創業期の経理・財務・人事労務などの業務イメージ/バックオフィスマスター・その1
執筆: 『人事労務の基礎知識』編集部 | |
みなさん、あけましておめでとうございます。中小企業診断士・社会保険労務士のこうへいです。
年明けから法定調書、固定資産税、それこそ四半期決算や本決算など全開モードの方も多いのではないでしょうか。
新年になると、「今年はどういう年にしようか」と考え、気合を入れて今年の目標を立てる人もいると思います。
私自身も毎年立てていますが、いつのまにか途中で息切れしてしまう事も多いです。高校の時を思い出してみても、英語の参考書を買っても最初しからやらず、「SVOC」だけ詳しかったので、筋金入りの「息切れタイプ」です。
そんな自分をエクスキューズするわけではないですが、目標管理を1万4千件以上指導している人事コンサルタント・佐藤耕一氏の著書『あらゆる目標を達成するすごいシート』によれば、目標設定して行動を変えられる人は100人いて3人いるかいないかだそうです。
巷ではすごいスポーツ選手や著名な方が、夢の実現について書籍を出していますが、みんながみんな、その通りできるわけではないのです。某マンツーマンのプライベートジムが流行っているのも、目標に対して一緒に寄り添ってサポートしてくれる人(コーチ)がいる事が大きいからでしょう。
私も目標管理のトレーナーをしていますが、目標はその設定方法と同じくらい、維持する方法の重要性を日々痛感しています。管理者にとって、メンバーの目標達成に寄り添ってサポートする事は、メンバーや組織の成功にとっての前提条件だと思います。
前置きが長くなりましたが、バックオフィスの基礎講座を始めましょう。今回は、創業:経理とか税金などどうしたら良いんだろう。やがて。。。貧乏暇なしインターフェースつらいわ、人も雇ったし、事務してくる人が欲しい。」に関する基礎知識です。
バックオフィス業務を俯瞰する
前回、バックオフィス業務を書き出しましたが、今回はそれを各フェーズで業務ウェイトがどう変遷するかのイメージを見ることから始めましょう。(※画像Clickで拡大)
社長の業務が少ないと錯覚する方もいらっしゃると思いますが、社長は会社全体の把握や経営方針を決定したり、自ら事業を引っ張るためにもサービスのてこ入れやトップ営業などをするのが本業です。このグラフはバックオフィス業務に特化していますのであしからず。
各業務の最大値は、それぞれ経理30、財務20、人事労務30、総務10、社内IT10、経営企画20、その他(IR・内部監査等)20で数字を出しています。
もちろん、個人事業主か法人かで各業務負担も変わります。また、日々の取引量が拡大すれば、取引伝票が増えることで経理業務も増えますし、契約書チェックや入金管理業務も増えるでしょう。従業員が増えれば、日々の人事労務業務も増え、給与計算の件数も増えます。産業医や衛生管理者の設置や委員会などの労務管理や人事評価、採用から入退社手続きも必要になってきます。
人事労務の業務について、入社から退社の視点で整理したのが下記図となります。(※画像Clickで拡大)
それでは図に従って、創業フェーズの各業務の量と質を解説します。
経理
業務量はそれなりにあります。税務申告や、それに関連する記帳(帳簿をつける)業務は、取引量にもよりますが、必ず一定量発生します。創業期では、原価計算について厳格でない企業が多い印象です。
財務
財務関連の業務量も、それなりにあります。企業にとってのお金とは、人間でいうと血液です。無くなると死んでしまいます。特に気をつける必要があるのは、売上≠入金では無いという点です。売上のあったものに対して、入金があったかの管理が必要です。もちろん、請求書の発行が必要なのは言うまでもありません。
もうひとつ気をつけたいのは納税です。種類や規模にもよりますが、毎月必ず支払うというわけでは無く、ある時期になると納税のお知らせがやって来ます。税金は、ちゃーんと積み立てて確保しておく必要があります。
あとは、銀行からの借入や、第三者からの出資を仰ぐ場合には、業務量がさらに増えます。金融については今回の範囲から外れますので省略します。また別の機会にご紹介できればと思います。
人事労務
