就業規則は性悪説で作り、性善説で運用することが重要|就業規則を作る前に知っておくべき考え方
執筆: 『人事労務の基礎知識』編集部 | |
就業規則については、労働基準法で、10人以上の労働者を雇用している事業場に作成義務が課されています。作成した就業規則は、労働基準監督署に届け出なければなりません。しかし、いざ就業規則を作ろうとするとして、どこにリスクが潜んでいるのかわかりづらく、簡単ではありません。そこで今回は、就業規則の設計・見直しのプロフェッショナルである、あすか社会保険労務士法人の大東さんに、就業規則の注意点についてお話をお聞きしました
就業規則を作るために持っておくべき前提となる考え方
Q|就業規則について「間違った作成方法」や「避けるべき考え方」など、今までのご経験の中で感じられることはありますか?
よくあるのは就業規則が前回作成・見直ししてから長い時間が経ってしまっているケースや、WEB上で公開されているもをそのまま使っていると言うケースですね。そのような就業規則は「竹槍で戦っている」ような状況です。
専門家がチェックすれば、相当のリスクを回避できる設計に変更できますので、とりあえず規則を作ると言う考え方ではなくて、作るタイミングで専門家の支援を入れるべきだと思います。
就業規則は10年前に比べて、重要性が年々高くなってきています。従業員に関するすべてと言っても良いほど重要なルールなので、ある程度コストをかけてでも、しっかりしたものを作成することが前提条件かなと思います。
作り方で重要だと思う考え方は、性悪説で作るということです。100人いる会社で99人が問題がなくても、1人問題が起こった時に就業規則の作り込みが問われることになります。性悪説で作成して、性善説で運用することが前提となる考え方だと思っています。
Q|就業規則は複数種類作ったほうがいいのでしょうか?
正社員やアルバイトなど雇用形態に応じて、就業規則は分けて作る必要があります。働き方や就業環境が大きく異なるはずなので、1つの就業規則ですべてを表現しようとしすると、わかりづらいものになってしまいます。
理解しやすい規則にすることで、周知の効率が高まるので、従業員が規則を知らないことによる余計なトラブルを未然に防ぐことにも繋がります。しっかりと分けて就業規則を作成しておくべきです。
就業規則を構成する要素ごとの基本知識
Q|採用・異動に関する就業規則の記述でトラブルを防止するためにできる工夫できること、慎重に検討すべきことなどはありますか?
採用時に提出してもらう書類は、採用時でなければもらいづらいものが多いです。そのため、しっかりと回収しておくことがトラブルを防ぐためにも重要です。特に前職をなぜ辞めたのかという書類は早めにもらった方が対策をしやすいかなと思います。
また書類のもらい方としては、3日以内など期限を明確に定めておくことが有用です。「なるべく早く」などでは、ずるずると提出が遅れてしまいますので、明確に期限を設けるべきだと思います。またその期間内に提出ができない人は、「遅刻癖」のある方なんだと認識して、その後は注意してコミュニケーションをしていくことが対策として重要です。これらのことをしっかりと就業規則に明記しておくべきです。
Q|健康が不調で休職する従業員が発生した時のために、就業規則ではどのような設定を取り得るのでしょうか?
まずはうつ病など精神的な病の対策を考える必要があります。復職の際に、取り扱いは会社が判断することなので、会社のお医者さんで見てもらうという規定や、回復しなければ、自然退職とするという規定を定めておくことが対策としては考えられます。
事業主さんによっては、「もうすぐ回復するから」という理由で、回復の期限を延長して退職を延期させる方がいるのですが、お勧めできません。延長してうまくいったケースを見たことがありません。何かと揉めることになるので、気の毒ではありますが、しっかりと事前に規定しその通りに運用することが重要です。
Q|服装などの服務規律ではどういったことを注意して設計すべきでしょうか?
接客など人と関わる職種については、身だしなみが重要になります。そのため外見はこうであるべきというモデル像を男女それぞれ図示すると良いと思います。図示することで、従業員の方も理解しやすくなるので、効果的かと思います。
別の規定でそういった図や詳細な説明を盛り込んでおいて、就業規則では、別規定を参照という旨を記載しておくと良いかと思います。
Q|一番よく議論になる労働時間・休憩・休日の部分ですが、何から考えていくべきでしょうか?考える順序があれば教えてください。
労働時間と休憩は、業種やビジネスモデルによって決まってくるかと思います。お客様との関係性の中で営業時間は決まると思いますので、それらを軸に労働時間が決まるはずです。ただ、定時勤務がいいのか、変形労働制を採用したほうがいいのかなどの部分は専門家と一緒にシミュレーションをしないと難しいと思います。近年では残業問題などのリスクが高まってきているので、労働時間に関する制度はかなり重要です。
休日を何日にすべきかは、経営とリクルーティングを考慮しながら設計する必要があります。年間休日の数によって採用活動の成績に直結したりします。有給消化率を業界でどのくらいの水準に位置付けて、どのような会社イメージを作っていきたいのかという部分では、経営判断に関わってきます。
Q|賃金の記載については注意点やトラブルになりやすい部分などはありますか?
