税法上の配偶者控除、配偶者特別控除、扶養控除の違い
執筆: 『人事労務の基礎知識』編集部 | |
節税や働き方改革等で話題の配偶者控除ですが、配偶者と被扶養者は違うの?という疑問がおこりますよね。社会保険上の被扶養者には配偶者が含まれますが、所得税法上は控除対象となる配偶者と扶養者は区別されます。所得税法上、配偶者は特別扱いということですね。所得税、住民税(地方税)においてもそれぞれ控除を受けるための条件が異なりますので、わかりやすく解説いたします。
「配偶者控除」と「配偶者特別控除」と「扶養控除」の違い
控除対象となる配偶者と扶養者は所得税法上区別されることは少し触れましたが、控除対象配偶者については、もう一段階「配偶者控除」と「配偶者特別控除」に区分されます。配偶者控除と配偶者特別控除の大きな分かれ目はずばり、控除対象配偶者の収入の違いです。配偶者控除、配偶者特別控除、扶養控除のポイントをまず押さえましょう。
配偶者控除のポイント
控除対象配偶者の年間の合計所得が38万円以下(給与収入のみならば103万円以下)ならば控除額は一律38万円。(70歳以上の老人控除対象配偶者の場合48万円)
配偶者特別控除のポイント
控除対象配偶者の収入が103万円を超えると急に全く控除がなくなるのではありません。配偶者特別控除は配偶者控除の続きとイメージするとわかりやすいです。配偶者控除のように一律の控除額ではありませんが、一定の収入までは段階的に控除される制度です。
扶養控除のポイント
控除対象者が「配偶者以外」で、「16歳以上」の被扶養親族であることです。
[所得税] 配偶者控除の対象となる人とは
まずは配偶者控除からです。ポイントは年間の所得が38万円以下でしたね。詳細に見ていきましょう。控除対象配偶者とは、その年の12月31日の現況で、次の四つの要件のすべてに当てはまる人です。
1.民法の規定による配偶者であること(内縁関係の人は該当しません。)。
2.納税者と生計を一にしていること。
3.年間の合計所得金額が38万円以下であること。(給与収入のみの場合は103万円以下)
4.青色申告者の事業専従者としてその年を通じて一度も給与の支払を受けていないこと又は白色申告者の事業専従者でないこと。~「国税庁Webサイト No.1191 配偶者控除」より~
配偶者とは?
結婚(戸籍上の婚姻)している夫から見た妻、妻から見た夫が「配偶者」です。
納税者と「生計を一にしている」とは?
同居・別居に関わらず、日常生活の資(お金)を共にしている状態を指します。単身赴任など離れて生活していても、常に生活費、学資金、療養費などの送金を行っていれば、生計を一にしていると考えます。
「年間合計所得38万円以下(給与収入のみなら103万円以下)」とは?
年間の合計所得金額が38万円(年収103万円)以下の場合について事例を交えて考えてみましょう。(もちろん年間(1/1~12/31の期間)無収入である場合は計算の必要もなく配偶者控除の対象です)
(例)社員やパート、アルバイトなど「給与収入」を受けている場合
税金は収入に対して課税するのではなく、収入から必要経費を控除した所得金額に対して、課税を行います。収入を得るためにたくさんの投資をした人に対して、投資部分を考慮せずに課税すると不公平ですよね。そのような税金の考え方と同じく給与収入の場合にも給与所得控除(年収161.9万円なら65万円)というものがあり、課税の対象である所得を算出する際には、この控除を行うことができます。計算式は下記の通りです。
「給与収入金額 - 給与所得控除額(最低:65万円)= 合計所得金額」です。
例えば、配偶者に、年間100万円の給与収入がある場合、「 100万円(年収)- 65万円(給与所得控除)= 35万円」なので、38万円以下となり、配偶者控除を受ける事が可能です。
※「年収」とは、手取り額ではありません。給与の額面に表示されている金額の年間の合計です。税金や社会保険料を引く前の金額です。給与明細や源泉徴収票で確認しましょう。
「青色申告」や「白色申告」とは?
