副業で働いた時間も通算?労基法38条との関係|契約解除0社労士・寺瀬学の「人事労務相談BEST5」 [第4回]

執筆: 寺瀬学

副業で働いた時間も通算?労基法38条との関係

みなさんこんにちは。S&Tプロフェッショナル社会保険労務士法人の寺瀬学です。
 
人事労務でご相談の多いトピックをご紹介するシリーズ。第4回目のトピックは「副業を認めた場合の労働時間の取り扱い」です。労働基準法第38条第1項との関係とともにご説明したいと思います。
 

契約解除0社労士・寺瀬学の「人事労務相談BEST5」目次

  1. 休職期間満了時に関する相談
  2. フレックスタイム制導入の相談
  3. 休職の従業員が復職後また休職。期間はどう通算する?
  4. 副業で働いた時間も通算?労基法38条との関係

 

副業の許可について

今年3月、政府は「働き方改革実行計画案」を発表し、非正規労働者の待遇改善や長時間労働是正などの19の改革項目とそのロードマップを示しました。
 

この19の改革項目の一つとして「柔軟な働き方がしやすい環境整備」が掲げられ、テレワークとともに副業や兼業の普及促進を目指すことが示されています。
 

従業員にとっては、副業や兼業(以下「副業」という。)は、収入を増やすことができることはもちろん、社外の環境で仕事を行うことで自身の人脈を広げたり、多角的な視野を持つなどのメリットがあり、また最近はクラウドソーシング等により副業を行う環境が整ってきていることもあり、副業を希望する従業員が増えてきています。
 

一方、会社にとっては、従業員が副業によって得られた知見や人脈を活かしてもらうことや、社外でも活躍する優秀な人材を確保できるなどのメリットがありながらも、副業を認めることにより生じる問題を懸念する声が大きいのも事実です。
 

そのため、顧問先のご担当者からは、次のようなご相談が寄せられます。
 

「当社では、副業は許可制としているが、先般、従業員から副業を希望する申し出を受けた。会社としてどのような基準で許可・不許可を判断すればよいのか。」
 

副業により生ずる懸念される問題としては、主に2つが挙げられるかと思います。

  1. 会社が持つノウハウや機密情報が漏えいしてしまうのではないか
  2. 心身の負担が増すことによって、本業の業務に支障が生じたり、健康障害を引き起こしてしまうのではないか

 

そこで、副業の許可を判断するためには、これらの問題をできる限りクリアにしておく必要があります。
 

①については、自社と競合関係にないか副業の内容を確認し、さらに会社のノウハウや機密情報が万一漏えいした場合の影響について確認して判断することが必要です。
 

②については、副業の業務内容や従事する時間(時間帯含む)など、質的・量的な面で確認を行い、自社の業務とあわせて過重な負担が生じることがないかを確認して判断することが必要です。
 

私の事務所では、副業の許可を願い出るための書式(副業許可申請書)において、上記内容が確認できる項目を盛り込むよう提案しています。

労働時間の通算はダブルワークの場合に生じる

次に、実際に副業の許可を検討しているご担当者からは、次のようなご相談をいただくことがあります。
 

「会社として副業を許可するとした場合、副業先の労働時間を通算しなければならないと聞いたが、どうやって通算するのか。そして、そのことで会社は何をしなければならないか。」
 

まず、この労働時間の“通算”についてですが、これは労働基準法(以下「労基法」という。)第38条第1項の「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。」とする規定を指しています。
 

