カルチャーとは何か|「サイバーエージェントらしさ」醸成の仕組みから見える、カルチャーの存在意義

執筆: 『人事労務の基礎知識』編集部 |

専門機関「カルチャー推進室」を設立して、カルチャー推進に取り組むサイバーエージェント。同社の人事チームは同社の事業の失敗や成功の歴史を記録した社史「ヒストリエ」や、社内報「CyBAR」など独自の取り組みを仕掛けていき、「サイバーエージェントらしさ」を確実に作り上げてきた。今回は、そのカルチャーについて同社はどのように捉えて、どのように作ってきたのか。「ヒストリエ」「CyBAR」の編集長を務める、カルチャー推進室の若林絵美氏にお話をお聞きしました。

 

【若林絵美さんのご経歴】

2003年に新卒でサイバーエージェントに入社。インターネット広告事業部でメディアの企画やバイイングに携わり、3年目に人事本部へ異動。新卒採用や社員育成・適材適所・社内活性化・労務の担当を経て、2014年にカルチャー推進室の立ち上げに参加。「ヒストリエ」という社史を作るプロジェクトと社内報「CyBAR」を担当し、現在に至る。

 

サイバーエージェントグループの組織構造と人事チームの構成

cyber02サイバーエージェント カルチャー推進室 若林絵美氏

ーサイバーエージェントグループの組織人数、会社数について教えてください。

弊社は単体正社員だけでも2,000人以上在籍しているのですが、サイバーエージェントグループ全体としては社員数が約3,800人で、非正規社員なども含めせると7,000人の規模になっています。子会社の数は約50社で、今年の9月に行われた※「あした会議」で新たに8社を立ち上げることが決まったのですが、そのうち5社は10月頭に設立されています。

※「あした会議」とは、サイバーエージェントのあした(未来)につながる新規事業案や課題解決案を役員・社員が提案、決定するサイバーエージェント独自の会議。過去に「あした会議」で生まれた子会社は18社、これら子会社の累積営業利益は100億円にのぼり、重要な経営会議として機能している。 

 

ー人や組織に関わる部署の構成を教えてください。

人や組織に関するテーマに取り組む部署として、人事管轄という40名くらいの部署が本社にあります。その部署の中に、事業人事本部・人材開発本部・人事本部という3つの部門があります。各部について簡単に説明していきますと、

事業人事本部ですが、弊社では事業部が多岐にわたるため全体の人事を一箇所では見ることが難しくなってきています。そこで、事業部ごとの人事チームを設けています。例えば広告事業人事やゲーム事業人事、メディア事業人事などです。その事業部ごとの人事チームを横断して、各事業部の人事チームから情報を吸い上げていく役割を担うのが、事業人事本部という組織です。

次に人材開発本部ですね。人材開発本部では、社内の人事を科学的に分析するチームや、社員の能力や適性、キャリアなどを考慮して適材適所を実現するための仕組みづくりを担当するチーム、そして社内報や社史を制作・運用しているカルチャー推進室もこの人材開発本部に含まれています。

3つ目の人事本部では、オフィスの企画・運用・管理や、給与計算・社会保険などの労務手続きを行ったり、社員の健康を推進していくなど幅広く、社員が働きやすい環境を整えています。

また、子会社各社に人事セクションがありますが、本社で子会社の労務・採用をサポートしている会社もあります。他にもノウハウ共有のための勉強会を全体で行ったり、個別の相談ベースで行ったりしています。

 

サイバーエージェントのカルチャーは何のために存在するのか

cyber03サイバーエージェント カルチャー推進室 若林絵美氏

ーカルチャー推進室のミッションについて教えてください。

カルチャー推進室のミッションは「カルチャーで業績を上げる」ことです。カルチャーで業績を上げるとは、どういうことなのか、どういう状況が実現できればそのように言えるのだろうかとチームでは頻繁に話し合っています。肝は、「タイムリーに、大量のケーススタディを、事業部横断で流行らせる」ことだと考えています。うまくいっている事業やプロジェクト、成果を上げている社員の施策やノウハウを横展開させたり、同じ失敗を繰り返さないように、撤退した事業の責任者に話を聞いて記録し、それを活用したり。私たちは、社員一人ひとりが当事者意識を持って、自走することができるような風土であり続けるよう、強みや知見、その使い方を大量に社内に横展開させていくことで業績に貢献できると考えています。