個人事業主の場合の所得税申告方法で、家族を専従者として扱っている場合は、配偶者控除の対象となりません。株式会社の場合は、実質的に家族経営であっても該当しません。
[所得税] 配偶者特別控除の対象となる人とは
次に、配偶者特別控除の対象配偶者の要件について見ていきましょう。
1.控除を受ける人(納税者)のその年における合計所得金額が1千万円以下であること。
2.配偶者が、次の五つの全てに当てはまること。
イ.民法の規定による配偶者であること(内縁関係の人は該当しません)。
ロ.控除を受ける人(納税者)と生計を一にしていること。
ハ.その年に青色申告者の事業専従者としての給与の支払を受けていないこと又は白色申告者の事業専従者でないこと。
二.ほかの人の扶養親族となっていないこと。
ホ.年間の合計所得金額が38万円超76万円未満であること。~「国税庁Webサイト No.1195 配偶者特別控除」より~
配偶者控除との大きな違いは
納税者の所得額が関係すること
配偶者特別控除は、納税者本人の年間所得が1000万円以下の必要があります。
控除対象配偶者の所得額
所得税の配偶者控除の場合は、配偶者の所得が38万円超76万円未満(給与収入だけの場合、年間収入103万円超141万円未満)でないと配偶者特別控除の対象とりません。
配偶者特別控除の控除額
配偶者の合計所得金額 | 配偶者特別控除の控除額 |
---|---|
38万円を超え40万円未満 | 38万円 |
40万円以上45万円未満 | 36万円 |
45万円以上50万円未満 | 31万円 |
50万円以上55万円未満 | 26万円 |
55万円以上60万円未満 | 21万円 |
60万円以上65万円未満 | 16万円 |
65万円以上70万円未満 | 11万円 |
70万円以上75万円未満 | 6万円 |
75万円以上76万円未満 | 3万円 |
76万円以上 | 0円 |
~「国税庁Webサイト No.1195 配偶者特別控除」より~
[所得税] 扶養控除の対象となる人とは
扶養というと、小さなお子さんを思い描きがちですよね。なぜ、16歳未満のお子さんが扶養控除の対象から外れたのでしょうか。それは、子供手当が開始され、そこで優遇を受けているとされたからです。損得は別にして取り敢えず理由が分かれば覚えやすいですね。繰り返しますが、扶養控除のポイントは、控除対象者が「配偶者以外」で、「16歳以上」の被扶養親族です。
詳しい要件は、以下で確認しましょう。
扶養控除の要件
配偶者以外の親族であること
親族とは、6親等内の血族および3親等内の姻族を指します。親や祖父母も対象となります。
生計を一にしていること
仕事、修学、療養費等の都合で別居していても、生活費、学資金、療養費等の送金(仕送り)が行われていれば、同一生計と考えられます。
所得制限以下であること
一定の所得がある親族の場合、所得が一定以下の必要があります。
具体的なケースでイメージしてみると
アルバイトやパートなどの給与所得者の場合
所得控除額の65万円を差し引いた後の所得が38万円以下の必要があります。
公的年金の受給者の場合
65歳未満は70万円、65歳以上は120万円を差し引いた後の所得が38万円以下の必要があります。
※配偶者控除の対象となった配偶者は、同時に「扶養控除」の対象となることができません。例えば、年金等の収入がある母を扶養している納税者(息子)で、母が父の配偶者控除対象者となった場合は、納税者(息子)の扶養控除の対象となることはできません。
年齢によって異なる扶養控除額
控除対象扶養親族:控除額38万円
扶養親族のうち、その年12月31日現在の年齢が16歳以上の人
特定扶養親族:控除額63万円
控除対象扶養親族のうち、その年12月31日現在の年齢が19歳以上23歳未満の人
老人扶養親族:控除額48万円
控除対象扶養親族のうち、その年12月31日現在の年齢が70歳以上の人
同居老親等:控除額58万円
老人扶養親族のうち、納税者又はその配偶者の直系の尊属(父母・祖父母など)で、納税者又はその配偶者と常に同居している人(病気の治療のため入院していることにより納税者等と別居している場合は同居とみなします)をいいます。
[住民税] 配偶者控除、配偶者特別控除、扶養控除とは
住民税は、所得税と異なり、税額の計算を市区町村等の地方自治体が行い、通知されます。住民税と所得税では、控除額が微妙に異なりますが、基本的な枠組みは同じです。ただ、16歳未満の扶養親族については所得税と扱いが異なります。以下、順にご説明いたします。
まずは、住民税(地方税)の、配偶者控除、配偶者特別控除、扶養控除(16歳以上)について簡単に記載します。
[住民税] 控除対象配偶者の要件
控除対象配偶者:生計を一にする配偶者で、かつ、年間所得が38万円以下である者
老人控除対象配偶者:年齢が70歳以上の控除対象配偶者
「財務省Webサイト [参考]人的控除の概要(個人住民税)」より~
[住民税] (配偶者特別控除の)対象配偶者の要件
生計を一にする配偶者で、かつ、控除対象配偶者に該当しない者
本人(対象配偶者の相手)の年間所得1,000万円以下の場合
※特別控除は、本人の年間所得が1000万円以下である必要がある点に注意が必要です。住民税は配偶者の所得金額に関わらず控除対象となります。
~「財務省Webサイト [参考]人的控除の概要(個人住民税)」より~
[住民税] 扶養控除対象者の要件
前提条件:生計を一にする親族等で、かつ、年間所得が38万円以下である者
年齢が16歳以上19歳未満又は23歳以上70歳未満の扶養親族:33万円
年齢が19歳以上23歳未満の扶養親族:45万円
年齢が70歳以上の扶養親族:38万円
老人扶養親族が本人と同居している場合は、+7万円
~「財務省Webサイト [参考]人的控除の概要(個人住民税)」より~
16歳未満の扶養親族
年末調整等で提出する扶養控除等申告書の下の欄に16歳未満の扶養親族を記入する欄があるのをご記憶でしょうか?16歳以上しか控除がないのになぜ記入するの?と不思議に感じた方もおられると思います。
この欄は「個人住民税の算定(非課税限度額の算定)」等の際に使用されるのです。
16歳未満の扶養親族に対する扶養控除は廃止されましたが、非課税限度額を計算する際に扶養親族には含まれます。少し手間ですが、扶養控除等申告書には必ず16歳未満の扶養親族についても記入しましょう。
配偶者控除・配偶者特別控除・扶養控除の違いまとめ
税金ときくと何だか難しそうで敬遠しがちですが、ご自分に身近な所得に関する控除は知っていると節税の効果も期待できますね。「配偶者控除」と「配偶者特別控除」のポイントは、控除対象配偶者の所得。全く別の控除制度ではなく、所得によって控除額が変わる分かれ目で名前が違いますよということです。
扶養控除は配偶者以外で16歳以上の扶養親族、所得の要件もあるということです。スッキリとポイントを覚えて働き方の参考にして下さい。
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