業務量は、気持ち程度あるという感じです。法人の場合は、社長だけの会社の場合でも、社長自身が社会保険に加入する必要がありますし、給与計算する必要もあります。
総務
業務量は、ほぼないです。事前に計画して管理するというより、必要となったら都度そろえる形になるからです。オフィススペースの確保、パソコン、プリンターやIT機器周り、製造業なら設備、それが購入なのか、リースなのか。そのあたりが創業期の総務業務となるでしょう。
法務
業務量は、ほぼないです。事業内容にもよりますが、機密保持契約書、業務委託契約書、各種規約などは取引先からの要請に対応する程度で、自ら締結を提案するケースは少ないのではないでしょうか。
しかし、契約書はあったほうが良いです。うちは契約書作っていないよ。信頼関係で成り立っているから。というのも実際にはあるかもしれませんが、ビジネス契約書に関連する簡単な本を読みつつ、無料雛形などを自分なりにチューニングして使うところからでも始めましょう。あと、契約書によっては、印紙が必要になりますから忘れずに。
社内IT
業務量は、ほぼないです。最初からIT化する事はあまり無い印象です。メールやチャット、スケジュール管理、ファイル共有などのインターネット環境は最低限必要だと思いますので、それら設定は必要でしょう。会社が大きくなるにつれて必要性を痛感していくと思いますので、情報感度を高くして来るべき時に備えましょう。
経営企画
業務量は、まぁあります。え?創業して経営企画なんてあるの、こうへいさん、本当ですか?と感じる方もいると思います。 ここでいう経営企画とは、創業時でいえば創業計画、毎期毎期でいうと目標計画です。特にお金を借りる、調達する、助成金を活用する等を検討している場合には必須となります。
でも、そんなに構えないで下さい。まぁありますとした理由は、上でお話したお金の調達や助成金など以外は、そんなにすごいものを作る必要は無いという事です。最低限、実績を把握しましょう。月いくらぐらい売上があるか、新規顧客が増えた、既存顧客が減った、何か買ってコストが発生したかという実績です。そして、このままいくと年間でいくらぐらいに着地しそうか、ざっくり把握できるようにしましょう。おいおい中小企業診断士でもあるこうへいがそんなこと言いきっちゃっていいの?と怒られるかもしれませんが、社長としてやるべきことに専念しつつも常にそういうことを考えておいてくださいというニュアンスで、それを経営企画としています。
誰がバックオフィス業務をやるのか?
創業期は、社長と士業が担当するのが良いと思います。もちろん最初から家族従事者やスタッフがいれば、力を借りても良いと思いますが、前回もお話した通りダークサイドに落ちる危険性があるので注意してください。
それでは各業務の担当者と考え方を解説します。
経理
基本的に、会計事務所(税理士)に任せるのが通常です。任せるといっても、請求書や領収書、交通費等の日々の事務は、スタッフや社長が行い、税理士に提出するというフローになる事が多いと思います。
財務
社長が担当するのが良いと思います。銀行への相談や報告、資金繰りや現預金管理は誰かに任せるのは難しいでしょう。秘密にしておきたい大切な会社の情報もあるでしょうし、お金の持ち逃げ等のリスクも可能な限り低くしたいです。
税理士は、なかなか財務はやってくれないと思います。どうしても社長本人が担当しない場合は、経営陣の内で信頼できる人に任せるべきでしょう。その場合も、代表印や銀行印は社長が持っておきましょう。
ここまで言うには理由があります。前回お話した通り、財務担当者がダークサイドに落ちるリスクを避けたいためです。
財務担当者のダークサイドリスクで一番気をつけたいのは、お金の持ち逃げです。最初からそういう人だったという場合もありますし、そういう人になってしまったというケースもあります。ストレスからお酒に飲まれて散財するようになった。交際相手に影響を受けた、投資関連の失敗した等の理由から、人はダークサイドに陥ります。経理部長宛や管理部長宛に、投資関連の電話が多くなっている場合には注意が必要です。
なお、財務担当スタッフには権力が集中します。それによって、周囲が気を遣い、社内がぎくしゃくする危険性もあるのでこの点も注意しましょう。
ダークサイドに落ちるのは、その人自身がすべて悪いわけではありません。人は誰でもダークサイドに落ちる可能性があります。
