時間の実態調査を行うよう指導。
企業が実施した解消策
- 会社は、パソコンのログ記録や労働者からのヒアリングなどの実態調査を行い、不払いとなっていた割増賃金を支払った。
- 賃金不払残業の解消のために次の取組を実施した。(1)適正な労働時間管理を実現する仕組を検討するためのプロジェクトチームを立ち上げた。(2)役員である事業所長が適正な労働時間管理について緊急メッセージを発信するとともに、説明会を開催し、職場管理者を含めた全労働者に対する教育を行った。(3)相談窓口を設置し会社の労務管理に関する疑問などを相談できる体制を整備した。
[2016年度]賃金不払残業での監督指導・是正結果の概要
- 是正企業数:1,349社
- 1,000万円以上の割増賃金を支払った企業:184社
- 支払われた割増賃金合計額:127億2,327万円
- 対象労働者数:9万7,978人
- 支払われた割増賃金の平均額:労働者1人当たり13万円/1企業当たり943万円
まとめ
労働基準監督署が企業に立ち入り調査するきっかけとなる情報源は、従業員や元・従業員本人や親族からの情報提供が主です。2015年からは、インターネット上での書込みも情報源として加わりました。
そもそも、労働基準監督署から改善の指導をされない事が望ましいですが、万が一改善を指導された場合は、社会保険労務士に協力を依頼し、会社の根本にある「問題の本質」を一緒に解決していく事をお勧めします。
出典・参考情報
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