従業員を雇用するなら知っておきたい残業の基礎知識
執筆: 『人事労務の基礎知識』編集部 | |
会社を経営する中で、必ずといっていいほど生じる問題が従業員の残業です。
残業が多くなると、会社の経費がかさみます。残業が売上に直結する場合はよいのですが、そうでない場合も多く、時には経営状況を圧迫することもあります。経費が大きくなる以外にも、従業員の士気が下がったり、最悪の場合は過労死にいたるケースもあります。
今は政府や厚生労働省も残業の長時間化を問題にしており、過労死の基準(過労死ライン)になっている月80時間の残業時間を超えた企業を公表したり、健康診断の義務化などが行われたりしています。そのため、経営者には今まで以上に残業の知識が必要になります。ここでは経営者が知っておきたい残業の基礎知識をご紹介します。
法律での残業規定
経営者が残業のことでまず考えなければならないのが、法律での規定です。
労働基準法では、労働時間の上限が決められています。1日の労働時間の上限は8時間、1週間の労働時間の上限は40時間です。思ったよりも短いと感じる人も多いのではないでしょうか。
1日7時間労働の場合、1時間しか残業することができません。実際、1日1時間の残業だけで仕事が終わる会社は多くありません。そういった会社のために、労働基準法では特例も設けています。会社と従業員との間で話し合い、労使協定が結ばれた場合、その協定の範囲内であれば残業が認められます。それは労働基準法36条に基づいて労使協定が結ばれるので、36(サブロク)協定とも呼ばれます。36協定は、少し複雑な手続きや、働き方によってその上限などが決められています。
残業時間の計算方法
従業員が残業をした時には残業代を支払わなければなりません。実はこの残業代の計算方法は決まっており、それを使って計算する必要があります。
残業代を計算するうえで知っておきたいことは、「法定時間内の残業」と「法定時間外の残業」とでは計算方法が違うということです。
「法定時間内の残業」とは、労働基準法で決められている1日の労働時間の上限8時間、1週間の労働時間の上限40時間になるまでの残業をいいます。「法定時間外の残業」とはそれを超える時間の残業のことをいいます。
例えば、9時~17時が会社の勤務時間(昼休憩1時間)で1日7時間労働の場合、19時まで2時間の残業だと1時間は法定時間内、もう1時間は法定時間外の残業となります。法定時間外の残業については、1.25倍の割増の割増賃金の支払いが義務づけられています。計算式にすると、以下のとおりです。
法定時間外の残業=時間数×1時間あたりの賃金×1.25倍
残業時間の平均
残業時間のことを考えるときに、他の会社ではどれぐらいの残業時間が発生しているのかどうか気になるところです。
平成29年1月6日に厚生労働省から発表された「毎月勤労統計調査 平成28年11月分結果速報」によると、従業員が5人以上の会社では、所定外労働時間の月平均は11.1時間で前年比0.9%マイナスとなっています。
業界別では、運輸業、郵便業が一番多く24.3時間。次いで製造業16.5時間、情報通信業16.1時間となっています。
所定外労働時間の月平均が一番少ないのは医療福祉の5.0時間。次いで、飲食サービス業等 5.8時間、生活関連サービス業7.0時間とサービス業が比較的短い状況にあります。
男女別では、男性が15.7時間、女性が5.7時間と男性の方が多いですが、これは女性の雇用形態の多くがパートタイマー(時間制であることとも関係がありそうです。年代別でみると30代、40代の残業時間が一番多く、次いで20代となっていますが、女性だけ見ると、20代の残業時間が一番多くなっています。
ちなみに日本は海外に比べて働きすぎといわれており、経済協力開発機構(OECD)の2014年のデータでは、日本の男性の労働時間数が休日も含んで一日あたり平均375分で、OECD26か国中第1位という結果になっています。
参考:厚生労働省 参考資料(P.4)「週労働時間60時間以上の雇用者等」
残業中に休憩(無給)を設けることはできるか?
残業時間が長くなる場合、休憩はどうすればよいかということも問題になります。
労働基準法では労働時間が6時間を超え、8時間以下の場合は最低45分、8時間を超える場合は 最低1時間の休憩を与えなければならないと決まっています。この労働時間は残業時間も含んでの時間となりますので、1日7時間労働で45分休憩の場合、2時間の残業をすると労働時間が8時間を超えるため、残り15分の休憩を与える必要があります。
労働基準法で決まっているのはあくまで最低の休憩時間ですので、会社でこの時間以上の休憩を与えるのは問題ありません。
残業が多い場合はどうしたら減らすことができるか
残業が多くなると経費が膨らみ、経営を圧迫することがあります。また従業員にとっても仕事に対する士気がさがります。できれば必要のない残業は避けたいところです。そのために経営者ができることとして、以下の6つがあります。
- 労働時間の管理・実態の把握
- 長時間労働を常態化させない
- 休日をきちんと付与する
- 年次有給休暇(年休)の取得率を向上させる
- 業務分担の見直し
- 労働者に職場の労働環境について聞く
残業時間が月に45時間を超えてしまう場合はどうなるのか
上述した「36協定」には時間外労働時間の上限の目安が決められています。その上限が月に45時間です。労働基準局は1年間の半分、年6回はこの45時間を超えないよう注意喚起しています。では残業時間が連続して45時間超えてしまうとどうなるのでしょうか。
従業員が退職したときに、会社により退職を余儀なくされた「会社都合」による退職の条件に該当してしまいます。会社都合になる条件は、下記のすべてに該当する場合です。
①退職前の6ヶ月のうち
- 連続して3ヶ月、月45時間以上の残業をした場合(※1)
- 1ヶ月に100時間以上の残業をした場合
- 2ヶ月間から6ヶ月間に月平均80時間以上の残業をした場合
②行政機関から過労による危険や健康障害に関する指摘があったのにもかかわらず、経営者が何の対策もしなかった場合
ここ近年過労死の問題があるため、健康についての指導はきつくなっています。
月100時間を超える事業所は厚生労働省の監督指導対象となりますが、取り締まり強化のため、平成28年4月からは月80時間以上の事業所にまで対象を拡大しています。
平成28年4月~9月、厚生労働省は長時間労働が疑われる約1万の事業所に監督指導を行い、その結果を平成29年1月17日に発表しました。監督指導に入った事業所のうち、実に43.9%(4416か所)で労使協定を超えた長時間労働が行われていたとのことです。残業時間が月200時間を超える社員のいる事業所も、116か所ありました。
経営者は、残業時間についてきちんと把握し、上限を超えないよう注意が必要です。
(※1)月45時間以上の残業には休日出勤も含まれるので注意しましょう。
参考:「4割で違法な長時間労働 116事業所で200時間超も 厚労省調査」(産経ニュース)
まとめ
従業員の残業は、経営者がきちんと把握しておかなければなりません。残業代が多くなると経費も増えるという経営的な問題だけでなく、従業員の士気が下がったり、最悪の場合健康を害したりすることもあります。そうならないためにも、残業の基礎知識を身につけるように心がけましょう。
まず大事なのは、法律でどのように残業の規定がされているかということです。残業時間の上限や36協定、残業代の計算方法などをきちんと理解しておきましょう。
また、この記事に他の会社の残業時間や、休憩時間、残業時間を減らす方法などを記載しています。他社にくらべて残業時間が多いと感じる場合は、残業時間を減らすことを考えましょう。
近年、過労死の問題が深刻化していることから、健康についての指導はきつくなっています。社員の健康を守るのは経営者の使命です。ぜひ、この記事を参考に残業時間についてきちんと把握し、月45時間の上限を超えないよう努力しましょう。
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