担当者の日々の業務を少しでも理解して、どういうところが大変なのか、どういう風に頑張ってくれているのか発見し、認めてあげることが大事だと私は思います。
人事労務
会計事務所(税理士)もしくは社長が担当するのが良いでしょう。従業員が少ない場合、給与計算は経理の延長で会計事務所に依頼することが多い印象です。従業員の入退社等のイベントが発生した場合の手続きは、社長自身で行うか、社労士にお願いすることになります。就労関連の法規は、近年変更も激しいです。資金に余裕があれば、社労士に任せてしまい、社長自身は本業に集中する方が良いように感じます。最近では、クラウドで給与計算や労務手続きをサポートするサービスも増えていますので、これらを検討するのも良いでしょう。
総務・社内IT
社長もしくはスタッフが担当します。大掛かりな設備が必要な場合は、社長や専門知識のあるスタッフが携わることになるでしょう。
法務
社長が、営業の延長で行って交渉していくケースが多いでしょう。
経営企画
社長が担当となるでしょう。今月どれぐらい売上あがるか、頭の中でふとした時に考えると思います。経理を担当するのは、計算が得意な人や、好きな人かもしれませんがこの場合の計算は数字をルールにならって算出するという意味です。経営企画で必要なのは、その数字の意味を把握できる能力です。
これは訓練というか、そのことを常に考えていることで生まれてくるものだと思います。私自身IRを担当して間もない頃、そのことを痛感しました。次回以降で詳しく書きますが、会社が大きくなると社長の頭の中だけでは計算できないことが出てきます。
例えば事業やサービス単位の収支とか。関わる人件費や経費についてです。事業が何本も増えてきたら、社長一人ですべて計算するのは無理です。その場合、管理会計を構築して出てきた数字を頭の中でふとした時に考えていく形になると思います。頭の中で作れないから、作る素地を構築してそこから出てきた数字で経営を判断していくイメージです。
経営企画について士業の力を借りる場合、中小企業診断士が良いと思います。企業の想いや、そのための課題を一緒に考えて計画や進捗管理を社長と一緒になって考えてもらうような契約も可能です。
従業員が増えると、バックオフィスは変わる
従業員が増えると、社長は「自分だけだからいいや!」って言えない状況になります。健康保険、厚生年金保険、雇用保険などの社会保険等の加入手続き、社会保険の等級を年1に見直す算定基礎や労働保険料の申告、納付の業務が本格化してきます。毎月の給与計算や、年末調整も従業員数に比例して業務が多くなっていきます。
バックオフィス業務は、社労士などの外部へ依頼することができます。しかし例えば、新入社員への労働条件の通知書を説明、雇用契約書の締結や社内ルールの説明、パソコンの設定、そして社会保険関係の手続き等を、すべて社労士に依頼することはできません。社長やスタッフが担当する業務は、完全には無くならないという点も忘れないでください。
そうなると、下記のようなバックオフィス業務をする、事務担当スタッフが必要です。
- 経理:経理処理するために必要な領収書の証票集めやデータ等を税理士へ渡す。
- 財務:小口現金の管理、支払業務(振込業務で承認は社長)、請求書発行。
- 人事労務:入社手続きや雇用契約等を行い、資料を社労士へ渡す。給与計算結果を受ける。
- 総務:備品の手配などや書類の保管、取引先への造花手配。
- 法務:契約書の保管。
- 社内IT:パソコンの手配。
- その他:社長のスケジュール調整。
バックオフィス業務のほとんどは、社長でなくても出来る業務です。内部スタッフや士業の力を借りて、社長は社長としてやるべき事に専念すべきです。それにより企業は発展しますし、人を雇う事で社長として責任が増し、より頑張ろうと思えるでしょう。
年間カレンダー
前回の連載でお約束した通り、年間カレンダーを作ってみました。創業期フェーズからちょっと経過した企業を想定したカレンダーです。(※画像Clickで拡大)
