社内でW不倫が発覚。さあ管理部門はどう動く?

執筆: 『人事労務の基礎知識』編集部

不倫の疑い

社内の管理部門は、時に従業員のプライベートに関わるような問題にも対処しなければならないことがあります。

その一つが社内での不倫です。社内での不倫は決して珍しいことではありません。また、その性質から会社の問題なのか、プライベートの問題なのかという線引きが難しいため、対応を誤ると別の問題に発展する可能性もあります。もし社内でそのような事実が発覚した場合に、管理部門としてどう対処すべきかをマニュアル化しておく必要があります。

今回の事例では、50人程度の事業会社で、営業課長の男性(既婚)と、営業デスクの女性(既婚)の職場内不倫を示す写真が発見された場合について考えていきましょう。

事実確認を行う際の注意点は?

不倫はプライベートなことと思われがちですが、それが職場に持ち込まれたことにより、社内に具体的な影響が認められれば、人事部として干渉することは可能です。

社内や取引先で噂になるなど、職場の風紀や秩序を乱していたり、業務に影響が出ている旨を具体的に示した上で、プライベートの問題ではなく、あくまで社内の問題であるとして本人たちに事実確認を行いましょう。

無神経な聞き方をすると、人権侵害、プライバシーの侵害であると捉えられる危険性があります。さらに、社内で不倫の噂が流れている場合は、その状況自体が環境型セクハラであるとして当事者が訴えてくる可能性があります。また、社内の噂の原因が、人事部しか知りえない個人情報が流出したことによる場合には、個人情報保護法違反を問われる可能性があります。

事実確認を行う際に、噂が更に拡大したりエスカレートするようなことにならないよう、周囲に悟られないよう配慮しながら、速やかに粛々と対処しましょう。

社内不倫による解雇は可能か?過去の判例を見てみよう

事実確認を行った上で、現に不倫関係があると認められた場合、当事者達への処分はどのようにすべきでしょうか。

最も重い処分としては、解雇というものがあります。しかし、私生活上の行為が理由で懲戒処分を行うことについて、過去の判例は慎重なものが多くなっています。

日本鋼管事件(最二小判昭和49・3・15民集28巻2号265頁)では、「従業員の不名誉な行為が会社の体面を著しく汚したというためには、必ずしも具体的な業務阻害の結果や取引上の不利益の発生を必要とするものではない」としつつも、「当該行為の性質、情状のほか、会社の事業の種類・態様・規模、会社の経済界に占める地位、経営方針及びその従業員の会社における地位・職種等諸般の事情から総合的に判断して、右行為により会社の社会的評価に及ぼす悪影響が相当重大であると客観的に評価される場合でなければならない」としています。

それを踏まえたうえで過去の社内不倫についての判例を見ていきましょう。

(1) 豊橋総合自動車学校事件(名古屋地判昭和56・7・10)

この事件では、自動車教習所を営む会社の従業員で送迎バスのドライバーをしている男性が、教習生の女性と不貞関係になったことを理由に、会社が男性を懲戒解雇したことに対する懲戒解雇の有効性が争われました(懲戒事由に不貞行為の他に経歴詐称も含む)。

<経緯>

男性は、自動車教習所の送迎バス運転手として、女性を送迎するうちに親しくなり、女性から誘われて喫茶店に行ったり電話をする仲になりました。女性が教習所卒業後は、女性宅に招かれ、子どもを交えて団らんするなど交際を深め、不倫関係になりました。

男性が女性の自宅に通っていることが女性の住む団地の人たちの噂になり、女性の親戚が心配し、知り合いを通じて会社に相談しました。会社は男性から聞き取り調査を行った上で、就業規則に基づいて男性を懲戒解雇処分としました。

<判決>

判決は、解雇無効とされました。女性が教習所に通っている間の交際については、交際が主として勤務時間外に、企業施設外で行われたものではあったものの「業務関連性が認められる以上、企業内の非行として評価すべきものである」としました。しかし、「職場規律違反ではあるが顕著なものではなく、またその結果、被申請人に財産上の損害は勿論業務阻害、取引阻害その他社会的評価の低下毀損等の損害が生じたものとも認められない」としました。

また、女性が教習所卒業後の交際については、企業外の行為ではあるが、近隣住民の噂となり外部から苦情が持ち込まれたこと、交際の経緯・態様に業務関連性があったことを考慮すると「社会的評価の低下並びに企業秩序の紊乱が生じたと認めるのが相当」としました。さらに、入校生の減少などの実際の損失が発生していることからその損害は重大とし、就業規則上の懲戒事由に該当するとされました。

しかし、これらの損失はあくまで「噂が原因となつたものであり、いわば一過性のものというべく」、取引上の損失も「損失額として具体的に把握できないことは明らか」とし、交際が女性が主導となって発生しており「同種事件の再発の虞は少いと考えられること」などを総合的に考慮した上で、「懲戒解雇にすることは著しく妥当を欠くものというべき」としました。

(2) 繁機工設備事件(旭川地判平成元・12・27)

この事件では、水道管の敷設を主たる業務とする会社において、女性社員がある妻子ある同社の男性社員と不倫関係となったことを理由に女性社員を解雇したことの有効性が争われました。

