最低賃金法で定められた最低賃金の範囲と計算方法とは
執筆: 『人事労務の基礎知識』編集部 | |
最低賃金法で定められた最低賃金とは
国が賃金の最低限度を定め、使用者(経営者)は、その最低賃金額以上の賃金を支払う必要があると定めている法律が「最低賃金法」です。
最低賃金額より低い賃金を労働者、使用者双方で合意したとしても、それは法律によって無効とされ、最低賃金額と同額の定めをしたものとされます。最低賃金未満の賃金しか支払わなかった場合には、最低賃金額との差額を、未払賃金として将来支払う必要があります。また、別途罰金が課せられます。地域別最低賃金額以上の賃金額を支払わない場合には、50万円以下の罰金となり、特定(産業別)最低賃金額以上の賃金額を支払わない場合には、30万円以下の罰金となります。
最低賃金が適用される労働者の範囲とは
最低賃金には、2種類あります。「地域別最低賃金」と「特定最低賃金」です。
・地域別最低賃金
産業や職種にかかわりなく、都道府県内の事業場で働くすべての労働者(パートタイマー、アルバイト、臨時、嘱託などすべての労働者)とその使用者に適用されます
・特定最低賃金
特定地域内の特定の産業の基幹的労働者とその使用者に適用されます。ただし、18歳未満又は65歳以上の方、雇入れ後一定期間未満で技能習得中の方、その他当該産業に特有の軽易な業務に従事する方などには適用されません。
※一般の労働者より著しく労働能力が低いなどの場合に、最低賃金を一律に適用するとかえって雇用機会を狭めるおそれなどがあるため、次の労働者については、使用者が都道府県労働局長の許可を受けることを条件として個別に最低賃金の減額の特例が認められています。
(1) 精神又は身体の障害により著しく労働能力の低い方
(2) 試の使用期間中の方
(3) 基礎的な技能等を内容とする認定職業訓練を受けている方のうち厚生労働省令で定める方
(4) 軽易な業務に従事する方
(5) 断続的労働に従事する方
なお、最低賃金の減額の特例許可を受けようとする使用者は、最低賃金の減額の特例許可申請書(所定様式)2通を作成し、所轄の労働基準監督署長を経由して都道府県労働局長に提出する必要があります。
最低賃金に含まれる賃金とは
最低賃金の対象となる賃金は、毎月支払われる基本的な賃金です。ここで注意が必要なのは<「基本給」だけでは無い>点です。具体的には、実際に支払われる賃金から次の賃金を除外したものが最低賃金の対象となります。
(1) 臨時に支払われる賃金(結婚手当など)
(2) 1箇月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
(3) 所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金(時間外割増賃金など)
(4) 所定労働日以外の日の労働に対して支払われる賃金(休日割増賃金など)
(5) 午後10時から午前5時までの間の労働に対して支払われる賃金のうち、通常の労働時間の賃金の計算額を超える部分(深夜割増賃金など)
(6) 精皆勤手当、通勤手当及び家族手当
図で表すと、以下のようになります(厚生労働書のWebサイトを抜粋)
最低賃金に含まれる賃金とは
支払われる賃金が最低賃金額以上かどうかを調べるには、最低賃金の対象となる賃金額が、適用される最低賃金額を上回っているかでわかります。
(1) 時間給制の場合
時間給≧最低賃金額(時間額)
(2) 日給制の場合
日給÷1日の所定労働時間≧最低賃金額(時間額)
※日額が定められている特定(産業別)最低賃金が適用される場合には「日給≧最低賃金額(日額)」
(3) 月給制の場合
月給÷1箇月平均所定労働時間≧最低賃金額(時間額)
(4) 出来高払制その他の請負制によって定められた賃金の場合
出来高払制その他の請負制によって計算された賃金の総額を、当該賃金計算期間に出来高払制その他の請負制によって労働した総労働時間数で除して時間当たりの金額に換算し、最低賃金額(時間額)と比較します。
(5) 上記(1)、(2)、(3)、(4)の組み合わせの場合
例えば、基本給が日給制で、各手当(職務手当など)が月給制などの場合は、それぞれ上記(2)、(3)の式により時間額に換算し、それを合計したものと最低賃金額(時間額)を比較します。
【例:月給制の場合の換算方法:東京で働くAさんの場合】(厚生労働省Webサイトを抜粋)
東京都内で働く労働者Aさんは、月給として基本給:90,000円、職務手当:25,000円、通勤手当:5,000円を支給されています。また、この他残業や休日出勤があれば時間外手当、休日手当が支給されています。先月は、時間外手当が35,000円あったので、月給の合計は155,000円となりました。
※Aさんの会社は、年間所定労働日数は250日、1日の所定労働時間は7時間30分で、東京都の最低賃金は時間額907円です。
Aさんの賃金が最低賃金額以上となっているかどうかは次のように調べます。
(1) Aさんに支給された賃金から、最低賃金の対象とならない賃金を除きます。除外する賃金は通勤手当、時間外手当です。職務手当は除外できません。(上記「最低賃金に含まれる賃金とは」参照)
155,000円-(5,000円+35,000円)=115,000円
(2) この金額を時間額に換算し、最低賃金額と比較します。
(115,000円×12か月)÷(250日×7.5時間)=736円<907円
以上により、最低賃金額以下となり、最低賃金法違反となります。
※この情報は、2016年6月1日時点のものです。
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