バックオフィス業務は、企業によって異なるのが常です。所得税の納付も毎月でない場合もありますし、労働保険料も延納していなければ、このように多くないでしょう。会社の決算期、規模(金額や手続き)、規則やルール(入退者の受入れや採用方針等)によっても変わります。この図を参考に各企業で詳細をカスタマイズしていただければと思います。その際に税理士や社労士等に相談しながら確定すると、新しい気付きがきっとあると思います。
自社独自のカレンダーが完成したら、スケジュール管理するようにしましょう。バックオフィスのグループウエアにスケジュール登録する方法もありますし、週MTG等と一緒に業務カレンダーをエクセル等で作成し、終わったものからグレーアウトさせるのも良いでしょう。なお、年間カレンダーで管理できないような業務、例えば新入社員Aさんの入社手続き等についても、そのまま業務カレンダーに追加して同じように運用しても良いでしょう。もしくは、書籍やネットの情報を参考にTODOリストの雛形を作成・準備しておき、別で随時業務のスケジュール管理をしてもよいでしょう。
参考)個人事業主からの法人成りについて
個人事業主の方で、法人成りを検討する方も多いと思います。法人成りした場合に、特にバックオフィスにフォーカスしてメリット/デメリットをまとめた表をご紹介します。
良い点8や、悪い点4は、給与所得控除や繰越欠損金の年数の違い等に基づいて発生します。このあたりについては、税理士の得意分野なので相談してみましょう。
今回のまとめ
創業して間もない時期のバックオフィスは、税理士に経理を中心として依頼するケースが多いでしょう。依頼した場合にも、全てを丸投げできるわけではありません。社内で行わないとならない事務処理業務が残ります。その残った業務は、社長とスタッフで分担します。
社長が行うべきバックオフィス業務の筆頭は財務と経営企画です。お金が止まると死んでしまうため重要度はとても高いです。売上、費用のイメージを、常に頭に入れておきましょう。そしてその状態で、営業等、社長が本来行うべき事に専念すべきです。そして事業が拡大しけば、自分自身でまわす業務に限界を感じて、バックオフィス業務を担当するスタッフが欲しくなるでしょう。最初から覚悟を決めて事務スタッフを雇用することもあるでしょうし、従業員が増えてきて給与計算や社会保険手続きが本格化してきたら、税理士や社会保険労務士に業務を依頼することもあるでしょう。
ロールプレイングゲームでもそうですが、最初はパーティーがいなくて主人公(社長)だけです。会社のレベルや冒険が進むについれ、パーティーのメンバーが増えてきます。そのパーティーの中には、バックオフィスメンバーも、ポコポコ生まれてきます。
企業規模が拡大するにつれ、社内の管理体制を強化するか、士業等を積極的に活用して対応するかを判断する局面があります。今回は、社内で体制を作っていく事を想定した内容でご紹介しましたが、必ずしも全てを内製化する必要はありません。
月次決算のレベルでタイムリーに数字を管理したい、上場を目指してその体制を作る必要があるとなった場合、社内に体制を作ったり、人材のレベル底上げを行ったりする事が近道、かつ確実だと個人的には思いますが、もしそれ相応の外部委託先の士業等があるのなら、外部を活用するのも良いでしょう。
しっかり把握したい大事なところは社内で、計算や作業が必要な業務は外部でという組み合わせ型も良いと思います。その場合には、業務の設計書を、外部の士業等にアドバイスをもらいつつ作成し、その設計通りタイムリーに間違いなく外部にお願いする等の切り分けを意識しましょう。
「こうへい」について
営業マンからバックオフィスへ転身した元上場会社のCFO、中小企業診断士・社会保険労務士Office Miya-Line (ミヤ-ライン) 代表 宮木 公平(みやき・こうへい)
中小企業診断士、特定社会保険労務士、認定上級IPOプロフェッショナル(日本IPO実務検定協会 会員)として、企業のバックオフィスの応援に取り組んでいる。また、人事評価トレーニングの講師や厚生労働省受託事業のセミナー講師で全国を回っている。2017年の講師テーマで多かったのは「ハラスメント」でした。また、昨年12月に経済産業省「経営革新等支援機関」にも認定され、今年は、元CFO経験を活かした経営改善計画策定支援にも注力していく予定。
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