雨で自転車通勤しなかった従業員の交通費

執筆: 『人事労務の基礎知識』編集部 |

今日は雨だから自転車通勤しないよ

自転車通勤している従業員が、雨の日に電車やバスで通勤した場合、通勤交通費を支給するべきなのでしょうか?
 

義務では無いが、支払ったほうが良い。

そもそも通勤交通費の支給は、企業の義務ではありません。統計によると、約1割の企業では通勤交通費を支給していません。(逆言えば、9割は支給しているということですが…)
 
ですので、通勤交通費支給が義務ではないという前提で、以下説明いたします。
 

  • 自転車通勤に限らず通勤交通費を支給していない場合は、雨で電車を使ったからといってその分の交通費を支給する義務はもちろんありません
  • また、電車やバスで通勤している従業員には通勤交通費を支払っている場合や、自転車(自動車)通勤の従業員にも自宅からの距離等に応じて一定額を支給している場合だとしても、雨で電車を使ったからといってその分の交通費を支給する義務はありません

しかし可能ならば、雨天時には積極的に電車・バス通勤を行うよう従業員を誘導するような制度設計をされた方が良いと思います。つまり、自転車通勤の従業員が雨の日に電車通勤する場合は、電車やバスを利用した実費を次回給与支給時等に支給する方がスマートだと考えられます。

その理由は、雨の中従業員が自転車で無理に通勤したり、自己費用で電車通勤する場合のリスクが大きいためです。

雨の日は、交通事故のリスクが5倍になる。

雨の日の事故件数は、晴れた日の約5倍だと、首都高速道路では発表しています。
 
雨天時に自転車を運転していて、視界を悪く感じたり、ブレーキの効きが悪くなるという経験をされている方も多いのではないでしょうか?
 
また、自動車の運転経験のある方なら、雨の日に「ひやり」とした経験をお持ちの方もいらっしゃるでしょう。
 

雨の日に電車代やバス代を支給しなかった場合にどういう事が想定されるか考えてみましょう。

  1. 電車代を惜しんで、雨の中傘をさしながら自転車通勤をした従業員が、歩行者にぶつかって怪我をさせてしまった。
  2. 電車代を惜しんで、自転車通勤をして雨に濡れた状態で出社した従業員が、風邪をひいてしまった。
  3. 電車通勤したが、その従業員は普段通勤にコストをかけないため、損をした気分になった。(逆ギレですが…)

雨の日は電車やバス等で通勤してもらえるように制度設計する方が安心ではないでしょうか?

雨の日対策だけでなく、リスク軽減のためにも保険加入は必須

通勤中の事故には、基本的に労災が適用されますが、途中で買い物や食事に行った場合などの時にそれが「通勤中」であるかどうかの議論が分かれる場合があります。基本的に、合理的な経路及び方法によるものであり、就業に関する住居と就業場所を往復、あるいは別の就業場所への移動、単身赴任先からの帰省などの場合には「通勤中」だと受け止められますが、境目が曖昧なのはみなさんの経験からも明らかでしょう。

 

事故によって発生した金銭的負担が労災の限度内であれば問題ありませんが、それ以上の金額が必要になる可能性は経営にとって大きなリスクです。そのようなリスクに備えられるのが、使用者賠償責任保険(労災上乗せ保険)です。これは、労災訴訟時の損害賠償金、弁護士費用など判決や和解まで争訟費用をカバーできる保険です。

 

また、従業員自身にも「自転車保険」への加入を義務付ける事も有効です。従業員が加害者/被害者となった場合に、保険金が支払われます。ただし、通勤時に備えられる保険は「日新火災」などに限定されますので加入時には注意が必要です(2017年8月現在)。

自転車通勤を許可するのなら「自転車通勤規則」等を作ろう

自転車通勤は、多くの企業ではまだ「黙認」しているが「規則化」していないというのが実態ではないでしょうか。しかし黙認しているだけでは、雨の日のリスクや、その他のリスクに対応できているとは言えません。

自転車通勤をルール化している事例としてシマノ(自転車部品メーカー)や、「名古屋市」がよく知られています。名古屋市の場合、役所という性質上規則が一般に公開されています。「通勤手当規則」の中に、「自動車等」として自転車での通勤について言及されているので、自社で規則化する際には参考となるでしょう。

まとめ

自転車通勤はダイエットや健康増進を目的として、近年注目を集めています。また、給与上昇が頭打ちの中、小遣いを増やす目的で「こっそり」と自転車通勤する従業員もいるでしょう。

自転車通勤は、雨天時には交通事故の危険性が5倍に上がるという調査もあります。危険なだけでなく、雨に濡れたままの服装で勤務している従業員がいたら、社内風紀に影響します。

自転車通勤を会社として認めるのであれば、自転車通勤規則等を作成し、従業員に一定の責任を課す必要があります。その中には道路交通法への準拠はもとより、民間の自転車保険への加入義務化等も含むと良いかもしれません。

出典・参考情報