最近多いのは残業代に関する記載です。多くの会社がみなし残業代制度を導入していますが、その規定の記載をチェックすると、何時間分の残業代を固定で支払っているのか不明瞭であるケースが多いです。深夜と休日の割増賃金も明確に記載していないと労基署からチェックを受けることは多くなってきています。
従業員の方に対しても、明確に賃金計算の方法を伝えておく必要があります。将来の紛争を防いだり、努力や結果に応じてお金ももらえるということを共有しておくことでモチベーションを高めることにつながります。
Q|定年・退職・解雇の部分では、気をつけるべきことはありますか?
定年は60歳になったらという記載があるのですが、60歳が正確にはいつなのかという問題があります。法律上は誕生日の前日に年齢が変わりますが、その設定で良いのかどうかも検討が必要です。また誕生日が賃金の締日と違う場合には、給与計算や支払いをどのように取り扱うのかなどを明確にしておくべきです。
今は懲戒解雇は限定列挙であり、就業規則に懲戒解雇事由として列挙していないと認められません。中小企業の就業規則を見ていると、記載が十分でないケースが多いです。今一度チェックされることをお勧めします。
Q|退職金については、記述が難しそうなイメージがあるのですが、どのように記載すべきでしょうか?
退職金制度がきっちりとある会社は非常に少ないです。大企業だとあると思いますが、よくある問題点としては、見直しがあまりされていないことが挙げられます。
また形式的に全員に一律同額を支払っていたりしていて、個人の成績などを考慮していないケースがあります。できれば、一人一人の努力や成果に見合った報酬が支払われる制度を目指すことが望ましいかなと思います。
退職金制度は普段目を向ける機会があまりないのですが、定期的にチェックする機会を設けるべきですね。その際には、経営者の思いを込めた制度にしていくとためにも、経営者も見直しのプロジェクトに参加すると良いと思います。長く在籍してくれたことに対する感謝の意味もあるので、しっかり取り組んでいただきたい部分です。
Q|安全衛生・災害補償の記述も、多くの方が慣れない部分だと思うのですが、どのような注意点がありますか?
よくあるのは伝染病・インフルエンザの際に、どのような取り扱いを行うのかを明確に記載しておくべきです。何日休みとするのかということや、有給扱いにするのかなど決めておきましょう。一定の規模の会社であれば衛生委員会の運用などもしっかり記述しておきます。
Q|表彰・制裁はどのように活用することができるのでしょうか?成功事例や失敗事例などありましたら教えてください。
表彰制度は規則に書いていない企業が増えてきていますし、書いていたとしても形骸化していて、やっていない企業もあります。ちょっとでも会社をよく見せる意味を込めて、表彰の記載を増やすケースもありますので、それらを踏まえて判断していく部分です。
制裁の部分はとても重要な部分なので、しっかり書いておかなければなりません。懲戒処分の前段階のペナルティである降格や減給などの理由も明確に列挙しておきましょう。何をすると制裁が与えられるのかを従業員の方もしておかなければ、いきなり制裁がきて納得できないと思いますので、明確な理由を共有しておくためにも記述は具体的に行いましょう。
就業規則の作成時における経営者の役割とは
Q|社労士さんと一緒に就業規則を作るやり方が一般的だと思うのですが、社労士さんとの仕事の進め方などで注意点などありますか?
社長の想いの部分と専門家の経験を合わせて規則を作っていくことが重要ですね。
インタビュー対象者
事務所名:あすか社会保険労務士法人
住所:東京都港区赤坂7-1-16 オーク赤坂ビル4F (他に、中目黒、大阪、名古屋、埼玉に事務所があります。詳細は、事務所Webサイトを御覧ください。)
業務対応可能エリア:全国対応可能
営業時間:平日 9:00~18:00
電話番号:03-6416-4705
メール:oh@asukagroup.net
Webサイト:http://www.all-smiles.jp
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