インフルエンザで出勤停止。どう給与計算する?

執筆: 大橋 智子 |

従業員がインフルエンザやノロウイルスなどの感染症にかかった場合、感染を防ぐため従業員は会社を休むことになります。この場合、給与の支払いはどうなるのでしょう?

欠勤扱いにするのか、それとも有給休暇を使用するのがよいのでしょうか?またその際の給与計算ではどのようなことに注意したらよいのでしょうか?

ここでは、社員がインフルエンザやノロウイルスに代表される感染症、またそのほかの私傷病で休んだ場合に、給与計算で注意すべきポイントを解説していきます。

学校保険安全法では

文部科学省が定めている学校保険安全法ではインフルエンザにかかった場合

発症した後五日(発症した次の日を1日目として)を経過し、かつ、解熱した後二日を経過するまで

と定められていますが、会社では会社ごとの規則に従うことになります。

会社の就業規則を確認しよう

インフルエンザやノロウィルスなどの感染症で仕事を休んだ場合の給与計算にあたってまず確認してほしいのは就業規則です。
就業規則に、病気休暇制度に代表されるような「従業員が感染症などにかかった場合の取り扱い」について定めがありますか?定めがあればそれに従うというのが大原則です。
もし、就業規則に「病気休暇中は無給とする」などの記述があれば、その休暇に対して給与を支払う必要はありません。

会社に就業規則がない場合は?

会社に就業規則がない場合には、大原則として「ノーワーク・ノーペイ」、つまり働いていない日に対しては給与を支払わなくてよいということになっています。

つまり、インフルエンザで休んでる間の給料は支払わなくていいということです。

ただし例外として、有給休暇を使う場合と、会社が従業員に対して「仕事を休むよう命じる」場合があります。詳しくはこのあとで解説していきます。

休業は本人の申し出・会社命令のどちらだったのかを確認しよう

次に確認したいのは、インフルエンザやノロウィルスなどの感染症による休業が従業員本人の申し出によるものだったのか、それとも会社側が従業員に命じたものなのか、ということです。

もし従業員本人がみずから自主的に仕事を休むと申し出たのであれば、通常の病欠と考え方は同じです。有給休暇を使うのであれば給与を支払うことになりますし、欠勤扱いにするのであれば給与の支払は不要です。

ここですこしやっかいなのは、従業員本人は出勤する意思があるのに、社内で感染症が拡がっては困るからと会社が従業員を出勤停止にした場合です。

感染症にかかっているとはいえ、働く意思がある従業員を自宅待機させるにあたり、会社は給与を支払わなくて本当によいのでしょうか?

このように会社が従業員に休業を命じる場合には、「会社都合による休業」として、給与ではなく「休業手当」をその従業員に支払わなければなりません。

有給休暇を使いたい?自主的休業なら従業員本人の意思を確認しよう

従業員がインフルエンザやノロウイルスなどの感染症で自主的にお休みした場合についても解説しておきます。

給与計算の際には従業員本人が有給休暇の使用・欠勤扱いのどちらを希望しているのか、ご本人の意思を確認するのが望ましいでしょう。有給休暇を使いたいという場合もあれば、有給休暇を使わず欠勤扱いにしてほしいという人もいるからです。

しかし、さきほどのように会社がインフルエンザやノロウイルスなどの感染症にかかった従業員を出勤停止とした場合に、もし従業員から「有給休暇を使いたい」と申し出があったら、どうしたらよいでしょうか?

原則を言えば「会社が休業を命じた」のであれば「有給休暇」を使うことはできません。
「有給休暇」というのは「労働の義務がある」日に、その労働の義務を免除するものです。ところが、会社が従業員に対して「休業を命じる」場合には、そもそも労働者には「労働の義務」がありません。労働の義務がないのですから「労働の義務を免除する」こともできませんよね。だから有給休暇を使うことはできない、という考え方になるわけです。

ただし、ここでもまた就業規則を確認してみましょう。

従業員が感染症にかかった場合の給与の取り扱いについて、どのように書いてあるでしょうか。

「(会社は従業員に対して)休業を命じることができる」と書いてありませんか?

法律や規定などで「○○できる」という言葉が使われるとき、その意味は「○○しても、○○しなくてもどちらでも選択することができる」という意味です。

つまり、「休業を命じることができる」と就業規則に書いてあるなら、会社が従業員に対して休業を命じるか命じないかは、その時々の状況をみてケースバイケースで対応できる」ということになります(ただしケースバイケースで対応を変えるのであれば、それなりのきちんとした常識的な理由が必要です。気まぐれや好き嫌いで対応を変える、なんていうのはもちろんダメですよ。)。

さて、ではここでもう一度、休業にあたり有給休暇を使えるかどうかを考えてみましょう。
例として、インフルエンザで会社をお休みしたAさんは、給与カットを受けたくないので「有給休暇を使いたい」と希望しているとしましょう。その場合には、Aさんが自ら仕事を休むことを申し出ているのですから、Aさんは有給休暇を取得することができます。これなら、Aさんはインフルエンザでお休みした日に対しても給与の支払いを受けることができます。

また、ノロウィルス感染で会社をお休みしたBさんからは、「有給休暇を使わずに欠勤扱いにしてほしい。給与はカットされてもよい」と申し出がありました。このような場合にはBさんの希望どおり有給休暇を使わずに欠勤扱いとすることができます。

病気・ケガによる休業でもらえる「傷病手当金」もある

病気やケガにより仕事をお休みした場合に、従業員が受け取れる公的補償があります。
健康保険法による「傷病手当金」という制度です。
これは、インフルエンザやノロウイルスなどの感染症だけでなく、そのほか業務外の病気やケガにより仕事をお休みした場合にも支払われるものです。

業務外の病気やさまざまな感染症、ケガなどによりお仕事をお休みして給与の支払いを受けられない場合に、給与(手取りではなく額面給与)の約3分の2に相当する額が健康保険制度から給付されます。
給付を受けるための条件として、連続3日間以上の休業をしていること(休業4日目以降は飛び石のお休みでもOK)、その休業の原因となった傷病で初めて医師の診断を受けた「初診日」から1年6か月以内の休業であること、などの要件があります。
この「傷病手当金」制度は、インフルエンザやノロウイルスなどの感染症、そのほか病気やケガで仕事をお休みする従業員の強い味方です!こんな制度があればもしもの病欠による給与カットの場合にも安心ですね。病気やケガで欠勤する従業員がいたら、ぜひ「傷病手当金」の請求をすすめてあげてください。

診断書は提出してもらうべき?

傷病手当金の申請をする場合は診断書を提出してもらう必要がありますが、そうでなければ必ず提出してもらうこともないでしょう。診断書を書いてもらうのに3千円ほどかかり従業員の負担にもなるので、慎重に考えて判断しましょう。

まとめ

従業員がインフルエンザやノロウイルスなどの感染症でやむなく職場に出勤できなくなった場合は、まず就業規則で病欠の給与に関する規定があるかを確認しましょう。

インフルエンザやノロウイルス感染を理由に会社が従業員を出勤停止にする場合は、会社はその従業員に対して「休業手当」を支払わなければなりません。

会社が従業員に休業を命じたら、その休業を有給休暇扱いとすることはできません。ただし従業員が自主的に仕事を休み、有給休暇を使いたいと意思表示するなら有給休暇を使うことができます。

「傷病手当金」はインフルエンザやノロウイルスなどの感染症だけでなく、病気やケガで仕事を休み、給与をカットされてしまう従業員の強い味方となります。