<経緯>

女性社員は同社の妻子ある男子社員と親密になり、不倫関係は、従業員のみならず、取引関係者にも噂されるようになりました。

会社の代表者は女性社員に対し、妻子のためにも交際をやめるよう忠告し、男性社員女性社員両方に交際を止めるようにと忠告しました。しかし、交際が依然として続いていたため代表者は、男性社員に対し、女性社員に自主退職するように話して欲しいと話しました。これを伝え聞いた女性社員が代表者に確認した際、代表者は不倫関係が社内の風紀に悪影響を及ぼし、ひいては従業員の士気低下につながることや、代表者の体面にも関わることを述べた上で、会社を辞めてほしい旨を伝えました。

しかし、女性社員は退職の意思はないと主張しました。代表者は女性社員に対し、会社全体の風紀・秩序を乱し、企業の運営に支障を来たしたとして女性社員を解雇しました。女性社員は解雇を無効として、雇用契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める地位保全と賃金(基本給、住宅手当および通勤手当)の仮払いを求める仮処分を申請しました。

<判決>

判決は、解雇無効とされました。

女性社員が妻子ある男性社員と男女関係を含む恋愛関係を継続することは、「特段の事情のない限りその妻に対する不法行為となる上、社会的に非難される余地のある行為である」とし、会社の「就業規則第23条2号の『従業員が素行不良で職場の風紀・秩序を乱した場合には懲戒をなし得る』の『素行不良』に該当しうることは一応否定できない」としました。

しかし、「職場の風紀・秩序を乱した」とは、会社の「企業運営に具体的な影響を与えるものに限ると解すべきである」とした上で、両者の交際が会社の「風紀・秩序を乱し、その企業運営に具体的な影響を与えたと認めるに足りる疎明はない」とし、「以上の次第で、本件解雇は、懲戒事由に該当する事実があるとはいえないから無効」と結論付けました。

(3) 長野電鉄事件(長野地裁 昭和45・3・24)

上記2つの判例とは逆の判決となった事件もあります。この事件は、妻子あるバス運転手である男性が、女子車掌と長期にわたり情交関係をもち同女を妊娠させたことを理由としてなされた普通解雇を解雇権の濫用であり無効であるとして地位保全の仮処分を求めたものです。

<経緯>

妻子ある運転士の男性社員は車掌(バスガイド)である未成年の女性社員と長期間にわたって不倫関係にありました。男性社員は女性社員に妊娠をさせた上で、さらに中絶までさせました。会社側は「会社の従業員間の秩序を著しく破った」として男性社員を解雇処分としました。

<判決>

妻子ある分別のある年配のバス運転手が、若年の女子車掌と不倫関係を結び、妊娠中絶させたこと、ひいては退職せざるを得なくなったことなどを「会社の従業員間の秩序を破ること著しきもの」としました。

また、超距離区間の観光バスや定期バスの場合は勤務途中の宿泊もあるため、このような事件は女性従業員の不安や動揺の原因となり、求人に悪影響を及ぼしたほか、業務の正常な運転を阻害したとして解雇事由の「著しく風紀・秩序を乱して会社の体面を汚し、損害を与えたとき」に当たり懲戒解雇に該当するとしました。

結論

会社の就業規則において、懲戒処分を行う理由として、「社内の秩序や風紀を乱し、または乱すおそれがあった時」というような項目を設定している会社は多いと思います。

しかし、不倫行為が例えこの懲戒処分の理由に該当したとしても、実際に処分を行うとなるとまた別の問題になってきます。社内での不倫が原因で職場においてトラブルを何度も起こしていて、それが企業運営に重大な影響を与えてしまい修復不可能である、というほどの深刻かつ具体的な影響がない限り、社内で不倫をしているという事実だけでは懲戒処分を行うのは妥当ではないと判例は示しています。

社内不倫による解雇が認められるケースは0ではないものの、稀なケースであると言えます。解雇が有効とされた前述の判例の長野電鉄は、交通機関という事業内容が社会の基盤に密接にかかわるものであり、社会的信用が特に重要となります。仕事の内容、職務上の立場、責任に照らして、企業秩序を害して具体的な影響があった場合のみ、懲戒処分の対象となるのです。一般企業にこの判例を当てはめるのは難しいと言えるでしょう。

即効性のある対応としては、今後の当事者同士の社内での接触を避けるためにどちらかを別の部署へ異動させることです。今後の防止策としては必ずしも処分を行う必要はなく、口頭の指導・注意や、不倫行為への警告書にとどめ、仮に処分を行うとしても、けん責、減給、出勤停止、懲戒休職などの軽い処分にしておくほうが無難です。

もし、会社からの処分に当事者が納得しない場合、裁判になる可能性があります。調整が難しい場合は、社会保険労務士や弁護士に相談した上で対応しましょう。

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『人事労務の基礎知識』編集部
『人事労務の基礎知識』編集部
株式会社BEC内で、Gozal(ゴザル)の編集制作を担当する部門です。社会保険労務士/弁護士/税理士などの専門家執筆陣とともに、中小企業の労務・給与計算担当の方が実務上感じる不安を払拭できるよう、情報発信しています。「こんな記事を読みたい!」とTwitterやFacebookでメッセージいただければ、可能な限り執筆いたします。