中小企業の退職金についての基礎知識

執筆: 『人事労務の基礎知識』編集部

これまで退職金制度がなかった会社に、初めて制度を導入しようと思ったら、どのようにすればよいのでしょうか。中小企業の退職金をサポートするどんな制度があるのか、就業規則にどのように記載したらよいのか、などを考えます。

退職金は義務なのか?

まず押さえておきたい点ですが、企業に退職金制度を設ける義務はありません

ボーナスや昇給が義務づけられていないのと同様です。実際、独自の退職金制度を持たない中小零細企業は多く、充実した退職金制度は大企業に勤務する人の特権となりがちです。これは、企業にとって退職金を準備することが大きな負担となるものであって、全従業員に退職金を支給するとなると、かなりの余力がないと難しいからです。

一方で、従業員にとっては退職金が退職後の生活の基盤となるものであることから、会社が優秀な人材を集め、企業内にとどめ、満足感をもって働いてもらうためには、退職金制度の導入が重要なポイントになります。
法律上、退職金制度の義務はないのですが、労働法には退職金にまつわる様々な規定があります。それらの規定は、退職金を定めた会社に就職した者が、確実にその支払を受けられるようにするためのものです。後述しますが、就業規則を勝手に変更して退職金の額を減らしたり、制度そのものをなくしたりすることは法律で制限されています。つまり、退職金制度を設けるかどうかは自由ですが、いったん設けたなら、その制度を信用して入社した従業員たちを裏切るような制度の変更はできないということです。社内に退職金の制度を設けるのではなく、むしろ中小企業退職金共済制度や厚生年金基金制度などの社外の制度を活用する方法もあります。目的は、従業員の期待通りの確実な支払いを実現することです。

中小企業で退職金制度を導入するには?

中小企業が退職金制度を導入する際に利用できる制度をいくつかご紹介します。

  • 中小企業退職金共済

中小企業退職金共済は、毎月5,000~30,000円の範囲で掛け、退職時に掛金プラス利息を受け取るというものです。国が支援しています。いくつか注意点があります。①1~11か月で退職したら支払は0円。②12~23か月で退職したら支払<掛金総額。③24か月以降の退職なら掛金総額より高い金額が支払われるが、利率は比較的低い。

  • 確定拠出年金

確定拠出年金には、企業型と個人型(iDeCo)があります。退職年金や企業年金制度を独自に作ろうとすると、全体制度を設計し、運用する必要があるため、中小企業にはハードルが高かったのですが、確定拠出年金制度・企業型を導入すれば、金融機関が設計した制度に加入するだけで、中小企業でも簡単に年金制度をはじめる事が可能です。従業員は、掛金をどの運用商品に、どう配分して運用するかを決めます。通常の定期預金とは異なり所得税と住民税が非課税になるため、最も安全な定期預金などの元本保証型の商品を選択するだけでも立派な運用になります(ただし、通常の定期預金と異なるのは、60歳まで引き出せないことです)。資産形成をもっと積極的に狙って運用する場合、リスクとリターンを見極めるために、個人的に調査する必要があります。

  • 小規模企業共済

小規模企業共済は、会社役員などを対象にした退職金制度です。月々の掛金を1,000円から70,000円の間で自由に設定して払った後、退職時に掛金プラス利息を受け取るものですが、退職の理由によって、利息の部分が変動する制度です。気をつけたいのは、掛金納付期間が20年未満で任意解約した場合は元本割れするという点です。なお、退職の事実がある場合には任意解約とはみなされませんので、元本割れを心配する必要はないでしょう。

退職金の規定の仕方

退職金について、労働基準法89条では就業規則の記載事項として、「退職手当の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項」を挙げています。それで、退職金制度を導入するにあたっては、必ず就業規則に規定を設けなければなりません。前述のように社外積み立て型の退職金制度を利用している場合も、ここにいう退職手当の制度に該当しますので、就業規則規定を設けなければなりません。
退職手当の決定、計算および支払の方法とは、例えば、勤続年数や退職事由などの手当額を決定するための基準、あるいは手当額の算定方法や一時金と年金のどちらで支払うのかなどをいいます。さらに、退職手当について不支給事由または減額事由を設ける場合には、退職手当の決定及び計算の方法に関する事項に該当するので、就業規則に記載する必要があるとされています。
たとえば、以下のような規定が考えられます。

第◯条(退職金の支給)
勤続5年以上の正社員が退職し、又は解雇されたときは、この章に定めたところにより退職金を支給する。ただし、第◯条により懲戒解雇された者には、退職金の全部又は一部を支給しないことがある。また、退職後に懲戒解雇に相当する非行が判明した場合、会社はすでに支払った退職金の返還を請求することがある。
第◯条 (退職金の額)
1 退職金の額は、退職又は解雇時の基本給の額に、勤続年数に応じて定めた別表の支給率を乗じた金額とする。
2 第◯条により休職する期間は、会社の都合による場合を除き、前項の勤続年数に算入しない。
第◯条 (退職金の支払方法及び支払時期)
退職金は、支給の事由の生じた日から2か月以内に、退職した従業員(死亡による退職の場合はその遺族)に対して一時金として支払う。
第◯条 (外部積立による退職金の支給)
会社が、外部機関において積み立てをしている場合、当該外部機関から支給される退職金は、会社が直接支給したものとみなす。この場合、第◯条に定める計算方法により会社から直接支給する退職金は、当該外部機関から支給される退職金の額を控除した額とする。

