SNSを使う従業員への対策・ルール作り
執筆: 『人事労務の基礎知識』編集部 | |
ツイッターやフェイスブックをはじめとするSNS(ソーシャル・ネットワーク・システム)が広く普及し、誰もが気軽に情報発信できる時代です。企業も広報手段としてSNSを活用する一方、従業員の書き込みが原因でトラブルに発展するケースも無くなりません。
従業員のSNS利用について、企業はどこまで管理できるのか? 企業はあらかじめどのような対策を取っておけばよいのか? 従業員のSNS利用に際し、企業が定めておくべきガイドラインについて改めて理解しましょう。
従業員のSNS利用で企業に被害が出た事例
2013年に、コンビニエンスストアの店員がアイスクリームのケースに入り、自らのSNSでその画像を配信し問題になったことがあります。また、2016年には帝国ホテルの従業員がホテルに来たタレントの名前をツイッターで発信した、あるいは不動産会社の社員がタレントに物件を紹介したことをツイッターで発信したといった、情報漏えいの事案が相次ぎ発覚し、企業が公式サイト上で謝罪文を発表する事態となりました。
こうした社員・アルバイトを含めた従業員による不適切な投稿は後を絶たず、企業の信用を失墜させることも少なくありません。SNSにいったん投稿された情報は次々と拡散やコピーされ、投稿者が削除したとしてもインターネット上からその情報を完全に消すことは困難です。
従業員にSNSの利用を禁止することは可能?
それでは、従業員にSNSの利用禁止を命令することはできるのでしょうか? プライベートでSNSのアカウントを持っている人も多く、現実的に利用の全面禁止をすることは難しいでしょう。禁止を裏付ける法的根拠もありません。
あるいは、従業員にSNSのIDを申告させて企業が監視するという方法もありますが、反発を招く可能性があります。また、従業員がSNSで情報を発信することで、企業のイメージアップになったり商品の宣伝をしてくれたりするといった「利点」も生かせなくなるでしょう。
では、企業が従業員のSNS利用に対して何か対策できることは無いのでしょうか?
企業のSNS対策としては、以下のようなものがあります。
- SNS利用に関するルール・ガイドラインを策定し、就業規則にSNSに関する規定を加える
- 従業員のSNSリテラシー(使いこなす能力)を向上させる
従業員のSNS利用に関するルール作り
社員・契約社員・パート・アルバイトなどすべての従業員に対し、SNSの利用そのものを否定するのではなく、利用のルールを決めます。
その際ポイントとなるのは、以下の点です。
- プロフィール欄に社名・所属部署名を公開することを許可するか
- プライベートに関する投稿に制限を設けるか
- 業務に関する投稿をどこまで許可するか
例えば、電通は社名をプロフィール欄や投稿で公開することについて申請制です。IT系企業では、プロフィールでの社名掲載を許可しているところが多い一方、官公庁や金融機関は許可していないところがほとんどです。
社名の公開を許可するかどうかによって、投稿内容に制限をかける度合いは変わってきます。社名公開を許可する場合、プライベートに関する投稿であっても「企業に所属する人間としてふさわしいか否か」が問われます。
業務に関する投稿も、対外的なキャンペーン情報などは奨励されますが、公式リリース前の情報開示は当然禁止すべきでしょう。
こうしたポイントを踏まえ、SNSの利用に関するガイドラインを策定するとともに、就業規則にもSNSの利用に関する規定と懲罰規定を盛り込みます。
SNS利用に関するガイドラインの策定について
多くの企業や大学、自治体がSNS利用に関するガイドラインを策定しています。グーグルやヤフー等でソーシャルメディアガイドラインやSNS利用規約といったキーワードで検索してみると、様々な企業が実際に運用しているガイドラインを見て参考にできます。
各企業のガイドラインでは、下記の項目を設けることが多いようです。
- SNS利用の目的…情報発信、顧客とのコミュニケーションを図ること
- 全従業員がSNSを利用する際に心得ておくべきこと…一度発信した情報を消すことはできないリスクを自覚する、就業規則や法令順守、顧客に誤解を与える情報を発信しない