 

ー子会社、合弁会社、部署など組織構造が複雑で、人の配置など大変だと思うのですがいかがでしょうか。

会社の規模が大きくなってきて、部門をまたいだ異動がなかなかできなくなってきていました。そこで、3年前に社内の適材適所を実現するための社内のヘッドハンティングチームである「キャリアエージェント」という部署ができました。このキャリアエージェントが社員に対して異動提案をする際には、面談を行って、その人のキャリアの希望や適性を見るのですが、限られた人数なので全社員の状態を把握するのが難しかったんです。そのため、昨年、「人材科学センター」という部署が新設されました。この部署では、全社員のコンディションやキャリア志向を常に最新の状態にデータとして分析・可視化しています。その情報も活用し、より良い適材適所を目指しています。

弊社では「本人の意思」を尊重する文化があり、できるだけ1人ひとりの「意思」を吸い上げられるような仕組みを作っています。その手段のひとつとして、「GEPPO(ゲッポー)」という自社開発ツールがあります。

この「GEPPO」は月に一度、全社員の「コンディション」をヒアリングするシステムです。センシティブな情報も含まれているので、役員とキャリアエージェントという担当部署以外は閲覧できません。そのように情報の閲覧者が限られているので、社員も本音でコミュニケーションを行うことができます。

 

ーカルチャー推進室の設立背景と現在の業務内容を教えてください。

カルチャー推進室は2014年10月に立ち上がりました。当時は従業員3,000人を超えてきたタイミングだったのですが、人が増えてきて、企業文化の浸透が弱くなってきたことが課題にあがっていました。そこで当時の「あした会議」で、企業文化を浸透させるために専門部署をつくり、選任メンバーをおくことが決まりました。それがカルチャー推進室の立ち上げのきっかけです。現在のカルチャー推進室のメンバーは3名で、全社員向けの社内報「CyBAR」・技術者向けの社内報「TechCyBAR」の運営や、社史「ヒストリエ」の企画制作・運用などを中心に業務を行っています。

 

カルチャーの定義と醸成の仕組みを作るプロセス

cyver04社史「ヒストリエ」

ー「カルチャー」とはどのような存在でしょうか。

実は弊社のカルチャーを「これだよね」という定義付けていないんです。社員一人ひとりがカルチャーを感じることができるように、カルチャー推進室ではとにかく大量のケーススタディを発信しています。

 

ー実行した(ヒストリエやCyBAR等の)仕組みが生み出されるプロセスについて教えてください。

社内報の「CyBAR」は2002年にスタートしています。当時300人くらいに社員が増えたときですね。

人数が多くなって、周りのメンバーの業務が見えにくくなっていた時に、コミュニケーションの課題を解決するための社内報をスタートしました。当初は有志のメンバー10人で運用していたメディアでした。週に1度、イントラネットで発信していたのですが、10年以上続けていくうちに皆兼務なこともあり忙しくてなかなか更新がスムーズにできなくなるという課題が生じてきました。そこで2014年にあした会議の決定を経て、リスタートを切る形で、カルチャー推進室で引き継ぎ、専任を立てて運用を行なうことにしました。現在は週に2回、水曜日と、技術者向けの社内報を木曜日に配信しています。

社史の「ヒストリエ」は” 企業文化を記録に残す”ことを目的に2014年7月にスタートしました。企業文化といっても、それが何を指すのか一言で表すのは難しいものです。弊社が今までに生み出してきた事業と、そこに携わってきた事業責任者たちの考えや行動を通して企業文化を伝えられるよう、弊社の事業やプロジェクト、子会社や幹部社員に焦点を当て事業やプロジェクトがどうやって立ち上がり、成功・失敗に至ったのかという経緯や歴史をまとめています。さらに、過去の成功と失敗を記録することで、良いものは横展開し、そして同じ失敗を繰り返さないようにするのがヒストリエの役割だと考えています。