そこで、ご相談への回答に際しては、まず副業には大きく分けて2つの種類があることをお伝えしています。
 

一つは、自営業やフリーランスとして行う副業であり、もう一つは副業先の事業主に雇用されて行う副業で、いわゆるダブルワークと言われるものです。
 

自営業やフリーランスの場合、一般に委託先との委託契約に基づき業務を行うことになりますので、労基法は適用されません。
 

一方で、ダブルワークの場合は、副業先と労働契約を締結することになりますので、労基法の適用を受けることになります。
 

したがって、ご相談の“通算”の問題は、ダブルワークの場合に生じる問題ということになります。

労働時間の通算の具体的方法

さて、労基法第38条第1項の“通算”の規定についてですが、条文では「事業場を異にする場合」としていますが、これは「事業主」が異なる場合も含まれるとしています。
 

そのため、例えばある日、A社で7時間勤務した後、B社で2時間勤務した場合には、この規定に従い労働時間を通算することになるので、1日9時間勤務したものとなります。
 

そうしますと、8時間を超える1時間分については時間外残業として取り扱う必要が出てきます。
 

次に問題となるのは、この1時間分の時間外残業に対する割増賃金をA社、B社のどちらが負担するかという点です。
 

この点について、行政の見解(「労働基準法コンメンタール(厚生労働省労働基準局編)」)は、原則として後に労働契約を結んだほうの会社が割増賃金を負担するものとしていますので、後に契約をしたのがB社であれば、B社が負担することになります。
 

しかし、行政は例外的な取扱いがあるともしています
 

それは、先の例において、もしA社が、B社で2時間勤務することを知っていながら、7時間から8時間に勤務時間を延長した場合のケースです。
 

この場合、勤務時間は通算して10時間となりますので、2時間分の時間外残業が生じることとなりますが、2時間のうちの1時間分については、後に契約を結んだか否かにかかわらず、A社が割増賃金を負担しなければならないことになります(残りの1時間分は、原則に従って後で契約を結んだB社が負担します)。

副業先(ダブルワーク先)の労働時間の把握、確認の必要性

ご相談のケースにおいては、副業を申し出た従業員は、すでに顧問先である会社と労働契約を締結していますので、副業先(ダブルワーク先)とはその後に労働契約を締結することになります。
 

したがって、労働時間を通算することにより割増賃金が発生する場合には、基本的には副業先が負担することになりますので、本業である顧問先では、副業先の労働時間の把握・確認の必要はあまりないともいえます。
 

しかし、先述の例外的な取扱いに該当する場合も想定されますし、顧問先(副業先も同様ですが)には使用者としての安全配慮義務が課せられていますので、過重労働防止という観点からも、やはり副業先の労働時間を把握・確認していく必要があるということになります。

まとめ

このように、ダブルワークによる副業の場合には、労働時間の通算や安全配慮義務の問題があるため、副業先の労働時間を把握・確認する必要があるわけですが、実務的にこれを把握、確認することはなかなか困難です。
 

したがって、ご相談が寄せられた際には、個別具体的な状況を踏まえて、現実的な対応を検討、提案するようにしています。
 

また、そもそもの許可の段階で、まずは自営業・フリーランスによる副業に限定して認めることも一法ではないかと思います。
 

 なお、専門家の中からは、この労基法の通算規定の見直しが必要という意見も出されており、また、冒頭の「働き方改革実行計画案」においても、副業について労働時間管理に問題があることを認識のうえ、その在り方について検討を進める旨が示されており、私ども社労士もその動向を注視しているところです。
 

それでは、次回またお会いしましょう。
 

契約解除0社労士・寺瀬学の「人事労務相談BEST5」目次

  1. 休職期間満了時に関する相談
  2. フレックスタイム制導入の相談
  3. 休職の従業員が復職後また休職。期間はどう通算する?
  4. 副業で働いた時間も通算?労基法38条との関係

 

Profile

寺瀬学
寺瀬学
S&Tプロフェッショナル社会保険労務士法人・代表社員
1999年東京大学理学部卒。日商岩井㈱(現双日)、㈱ヒューマンテック経営研究所(社会保険労務士法人併設)を経て、2015年3月に当法人を設立。著書に「さまざまジョブリターン制度」(経営書院刊「進化する柔軟な雇用管理システム」所収)、「単身赴任の対応と支援策」(経営書院刊「人事異動・転勤支援ハンドブック」所収)ほか。