- SNSで企業などの情報に接する人への留意点…SNSで情報を発信する者の発言は、あくまで個人の見解であることを明記
就業規則のSNS利用規定について
ガイドラインの策定と同時に、就業規則にもSNSの利用に関する事項を加えましょう。
就業規則で明文化しておくことは、SNSトラブルの防止策にもなります。先に決めたルールやガイドラインに従って、「SNSに関する遵守事項」を盛りこむとよいでしょう。
ただし、インターネットの世界は技術の進歩が著しく、新しいサービスが生まれるたびに就業規則を変更するのは手間がかかってしまいます。就業規則には、守秘義務や会社に不利益となることをしてはいけないこと、違反すると懲罰処分になることなどがすでに示されているかと思います。そうした根拠のもと、「SNSに関する遵守事項」では勤務時間内のSNSの利用禁止や会社で知り得た情報を書き込むことを禁止する規定、不適切な投稿の削除義務といった包括的なことを規定するにとどめておき、加筆事項が出てきた場合はガイドラインで対応します。また、遵守事項に違反した場合の罰則規定も具体的に記載しておきましょう。
最近の社会保険労務士は、SNSやブログをうまく活用している方も多いです。就業規則を作成・改訂する場合には、こういった社会保険労務士に意見を求めるのも有効です。
従業員のSNSリテラシーの向上を図る
ガイドラインや就業規則での対策に加え、社内研修を通じて従業員のSNSリテラシーを育てていくのも必要です。
規制するだけでは、SNSの利点を生かせなくなってしまうということを述べました。ルールを定めることと並行して、従業員にうまくSNSを活用してもらうために啓発を行う必要があります。
SNSによって企業がこうむった被害例や、ネットで情報を流すリスクについて社内で共有し、「書き込んではいけない内容とはどのようなものか」「なぜ書き込んではいけないのか」を従業員が考える機会を設けましょう。
SNSリテラシーの向上は不適切な投稿を未然に防ぐとともに、従業員のSNS利用を企業にとってのメリットとすることができるでしょう。
もしも従業員がSNSトラブルを引き起こしたら…
さまざまな対策をしていても、従業員が問題のある投稿をしてしまった場合、どのように対処すればよいのでしょうか?
従業員の投稿を企業が発見し、投稿者が特定できた場合、まずは投稿内容をプリントアウトしたり画像で保存します。
これはネット上で修正や削除が行われる前に証拠を押さえておくためです。投稿者本人に削除・修正依頼を出すとともに、発見した媒体以外に投稿をしていないかも確認しておいてください。
ツイッターやフェイスブック、インスタグラムなど複数のSNSを利用している人も多く、複数の媒体に投稿をした場合はすべての投稿を削除・修正するよう指示します。
投稿内容が顧客や取引先に関するものであれば、謝罪文やプレスリリースの準備が必要になります。ここで不適切投稿の事実を隠すことは避けましょう。
投稿された内容は驚異的な速さで拡散し、コピーされていくため、隠し通せることはほぼありません。
事実が発覚した時点で迅速な対応をすることが、企業の社会的な信用をできるだけ落とさないためにも必要です。
投稿をした従業員は就業規則に従って懲戒処分を行います。その際、投稿の内容や違法性、自社および関係先に与えた損害などを加味して処分を決定します。また、全従業員に注意を行ったり、研修をしたりして再発防止にも務めましょう。
まとめ
従業員のSNS利用を禁止することはできませんし、すべきではありません。
ただし、企業と労働契約を結んだ労働者には守秘義務や企業の不利益になることをしてはいけない義務があり、その範疇で企業が従業員のSNS利用に一定の規制を設けることは可能です。
SNSには企業の情報発信ツールとしての側面もあるため、規制をかけるだけでなく、従業員に企業に所属する一員としてのふさわしいSNSの使い方を学んでもらう機会を設けることがも大切です。
ガイドラインや就業規則でSNSのルールを定め、研修などを通じて従業員のSNSリテラシーを高めていきましょう。
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