黒髪厳守の社内規定をつくってもよい?
執筆: 『人事労務の基礎知識』編集部 | |
労働基準法で10名上の従業員がいる場合には就業規則の制定が義務付けられており、その中では労働時間や休憩時間などを明示することになっています。
しかし、会社の職業柄、従業員の服装などにもルールや規程を設ける必要がある職種もあるのではないでしょうか。
服装などに関する項目で、従業員の規則においてどこまで詳しく設定しても良いものなのかを法律的な観点も交えてご説明していきましょう。
従業員の規則の目的とは
多くの会社で制定されている就業規則には絶対的記載事項というものがあり、どの就業規則も以下の項目について制定しなければならないとされています。
【絶対的記載事項】
- 始業、終業の時間
- 交替制がある場合は就業時の転換に関すること
- 休日、休暇に関すること
- 賃金の計算方法と支払い方
- 賃金の締日と支払日
- 昇給の有無
- 退職に関すること
一方で会社に定めがあるときに記載しなければならない、以下のような相対的記載事項というものがあります。
【相対的記載事項】
- 退職手当に関すること
- 賞与に関することおよび最低賃金に関すること
- 食費、作業用品その他を負担させる場合に、それに関する事項
- 安全、衛生に関する事項
- 職業訓練に関する事項
- 災害補償に関する事項
- 表彰や制裁に関する事項
これから考えると、従業員の服装や髪型に関する事項は法律的に記載すべき事項には特に含まれていない事項ということになりますね。
服装や髪型に関する規則を設けることは法律的に可能か?
それでは従業員へ服装に関する規則を設けることは法律的には可能なのでしょうか。
労働基準法上は、従業員に髪型や服装に関する規定をしてよいという権限はないということになりますね。
また、髪型や服装に関することは憲法上の「表現の自由」などの権利に反することになるので、原則的には会社が従業員を規則で縛ることができないものではないという解釈ができます。
会社が従業員の髪型や服装について規則で制定することは人権侵害になどに当たる問題が出てくるということなのですね。
規則で従業員の服装などを規定しても良い場合は
それでも仕事柄、安全面や衛生面での影響などの問題で合理的と判断されることであれば、規則を制定しても合法とみなされます。
例えば食品工場での勤務において、衛生的な観点から髪の毛が長い場合にはきちんと結ぶようにする、などという規定を設けることは合法的ではないでしょうか。
クリーンルームで規定の制服を着用するようにという規定も、衛生面で考えれば合法的と言えるでしょう。
それでは髪の色は、安全面や衛生面に影響は出るのでしょうか?
髪の色は見栄えだけの問題になってしまい、黒髪でないと安全面や衛生面で問題があるという主張は難しいでしょう。
合理的とは言い難いので、黒髪でなければならないという規則を従業員に対して設けることは厳密に言うと合法的とは言い難いです。
それでもサービス業やお客様に接する職業であれば、染髪によってお客様に不快感を与えたり、信頼を損なったりする恐れもあり、企業イメージに関わる可能性がありますね。
そのような職業では実際に就業規則に髪を染めてはいけないという規則を設けているところがあるのも事実です。
会社の規則が厳しいと従業員が嘆いていても、このような合理的な理由があれば、規則上制定することは問題ないのではないでしょうか。
髪型に関する規定を設けても合理的な職業とは
お客様への印象の問題で、髪型に関する規定を設けても合理的と言える職業は大まかに上げると以下のようなものではないでしょうか。
- 窓口でお客様に接するサービス業
- 百貨店などの小売業
- 食品関係の販売業
- 証券関係などお客様への信用が大切な職業
これらの職業は髪型によりお客様へ悪いイメージを与える恐れがあるとされているものなので、髪型に関する規則を従業員に設けることは問題ないと言えます。
それでもこれらの職業の場合は安全面、衛生面で髪型により影響が出るわけではないので、規程の違反に対する解雇などの行き過ぎた処分は裁判により不当とされる場合もあります。
以下の事件を参考にしてみて下さい。
東山谷家事件(平成9年12月)
トラックの運転手が髪を黄色く染めて勤務した際に取引先より「好ましくない」という連絡があり、会社が理髪店で髪を黒く染めて始末書を提出するように指示した。
従業員は始末書を提出せずに髪も自分で染めたために、解雇処分を受け、それを不当として裁判を起こしたもの。
裁判所は「髪の色は業務に支障がない」とし、「解雇は無効」としました。
https://www.zenkiren.com/Portals/0/html/jinji/hannrei/shoshi/07066.html
髪型に関する規定を行う場合は合理的な範囲で、通常は就業規則などで規定できるのは労働基準法で定められた事項が中心になります。
髪型や服装に関することは本来自由であるべき「表現の自由」の権利に反するものになるので、従業員に規則を定める際には注意が必要になってきます。
衛生上や安全面で支障が出る場合には、規則に制定すべき合理的理由があると考えられます。
しかし、お客様に不快感を与え、信頼を損なう恐れがあるといったイメージの問題である場合には、「企業の円滑な運営上必要かつ合理的な範囲内にとどまるもの」である場合に規則に制定できると考えましょう。
服装や髪型に対する規定は「表現の自由」の権利に関わることなので、規則を守らなかったことに対する、行き過ぎた処分は合法的ではないということを覚えておいて下さいね。
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