事業の義務である障害者雇用について押さえよう

執筆: 『人事労務の基礎知識』編集部 |

仕事を探す人には、仕事の条件に対して様々な希望があるものです。それは給与だったり、労働時間だったり、休日だったり、と千差万別です。ですが、とりわけ多くの条件をクリアしなければ就職できない人々もいます。障害者も、その中に含まれます。

障害にも身体的なものから精神的なものまで様々ですが、共通して言えるのは、労働能力が限定されること、また職場において配慮が必要になるということです。もし自由競争に任せていたら、障害者を雇用しようとする会社は少ないかもしれません。しかし障害を抱えていても、支援さえあれば労働し自立できる人も大勢いるのです。それで法律では、一定規模の会社に対し、従業員の一定の割合として障害者を雇用するよう義務付けています。これが障害者雇用率制度というものです。

障害者雇用とは

障害者雇用率制度とは、民間企業には全従業員の2.0%以上、国や地方公共団体には全職員の2.3%以上、都道府県などの教育委員会では全職員の2.2%以上の人数の障害者を雇用するよう定める制度です。
2018年4月1日から上記雇用率は変更されます。こちらの記事を参照してください。

この割合を法定雇用率と言いますが、人数を計算する際、小数点以下は切り捨てます。そのため、労働者の人数が少ない場合には雇用する人数が0人になります。

民間企業について言うなら、全従業員数が50名以上で1人の雇用義務が生じますので、49人以下の企業には障害者を雇用する義務はありません。
これと併せて、障害者雇用納付金制度も機能しています。

これは、法定雇用率を達成していない企業には納付金を納めさせ、法定雇用率を上回る人数の障害者を雇用した企業には調整金を交付するという制度です。

調整金が交付されるのは、障害者を雇用するにあたり、受け入れ先の職場では労働環境の整備などで出費していることが予想されるためです。これにより、多くの企業が積極的に障害者を採用するようになることが目的です。

障害者を雇うことでもらえる助成金もあります。

  • 障害者トライアル雇用奨励金
    障害者のなかでも転職経験が2回以上あるなど特に就職が困難な方を、トライアルで雇用する場合に支給されるものです。

実際に障害者を何名雇用すればよいか

ここからは民間企業に話を絞って考えましょう。法定雇用率の計算の対象になるのは、原則として週30時間以上の常用労働者で、1年以上の雇用が見込まれる者です。また、週20時間以上30時間未満の短時間労働者で、1年以上の雇用が見込まれる者は0.5人として人数をカウントします。

全従業員の人数を、常用労働者と短時間労働者に分けて確かめてください。計算する時は企業単位となりますので、本店や支店など複数の事業所を持つ企業の場合は、それらを合計した全体の人数を確認する必要があります。そして、その合計人数の2.0%を計算してみてください。それが、雇用しているべき障害者の人数です。

(業務によって障害者の就業が困難とされる業種もあるので、業種ごとに除外率が設定されています。)

雇用している障害者の人数のカウントにはいくつか例外があります。まず、重度の身体障害または重度の知的障害がある方を雇用すると、2人を雇用したものとしてカウントされます。障害者が短時間労働者なら0.5人としてカウントされますが、もし重度障害者が短時間労働者として雇用されているなら1人としてカウントされます。

なお、障害には精神障害も含まれますが、重度の精神障害というものはありません。精神障害を抱える労働者の労働時間が週30時間以上なら1人として、20時間以上30時間未満であれば0.5人として数えます。

障害者雇用については、何度も法改正が実施されてきました。法定雇用率は平成25年に1.8%から2.0%に改正され、それまで従業員56人以上の企業が障害者を受け入れるべき企業でしたが、今では従業員50人以上の企業へと対象範囲が広がりました。

また、障害者雇用納付金制度も平成27年に改正され、平成28年からは常時雇用者100人を超える事業主が過去1年間の状況について申告をしなければならなくなりました。それまでは200人を超える場合に限られていました。法定雇用率を達成していなければ、納付金が求められたり、社名公表などの制裁を受けたりすることになります。

初めて障害者を雇用する場合の流れ

自社が何名の障害者を雇用すべきかが分かったら、実際に募集と採用をすることになります。何よりもまず、自社に障害者の受け入れ態勢があるかどうかを確認することが必要です。

冒頭でも述べましたが、障害の程度と種類は様々で、従事できる仕事の種類も人によって異なります。「障害者を雇用しなければ」と漠然と考えるのではなく、「自社にはこのような業務があるけれど、どんなタイプの障害者であればこれを問題なくこなしてくれるだろう」と考える方が近道です。

たとえば筆者の知っている縫製会社では、耳の不自由な方を積極的に雇っておられます。コミュニケーションの際に筆談をしなければなりませんが、仕事の成果に障害はまったく関係ありません。障害があっても問題なくできる仕事は、探せばあるものです。
健常者である従業員の理解を得ることも必要です。法律で定められていることや、多様な働き方が認められる時代であることを、時間をかけて周知させていく必要があります。従業員は障害者と毎日接することになりますから、もしかしたらストレスを感じてしまうかもしれません。その点を受け入れていただくためにも、良い働き手となる適切な人材を探すことが大切です。この点で、ハローワークその他の支援機関に相談することができますので、活用してください。

まとめ

少子高齢化の日本において、社会の働き手は減少しつつあります。そのような中、多くの方に労働力となってもらうため、様々な立場の人々にスポットライトが当てられています。たとえば、女性や高齢者に社会で活躍してもらうことが期待されていますが、障害者の雇用もその大きな流れの一環です。自社が障害者雇用率制度の対象になるとすれば、これまで見過ごしていた貴重な人材に巡り合えるチャンスかもしれません。前向きな態度で取り組んでください。