[ iDeCo | 個人型確定拠出年金 ] 年収400万円・30歳が加入して何がどう嬉しいの?

執筆: 『人事労務の基礎知識』編集部 |

いつかはあなたも、確定拠出年金!

公的年金(国民年金・厚生年金保険)は、高齢化社会の成熟に伴って制度疲労を起こしています。世代間の支え合いを前提とした公的年金の保険料は高く、そして給付は低い。受給開始年齢も引き上げの方向に進んでいます。老後の生活費は、個々の努力で確保する必要に迫られています。

そうした背景を受け2001年から日本版401Kとして、私的年金制度のひとつ「確定拠出年金」制度がスタートしました。公的年金制度(国民年金・厚生年金保険)に上乗せして積立てることが出来き、さらに税金の控除を受けられるため、近年急速に利用が拡大しています。

今回の記事では、個人向けの確定拠出年金である「iDeCo(個人型確定拠出年金)」(イデコ)について、中小企業で働く平均的な30歳前後の方に向けて説明します。

iDeCo(個人型確定拠出年金)とは

確定拠出年金制度は、掛金を誰が支払うかという点で、大きく2つに分けられます。

  • 個人型

 各個人が、毎月の収入の中から自分で一定の掛金を拠出(積立て)し、自分で運用商品を決めて老後の蓄えをつくる。毎月の掛金には上限があり、サラリーマンの場合は、2万3000円、自営業者の場合は、6万8000円。原則(死亡する等の場合を別として)、60歳になるまで積立てた掛金を引き出すことはできない。

  • 企業型

 確定拠出年金制度を労使合意した、企業が対象となる従業員の掛金を毎月拠出(積立て)し、会社の用意した運用商品の中で従業員自身の責任で商品選択し老後の蓄えをつくる。毎月の掛金の上限は、2万3000円。原則(死亡する等の場合を別として)、60歳になるまで積立てた掛金を引き出すことはできない。

この記事では、iDeCo(個人型確定拠出年金)について解説します

iDeCo(個人型確定拠出年金)は、中小企業の事業主、従業員や個人事業主など、国民年金・厚生年金に独自の「上乗せ」で保険運用できない人たちが、個人的に証券会社や銀行で契約し、利用できる制度として発達してきた制度です。2017年1月からは、大幅な法改正が施行され、これまで利用を制限されていた公務員や専業主婦、すでに企業型の年金制度に加入している大企業の従業員も利用可能になりました。60歳未満の日本人であれば事実上すべての人が加入できる制度へと生まれ変わったのです。

企業型確定拠出年金については別の記事で詳しく説明しています
[確定拠出年金]「事業所登録申請書 兼 第2号加入者に係る事業主の証明書」記入時の注意点<2017年版>
[企業型確定拠出年金] 中小企業が独自の年金制度をカンタンに作る方法

2017年1月からの変更点

2017年1月から、確定拠出年金制度は大幅に改正されます。主に利用者範囲の拡大が目玉となっています。

簡単に言うと、60歳未満であればすべての国民が確定拠出年金に加入することができるようになりました(国民年金未納者や免除者などは除く)。これまで対象外であった公務員専業主婦等も確定拠出年金に加入し、老後の年金プランを立てることができるようになったのです。さらに言えば、すでに会社に企業年金制度がある大企業のサラリーマンであっても、さらに積み立てを行うことができるように改正されました。公的年金の対する不安が高まる中で、「個人で老後の計画を立てるべきである」という方向性を明確にされたと考えるべきでしょう。

iDeCo(個人型確定拠出年金)のメリット

iDeCo(個人型確定拠出年金)に加入すると、3つの場面で控除を受けることができます。

  • 1つ目は現役時代に受けられるもので、住民税と所得税を計算する時です。住民税と所得税はその人の年間所得に税率をかけることで計算されますが、確定拠出に拠出した金額は所得から控除されます。つまり計算の基礎となる金額が少なくなるので、住民税や所得税も自動的に少なくなるわけです。
  • 2つ目に、運用収益を得る時に税額を控除されます。普通、株式や債券に投資して収益を得ることができると、その収益に対して20%課税されます。つまり収益の5分の1は税金としてなくなってしまうわけです。しかし確定拠出年金では、拠出金を株式や債券に振り分けて収益があっても課税されませんので、全てが自己資産となります。注意が必要なのは、収益が直ちに使えるお金になるわけではなく、基本的に60歳になるまでは取り崩しができないということです。とは言え、自分の資産として残るわけですから、収益の段階で課税されないメリットは大きいです。
  • 3つ目に、拠出金を受け取る段階の所得控除について有利になります。受け取り方は、年金方式と一時金方式の2種類があります。一時金として受け取る場合は退職金として扱われ、加入年数に応じて退職金と同じ特別の控除を受けることができます。年金の場合は1年間に60歳上65歳未満であれば70万円、65歳以上であれば120万円が控除対象となります。通常の所得として受け取る場合、給与所得であれば65万円の控除しかつきません。年金としての受け取りにも有利な控除が設けられています。