リリース時は毎週配信を行い、半年に一度冊子にして全社員に配布を行いました。すでに50本ほど記録しており、現在は隔週で配信しています。また、ヒストリエは研修でも活用しています。

 

カルチャーの生まれ方と浸透する2つのパターン

cyver05社内報「CyBAR」

ー様々な仕組みをスタートし、運用する中で感じた難しさや苦労を教えてください。

弊社は私たちの部署に限らず、権限範囲が広いのですが、現在CyBARやヒストリエの編集に関して、すべて私に任されています。そのため、発信するコンテンツがこの内容や表現で本当にいいのか、みんなに響いて使われるものになっているのか、というのは日々悩んだり迷ったりしています。

特に、多岐にわたる事業・サービスを展開しているので、なぜ今この事業・サービスを取り上げるのか、その狙いは何なのか、ということは徹底して考えるのですが、これがとても難しいです。ただ、自分で考えて、意思決定していく必要があるのは大変な部分も多いですが、とてもやりがいがあります。

運用時の効果測定に関しては、指標はアナリティクスでユニークユーザー数・ページビューを見たりします。他にもアンケートを実施したり、個別に感想を聞いたりします。またSNS上で社員からメッセージで連絡をもらったりすることもありますので、そういったところでフィードバックを受け取ることができます。実際にヒアリングしてもらえる感想が一番重要かなと思います。

 

ーカルチャーを企画し、浸透させ、維持することは科学的にできるのでしょうか。お考えを教えてください。

このテーマは難しいですね。カルチャーは、長年の企業活動によって積み重なってできるもので、会社のDNAのような部分もある一方で、一気に根付くものもあると思います。例えば弊社は去年ロゴを一新し、クリエイティブで勝負するというメッセージを社内外に発信したのですが、その影響は大きく、社内でもそのイベントを境にクリエイティブを重視する価値観が生み出されたと思います。

カルチャーには積み重なって徐々に形成されるものもあれば、大きなイベントやきっかけによって瞬間的に形成されるものもあると体感しました。もちろん根付かせるための施策は必要です。そうはいっても、根幹には、事業で良い業績を出すことが一番のカルチャーの醸成につながると思います。事業が順調だと、社内の雰囲気も自然と良くなり、よいカルチャーが生まれることにつながると思います。

 

ーカルチャーを生み出し、浸透させるためにやるべきではないこと、失敗例についてお考えはありますか。

仕組みや制度をつくったり、情報を発信するときには、社員がしらけないか、ということを徹底して考えています。スタートした取り組みが、ちゃんと社員に使われることが大切だからです。そのため、現場の社員を巻き込んで制度や仕組みを企画すること、そして社員の声を聞いて常に改善・運用していくことを心掛けています。

また、タイミングを見て、捨てることも大事です。弊社では次々と新しい事業や施策・制度を生み出して試していますが、過去に機能していたけど時代の変化で必要なくなったものや、思ったより効果がなかったものなどを整理するために、昨年「捨てる会議」を実施し、そこでは約30個、捨てるものが決議されました。

 

カルチャーを作っていく喜びと必要な考え方とは

cyver06サイバーエージェント カルチャー推進室 若林絵美氏

ーカルチャーが浸透していると感じて、仕事のやりがいを感じる瞬間はどのようなときでしょうか。

CyBARやヒストリエを通して発信した内容が狙い通りに社員にちゃんと使われていると聞くと、やりがいを感じますね。読んだことで学びになった、社員同士で交流が生まれたという声や、実際にマネしてうまくいったという声を聞くと、とても嬉しいですし、もっと社内から横展開するといい情報をひろってこよう!とモチベーションがあがります。

 

ーカルチャーを生み出し、定着させるためにはどのようなチームが必要だと思いますか。

これは人事チームに限らず、弊社のメンバー全体で意識しておきたいところですが、会社も事業もカルチャーも、チームサイバーエージェントの一員として、自分たちがつくっていくものであると考えられる人・チームですね。そういう人・チームがカルチャーを生み出し、つないでいけると思います。