従業員の過労死を防ぐために中小企業が注意しなければならないこととは?

執筆: 『人事労務の基礎知識』編集部 |

 長年、日本社会において労働者の長時間労働は問題視されてきました。

厚生労働省の最近の調査では、週労働時間が60時間以上の労働者は全体の9.4%(平成22年度)となっており、全体としては減少傾向ですが、子育て世代の30代男性は18.7%と依然高い傾向にあります。

また、「強い不安、悩み、ストレスを感じている」と答えた労働者は全体の58%と半数超を占めており、仕事による精神的負荷は多くの労働者にとって大きなものとなっていることが分かります。また、平成27年度には、うつ病を始めとする精神障害等で労災が請求された件数は過去最多となりました。

労働者の労働環境に対する社会の意識は年々高まっています。

過労死とは?

 過労死とは、一言で言えば「働き過ぎたことが原因となる死」です。長時間労働による肉体的疲労や、精神的負荷が蓄積すると心身に異常をきたし、死に至ることがあると言われています。

大きく2つに分けると、脳内出血や心筋梗塞などで身体に異常をきたし突然死する場合と、うつ病などの精神疾患を発症し、自殺に追い込まれるという場合があります。

海外との比較

 経済協力開発機構(OECD)の2012年の加盟35か国の平均労働時間のデータによれば、日本の一人あたりの一年間の総労働時間の平均は1,746時間であり、世界第15位となっています。

働き過ぎと言われる日本にしては低い順位という印象を受けるかもしれません。しかし、別のデータもあります。OECDの2014年のデータでは、日本の男性の労働時間数が休日も含んで一日あたり平均375分で、OECD26か国中第1位という結果になっています。

また、同じくOECDの2014年のデータによれば、日本の女性の一日の有償労働、学習時間の長さは206分で世界第16位であり、男性は471分で世界第1位となっています。日本の女性は、結婚や出産・育児を機にパートやアルバイト等に働き方を変え、労働時間を短縮する傾向にあります。

最初のデータでは、男女合わせたデータであるため労働時間の平均値が短くなっていますが、男性だけで見ると違う結果が現れます。やはり、日本人は世界的に見ても働き過ぎと言わざるを得ないでしょう。

過労死を防ぐために会社がすべきこととは?

(1)労働時間の管理・実態の把握

残業や休日出勤などの長時間労働は、過労死の大きな原因です。管理職等職場を管理する立場の人は、部下の労働時間を定期的にチェックし、過労死のリスクが高い人がいないか確認しましょう。

(2)長時間労働を常態化させない

日本では勤勉であることが美徳とされ、残業した方が働き者であるとして評価されてきた傾向があります。残業するのが当たり前で、習慣化してしまっている職場もあろうかと思います。

しかし、日本の労働生産性は2015年のOECD加盟34か国中21位と、労働時間が長い割に世界的に見ても低いという現状があり、今までの考え方を見直していく必要があります。
繁忙期に残業等を行うのはやむを得ないでしょう。しかし、そのような長時間労働が一時的なものでなく、常に行われる場合には、人手不足や職場の慣習など、何らかの問題があると言わざるを得ません。

職場全体として業務量が多く、長時間労働が続くような場合には、新しい人材を補充することも検討する必要があります。労働時間が長い人については、不要不急の残業を控えるよう声をかけることも重要です。また、週に一度は全員が残業しない日を作るなど、ノー残業デーを設けることも有効です。

(3)休日をきちんと付与する

例え忙しい時期であっても休日をきちんと与え、休息できる日を作ることもとても重要です。休日出勤があった場合には、代休や振替休日をきちんと付与しましょう。

(4)年次有給休暇(年休)の取得率を向上させる

平成27年度の就労条件総合調査結果では、労働者一人当たりに付与された年休の平均日数は18.4日であり、取得日数の平均は8.8日となっています。年休の取得率は47.6%と半分以下にとどまります。日本人は休みを取ることに罪悪感を感じる人も多いようです。

いきなり取得率を上げようと思っても、なかなか習慣として根付きにくい、という場合には会社として計画年休を与えるのも一つの手段です。計画年休とは、各人の有する年休のうち5日分以外は、労使協定で年次有給休暇を与える時期を計画的に決めてしまうという制度です。事業場全体で一斉に取得させてもよいですし、部署や個々人によって時期を変えることも可能です。

(5)業務分担の見直し

業務の分担をバランスよく行うこともとても重要です。仕事熱心で、例え業務量が多くても任せればできてしまうような労働者がいたとして、その人にばかり過剰な業務を常に負担させていれば、いつかはその人もパンクしてしまうかもしれません。

現に過労死してしまうような人はそういった、優秀で責任感の強い人が多いのです。仕事を任せる側としては仕事を頼みやすい相手かもしれませんが、特定の人に偏った業務配分は非常に危険です。今後の人材を育てるという観点からも、負担が公平になるように業務分担を行うべきです。

(6)労働者に職場の労働環境について聞く

職場の問題点について、表面的なことだけでは分からないこともあるかもしれません。そのような問題点を探るのに有効な方法としては、労働者の思っていることを直接聞き出すということです。職場を管理する人が、定期的に労働者一人ひとりと面談する時間を設けて、職場についての率直な意見を直接聞くのはとても重要なことです。日常業務が忙しく、なかなか部下一人ひとりに気を配るのは難しいことかもしれません。しかし、忙しさにかまけて全く顧みないでいると、重大なことを見落とす可能性があります。まずはちょっとした声かけでかまいません。少しでも時間を見つけて、職場の労働環境について考え、実態を把握し問題点があれば適切に対応していくことが必要です。

まとめ

 過労死は、長時間労働の傾向にある日本社会が長年抱える問題であり、近年ではうつ病などの精神障害等で労災認定されるケースが増加しています。

日本の、特に男性の労働者は、世界的に見ても一日当たりの労働時間数が最長となっています。過労死を防ぐために中小企業ができることは、まず第一に労働時間の管理と実態の把握です。その次に、長時間労働を常態化させないことです。人手不足の場合には人材を補充したり、労働時間が長い人には管理職が声かけを行いましょう。ノー残業デーを設けることも大切です。

忙しい時期であっても、きちんと休日を与え、労働者が休める日を設けましょう。有給休暇の取得率を向上させることも重要です。計画年休なども有効な方法です。また、特定の人に業務分担が偏らないように見直すことも重要です。表面上把握できない問題点を発見するのには、労働者一人ひとりと面談して話を聞く機会を定期的に設けることが有効です。管理職の人も忙しい中で、実態を把握し問題点を解決していくのは大変なことではありますが、少しずつでも時間を見つけ、日々の努力を積み重ねていくことで労働環境を整備していけば、過労死を防ぐことにつながっていくのです。