従業員解雇の条件、手続きを理解しよう

執筆: 『人事労務の基礎知識』編集部 |

解雇とは、会社からの一方的な意思表示によって労働契約を終了させることです。しかし従業員を解雇するには、「客観的な合理的理由があり、社会通念上相当であると認められる」ということが前提です。

遅刻・欠勤が多い、能力が劣るという程度の理由だけでは合理的な理由とは認められません。「誰が見ても解雇されても仕方がないという理由」が必要であり、その内容を就業規則に定めなければなりません。解雇には下記の種類があります。

解雇の種類

普通解雇・・・遅刻・欠勤が多い、著しく勤務態度が悪いなどで、会社が何度も注意したり解雇を避けるための努力をしたりしたにもかかわらず一向に改めない場合

たとえ就業規則に定めていたとしても、注意・指導を繰り返し行い、処分を積み重ねた証拠が必要となります。

整理解雇・・・会社の経営悪化などにより、支店や店舗の閉鎖し人員整理のために行う場合

懲戒解雇・・・窃盗、横領など罪を犯した従業員に対し、制裁罰として行われる処分

 

そして解雇をするには下記の条件が必要です。

①30日前までに解雇予告通知書で「解雇予告」をする

※30日前の数え方・・・例えば831日付で解雇する場合、30日遡ると起算日は82日になります。ですので、遅くとも8月1日には解雇予告を行っていなければなりません。無断欠勤等で出勤していないときは、郵送でも可能ですが、投函した日ではなく相手方に郵便が到着した日が予告日となりますので注意が必要です。

②平均賃金の30日分以上の解雇予告手当てを支払う

③上記を併用し、例えば8月1日に告知して8月20日付で解雇する場合は30日に不足する10日分以上の解雇予告手当を支払うという対応でも法律上は問題ありません。

また従業員が望む(請求する)場合は、解雇理由証明書を発行しなければなりません。

厚生労働省のWebサイトで、解雇理由証明書のPDFが公開されています。

 

従業員は会社からの給料によって生活をしている弱い立場ということで、労働基準法などの法律により守られています。従業員が異議を申し立てして裁判になった場合、会社側が勝つことは極めて困難です。解雇したい従業員がいる場合は、解雇を決定する前に必ず弁護士や社会保険労務士(社労士)に相談しましょう。

解雇に相当する労働者の違反とは「解雇予告除外認定」

従業員を解雇する時は解雇の予告又は解雇予告手当の支払いが必要です。しかし例外的に下記の条件に当てはまる場合は、解雇予告の除外認定を受けることで解雇の予告又は解雇予告手当の支払いが不要になります。

法律的には従業員がたとえ重大な罪を犯していたとしても、事前に解雇予告の除外認定を受けずに解雇する場合には、解雇の予告あるいは解雇予告手当ての支払いが必要とされています。

  • 天災などで会社が存続できない場合
  • 窃盗、横領、傷害などの刑法で罰せられる罪を犯し、会社の名誉信用を傷つけた場合
  • 賭博や、著しい風紀違反で、会社の規律を乱し、他の従業員に悪影響を与えている場合
  • 採用時に重大な経歴詐称があった場合
  • 欠勤や遅刻が多く、いくら注意しても改めない場合
  • 原則2週間以上無断欠勤し、会社からの連絡や、出勤督促しても応じない場合

解雇予告の除外認定を受けるには、事前に「解雇予告除外認定申請書(→厚生労働省解雇予告除外認定申請書)」を記入して、会社の管轄の労働基準監督署に提出します。解雇予告除外認定申請書の他に労働者名簿や問題行動についての顛末書、本人が問題行動を認めたことが分かる資料など多くの書類、この他にも会社や当事者の従業員から事情聴取を行うことなどが通達されているので、申請のハードルは高くなっています。

実際に書類を揃えて申請しても、認定が下りるまでには12週間程度の期間を要します。

また申請しても必ず認定が下りる訳ではないので、一度弁護士や社会保険労務士(社労士)に相談してみましょう。

即日解雇が出来る場合とは「解雇予告の適用除外」

解雇するには「誰が見ても解雇されても仕方がないという合理的な理由」が必要ですが、

下記の従業員の場合は解雇予告制度が除外されていますので、即日解雇できます。

  • 日雇い労働者の場合(雇用開始から1ヶ月を超えると解雇予告等が必要です)
  • 2ヶ月以内の雇用契約を結んでいる場合(契約期間を超えて引き続き使用される場合を除く)
  • 季節的業務に4ヶ月以内の期間を定めて雇用された場合(契約期間を超えて引き続き使用される場合を除く)
  • 試用期間中の場合(※14日を超えると解雇予告等が必要です)

解雇ができない場合とは「解雇制限」

30日前までに解雇予告をする、又は平均賃金の30日分以上の解雇予告手当てを支払うなど条件を満たせば解雇することは可能ですが、労働基準法の制限により解雇出来ない場合があります。解雇してはならない期間は下記の通りです。

  • 業務中や業務が原因で負傷又は病気になり療養のために休業する期間+その後30日間

通勤災害による休業は含まれません。

  • 産前産後休業期間(産前6週、産後8週)+その後30日間

この期間中はたとえ労働者の責めに帰すべき事由がある場合でも、原則解雇することは出来ません。ですが、例外として「3年を経過しても傷病が治らず、会社が打切補償を支払う場合」又は「天災等やむを得ない理由で事業の継続が不可能となった場合」には解雇することができます。ただし休業中に解雇するということで従業員の生活に支障がでることがあるので、管轄の労働基準監督署の認定を受ける必要があります。

派遣社員、パート従業員(アルバイト)の解雇

解雇するための条件、手続きついて述べてきましたが、派遣社員でもパート従業員でも雇用形態が違えば自由に解雇出来るわけではありません。

今まで同様、「誰が見ても解雇されても仕方がないという合理的な理由」があり、30日前までに解雇予告をする、又は平均賃金の30日分以上の解雇予告手当てを支払うなど条件を満たさなければなりません。ただし派遣社員の場合は派遣元の会社と労働契約を結びますので、1年更新などの派遣労働契約満了前に自己都合以外で契約を終了する場合は、派遣元の会社が30日前の解雇予告をするか、30日分以上の解雇予告手当を支払う必要があります。

派遣社員が実際に勤務しているのは派遣先の会社なので派遣先の会社に責任があると考えがちですが、労働契約は派遣元の会社と結んでいますので間違えないように注意しましょう。

まとめ

解雇は「客観的に解雇されても仕方がないという理由があり、社会通念上相当である」場合に認められ、さらに解雇予告等の順序をふんで初めて正当な解雇といえます。

従業員が仕事を失うということは今後の生活に関わる大きな打撃です。ですので、労働者は簡単に解雇されないよう法律により守られています。また解雇を行う会社側も、安易に「解雇だ!」と言ってしまうと逆に不当解雇で訴えられる可能性があり、訴えられてしまうと会社側が勝つことは極めて難しくなるでしょう。

解雇とはどういうものかを理解し、解雇できるかを見極め慎重に行うようにしましょう。もし解雇したい従業員がいて、解雇事由に当てはまるか分からないときは必ず専門家(弁護士や社会保険労務士)に相談しましょう。