中小企業の退職金の相場

中小企業の退職金の相場に関する資料として、東京都産業労働局が調査、集計したモデル退職金の統計表があります。なおモデル退職金とは、通常に学校を卒業してすぐ入社した者が、普通の能力と成績で勤務した場合に、当該事業所の退職金規程のもとで、どの程度の退職金が支給されるかを算出したものです。
以下に、一部抜粋してご紹介します。

企業規模は10人から49人、退職理由は(定年退職以外は)自己都合とする。
大卒
勤続年数5年…435,000円
10年…1,192,000円
15年…2,314,000円
20年…3,927,000円
定年退職…12,817,000円
高卒
勤続年数5年…328,000円
10年…915,000円
15年…1,773,000円
20年…3,052,000円
定年退職…11,768,000円

参考:http://www.sangyo-rodo.metro.tokyo.jp/toukei/koyou/chingin/h28/

 

退職金をもらう条件

退職金の支給条件は、就業規則に定められた通りです。

懲戒解雇などに該当せず円満退職した場合には、所定の金額が所定の時期に、当然に支給されるものです。仮に就業規則がない会社の場合でも、慣例として退職金が支払われていた場合には、過去の従業員の方々と同様にもらう権利があります。この場合は従業員が、それまでどのくらいの金額が支払われてきたのかデータを集めておく必要があり、そのうえで請求することになります。
実は退職金には時効があります。それは5年で、それを過ぎると請求できなくなります。会社が業績などを理由に支払いを延ばそうとしたり、減額しようとしたりしても、従業員の側は断固として請求し続けることになります。このような事態を起こさないためにも、特に中小企業の場合は退職金を外部に積み立てて、業績に左右されずに退職金が確保できるようにすることが望ましいでしょう。そうすれば、退職時に無用のトラブルを避けることができます。

役員と従業員の退職金の違いはあるのか?

従業員と役員の退職金にはどのような違いがあるでしょうか。従業員の退職金は、就業規則に従って金額が自動的に決まります。役員の場合、退職金は慰労金といい、株主総会で支給の決議が採択される必要があります。金額は従業員の退職金より高額になり得ますが、本人が会社にあまり貢献していないと判断されると株主総会で否決され、慰労金が支給されないおそれがあります。
従業員が途中で役員になった場合、その時点で退職金を支払うケースと、その時点では支払わずに後日役員を退職した際の慰労金の額を従業員の期間も含めて計算するケースの2通りがあります。慰労金の支給は株主の判断に委ねることになりますので、これをリスクととらえ、従業員から役員になった時点でいったん退職金を支払うケースが多いようです。

会社都合でやめた場合、自己都合でやめた場合

退職理由が会社都合か自己都合かで、退職金の金額が変化するでしょうか。

これは、就業規則の退職金規定にかかっています。退職金の計算式は、退職時点での基本給に勤続年数に応じた支給率を掛けるというのが一般的ですが、この支給率を、会社都合より自己都合の方を低くしている会社が多いです。このような定めがあるかどうかで、金額の違いがあるかどうかが決まります。

なお、勤続年数が25年から30年以上になれば、会社への貢献度を考慮して、自己都合退職でも支給率を下げない企業もあります。
会社都合の退職というのは、会社の業績悪化が原因ですから、中には倒産による退職というケースもあるでしょう。退職金を請求する権利は給与や賞与と同じ賃金債権ですが、これは一般先取特権といい、倒産した会社の財産から優先的に支払いを受ける権利です。ただし、国税などよりは優先順位が下がります。会社に請求したものの、倒産した後の財産から支給されない場合は、未払い賃金の立替払い制度を利用することになります。
不景気で退職金が払えない場合にでも、会社には定め通りに退職金を支払う義務があります。ただし、過去の裁判例では、合理的な理由があれば退職金の減額がやむを得ないとされることもありました。もちろん、変更は合理的でないとされた判決もあり、ケースバイケースです。腑に落ちない場合は、裁判をすることになります。

税金の控除は受けられるのか?

退職金には特別な税額控除の計算方法があり、通常の給与よりも優遇されています。計算方法は以下の通りです。

勤続年数20年以下の場合…退職所得控除額=40万円 × 勤続年数(ただし、80万円に満たない場合には、80万円)
勤続年数20年超の場合…800万円 + 70万円 × (勤続年数 – 20年)

1年に満たない期間は1年に繰り上げます。この式から分かる通り、勤続年数20年を超えた時点で、控除額が大きく増えます。この点も、退職金制度があることによって1つの企業に長期間勤務したいという意欲を高める要素となります。

まとめ

退職金は義務ではありませんが、導入する場合は就業規則に明記しなければなりません。上記の条文の例を参照してください。中小企業が導入するにあたっては、外部の積立制度を活用しましょう。企業活動は常にリスクと背中合わせです。いざという時のために、会社の業績に左右されない退職金制度を確立し、従業員の安心と満足度を高めてまいりましょう。

Profile

『人事労務の基礎知識』編集部
『人事労務の基礎知識』編集部
株式会社BEC内で、Gozal(ゴザル)の編集制作を担当する部門です。社会保険労務士/弁護士/税理士などの専門家執筆陣とともに、中小企業の労務・給与計算担当の方が実務上感じる不安を払拭できるよう、情報発信しています。「こんな記事を読みたい!」とTwitterやFacebookでメッセージいただければ、可能な限り執筆いたします。