中小企業で歩合制の給与計算をする場合の注意点

執筆: 『人事労務の基礎知識』編集部 |

 営業職などの職種の場合、歩合制で給与を支給する場合があります。
歩合制の場合、固定給制とは給与計算が異なります。歩合制のしくみと給与計算を行う場合の注意点について、確認してみましょう。

歩合制とは

歩合制とは個人の業績に応じて支払う給与の計算方式で、売り上げに対して何%というふうに成果により、変動します。

よって、業績はよければ、給与はアップし、悪ければダウンします。完全実力主義ともいえます。

固定給の場合と比較して、業績がよければメリットになりますが、悪ければデメリットになり、安定性に欠けるともいえます。
ただし、この歩合制の場合でも、最低賃金や割増賃金のルールを守る必要があります

歩合制と最低賃金

歩合制と最低賃金の関係について、確認してみましょう。完全歩合制の場合での例です。

 

県のタクシー会社で働く労働者Cさんは、あるM月の総支給額が143,650円であり、そのうち、歩合給が136,000円、時間外割増賃金が5,100円、深夜割増賃金が2,550円となっていました。なお、Cさんの会社の1年間における1箇月平均所定労働時間は月170時間、M月の時間外労働は30時間、深夜労働が15時間でした。□□県の最低賃金は、時間額713円です。
Cさんの賃金が最低賃金額以上となっているかどうかは次のように調べます。
(1) Cさんに支給された賃金から、最低賃金の対象とならない賃金を除きます。除外される賃金は、時間外割増賃金、深夜割増賃金であり、
143,650円-(5,100円+2,550円)=136,000円

(2) この金額を月間総労働時間数で除して時間当たりの金額に換算し、最低賃金額と比較すると、
136,000円÷200時間=680円<713円 となり、最低賃金額を下回ることになります。
引用元:厚生労働省

歩合制と最低保障額

歩合制の場合は、売上がなければ給料がゼロになってしまうのではと不安にかられる人もいるかも知れません。

しかし歩合制の場合でも、労働基準法が当然適用となり、最低の保障額を定めています。

具体的には、最低保障額は平均賃金の60%以上となっています。よって、平均賃金が30万円の場合、たとえ売上に対して何%と歩合で設定していても、30万円×60%=18万円以上は給与として、支払う必要があります。また、この金額は前述した最低賃金を上回っていることも必要です。以下が労働基準法の規定です。

 

出来高払制の保障給(法第27 条)
 出来高払制(実績給制)、その他の請負制で使用する労働者については、出来高が少ない場合でも実収入賃金が低下することを防ぐために、使用者は労働時間に応じ一定額の賃金の保障をしなければなりません。
保障給の額は、常に通常の実収賃金とあまり隔たらない程度の収入が保障されるように定めることとされています。

引用元:東京労働局

 

歩合制と割増賃金

歩合制の場合でも、法定労働時間を超えて労働した場合は、その超過部分については割増賃金部分を支払う必要があります。

例えば、総労働時間が180時間で歩合給が18万円の場合、1時間あたりの時給は180,000円÷180時間=1,000円となります。この場合、1時間あたりの割増賃金は1,000円×0.25=250円となります。法定労働時間が20時間とした場合、250円×20時間=5,000円が割増賃金となります。
ここで、注意したいのは、あくまで割増賃金分なので、時給に0.25を掛けた部分であり、1の部分はすでに歩合の中に含まれているということです。

歩合制と有給休暇

有給休暇の期間に支払われる賃金の算定については、以下のように規定が定められています。

 

第二十五条 

六 出来高払制その他の請負制によつて定められた賃金については、その賃金算定期間(当該期間に出来高払制その他の請負制によつて計算された賃金がない場合においては、当該期間前において出来高払制その他の請負制によつて計算された賃金が支払われた最後の賃金算定期間。以下同じ。)において出来高払制その他の請負制によつて計算された賃金の総額を当該賃金算定期間における総労働時間数で除した金額に、当該賃金算定期間における一日平均所定労働時間数を乗じた金額

引用元:法務省

 

歩合給の人が、有給休暇をとる場合には有給休暇分の給与を支払う必要があります。例えば、歩合給が25万円で総労働時間が200時間の場合、250,000円÷200時間=1,250円の時給です。
1日8時間として、1日1,250円×8時間=1万円を1日分の有給休暇として支払います。

まとめ

歩合制の場合は固定給と異なり給与計算のしくみが複雑です。

ただし、歩合制の場合でも、固定給の場合と同様に労働基準法に従い、給与計算を行う必要があります。成果に応じて変動する歩合制ですが、実力主義を重んじる会社には適した制度であり、最低保障や最低賃金は守られているので、仕組みを理解した上で、導入を検討してもよいでしょう。