iDeCo(個人型確定拠出年金)のデメリット

iDeCo(個人型確定拠出年金)にはデメリットもあります。

  • 60歳までは原則解約ができない

iDeCo(個人型確定拠出年金)は60歳まで積み立てすることを前提としているので60歳までは解約することができません。

  • 支払った金額より損するリスクがある

積立金を運用しているので、実際に支払った金額より少なくなる可能性があります。

  • 住宅ローン控除・ふるさと納税の限度額に影響する

iDeCo(個人型確定拠出年金)の金額は所得控除の対象になります。なのでふるさと納税や住宅ローン控除の基準となる所得が少なくなるので、ふるさと納税の上限や控除額が変わります。

iDeCo(個人型確定拠出年金)の「運用」~現在30歳・年収400万円の人が制限いっぱいで運用する場合~

では、実際の運用の例を見てみましょう。

企業年金制度のない中小企業に勤務する年収400万円の厚生年金被保険者が、月額最大23,000円を拠出するとします。この場合どれほどの控除を受けることができるでしょうか。

税金と各種保険料に分けて考えてみましょう;

項目名拠出前拠出後
所得税84,856円75,538円
住民税176,211円157,577円
健康保険料16,932円15,936円
厚生年金保険料30,308円28,525円
雇用保険料1,333円1,241円

この表に基いて計算すると、1ヶ月で5,200円、年間で62,403円のメリットがあることがわかります。つまり年間62,403円までは運用で失敗しても元が取れているということです。

もし加入したらどれくらい税控除されるか条件を変えて調べたい場合はこちらのサイトで、シュミュレーションすることができます。

税控除を確認する|個人型確定拠出年金ナビ(iDeCoナビ)

iDeCo(個人型確定拠出年金)の「給付」~現在30歳の人への給付~

具体的な給付額

30歳から月額23,000円の拠出を、60歳まで30年間続け、利息は年複利2%で運用できたと仮定します。

  1. 確定拠出年金での資産額: 11,196,790円
  2. 一般の金融商品での資産額: 10,521,564円
  3. 差額(=「1」ー「2」): 675,226円

この675,226円は、前述『お得な理由』の2つ目で説明した「運用益に課税されない」メリットから生じた収益です。

受け取り方、受給の仕方

  • 一時金で受け取る場合: 退職所得控除の計算式より、30年加入した場合の控除額は1,500万円と定められています。つまり上記のケース(資産額:11,196,790円)では、非課税で全額を受け取ることができます。もちろん、これ以外に会社の退職金がある場合には、課税される可能性もあります。
  • 全額を年金として、20年に分けて受給する場合: 年間559,839円の年金額となります。年金の場合は公的年金も合計してから課税額を考慮します。今後の世代は60代前半の年金は原則としてありませんので、その期間が確定拠出年金だけだとすると控除額70万円を下回っており、非課税となります。ですが現行の制度のままだと、60代後半は課税されることになりそうです。できるだけ課税を避けたい場合に有効な受け取り方として、退職金控除額の上限ちょうどになるように一時金として受給し、残りを年金として受け取る方法も選択可能です。
  • 途中で死亡した場合: 死亡一時金が支給されます。この金額は死亡時点での個人別管理資産相当額で、事務手数料が引かれたうえでご遺族に支払われます。年金受給中であっても資産はご遺族に支払われることになっています。掛け捨てになることが無いという点で、非常に安心な制度と言えます。

まとめ

確定拠出年金は効率的に資産を形成できる有用な制度です。メリットは、多くの控除を受けることができできる点です。

給付額(受取額)を、どの程度増やすことができるかは本人の運用次第ですが、控除のメリットを十分に活用すれば、全体として大きな損失を被る事は少ないと言えます。もちろん、リスクをとってハイリターンを狙った資産運用を自己責任で選択することも可能です。

また、60歳までは運用している資産を取り崩すことができないことも大きな特徴です。これは一見デメリットように見えて、メリットだと捉えることも可能なのではないでしょうか。

筆者は月に数回、日本年金機構の年金事務所の窓口で年金相談を担当していますが、老齢年金の見込額をお示しすると、「たったこれだけ…?」という反応が大半です。今回の記事を読んで、公的年金と並んで重要になる可能性を秘めた、老後の資産形成の手段「確定拠出年金」制度の活用を検討してください。

【参考】確定拠出年金取扱金融機関の一例

ネット証券各社は、手数料が安く、選択できる運用商品も多く揃っている傾向があります。

企業型確定拠出年金については別の記事で詳しく説明しています;
[確定拠出年金]「事業所登録申請書 兼 第2号加入者に係る事業主の証明書」記入時の注意点<2017年版>
[企業型確定拠出年金] 中小企業が独自の年金制度をカンタンに作る方法