従業員の退職手続き/解雇手続き
執筆: 『人事労務の基礎知識』編集部 | |
「退職」と「解雇」どちらも会社を辞めるという意味では同じですが、法律上ではその効果は異なります。退職は「従業員からの意思表示」であるのに対して、解雇は「会社側からの一方的な意思表示」となり、下記のように分けられます。
「退職」・・・従業員から労働契約を解除する場合や当然に労働契約が終了すること。
自己都合退職、定年退職、死亡退職、休職期間満了、派遣従業員の契約期間満了などがあります。
「解雇」・・・会社から一方的に労働契約を解除すること。
罪を犯した場合などの懲戒解雇、やむをえない人員整理をする場合の整理解雇などがあります。
退職する従業員がどれに該当するかによって失業給付(雇用保険)の金額や給付日数などの内容が変わってきます。また、会社も解雇等会社都合での退職者が出ると厚生労働省の助成金が受給出来なくなるので手続きには注意が必要です。
退職・解雇の手続きの流れ(退職前)
従業員の退職が決まってから退職日までの流れを見ていきます。自己都合等で退職する場合と、解雇により退職する場合の処理は異なります。
退職・解雇の意思表示
◯自己都合退職の場合
口頭で退職の意思表示、又は退職届を提出してもらいます。この退職届は特に法律で定められている手続きではありませんが、後々争いになった場合に従業員の意思表示の証拠となります。退職年月日、退職理由、署名(記名+押印)を最低限記載してもらいましょう。
◯解雇の場合
解雇の30日前までに「解雇予告通知書」を交付するか、平均賃金の30日分以上の解雇予告手当てを支払う必要があります。そして従業員が望む(請求する)場合は、解雇理由証明書を発行しなければなりません。
基本的には上記が原則ですが、例えば8月1日に告知し、8月20日付で解雇する場合は30日に不足する10日分以上の 解雇予告手当(平均賃金)を支払うという対応でも法律上は問題ありません。
※解雇予告が不要とされる従業員
- 日雇労働者
- 2ヶ月以内の期間雇用された者
- 季節的業務に4ヶ月以内の期間を定めて雇用された者
- 試用期間中の者
※解雇予告が不要とされる場合(労働基準監督署の認定を受なければなりません)
- 天災事変等が原因で事業の継続が不可能となった場合
- 懲戒解雇に該当するような言動があり解雇する場合
詳しくは「従業員を解雇する際に必要な解雇予告とは」をご覧ください。
退職後の健康保険確認
再就職先が決まっていない場合は退職後の健康保険について説明をします。
退職後に加入出来る保険には
- 任意継続(2ヶ月以上社会保険に加入していた従業員が対象→協会けんぽ任意継続)
- 国民健康保険
- 家族の健康保険(被扶養者)
の3つの方法があります。任意継続を退職後に加入する場合は、退職後20日以内に任意継続被保険者の資格取得手続きを本人が行わなければならないため、会社側の理由で喪失の手続きが遅れないよう注意が必要です。国民健康保険は各自治体へ、家族の健康保険は家族の勤め先に申出てもらいます。
詳しくは「従業員退職時の社会保険(健康保険・国民年金)の手続きとは」をご覧ください。
住民税の徴収方法確認
住民税は会社を退職した場合でも前年度に収入があれば課税されます。翌年の6月から支払い始めますが、退職する月によっては選択できる方法が変わりますので従業員の希望を確認しましょう。
◯1月から5月に退職する場合
最後の給与から一括で残りの住民税を天引きします。例えば3月に退職する場合は3~5月の3カ月分を徴収します。支払うべき住民税額が、給与支給額を上回る場合は、普通徴収で問題ありません。
◯6月から12月に退職する場合
最後の給与からまとめて残りの住民税(翌年の5月まで支払う分)を差し引くか、会社側で「特別徴収」を「普通徴収」に変更しておき、退職後に市町村から送られてくる住民税の納税通知書により本人が自分で支払います。
貸与品や健康保険被保険者証の回収
最終出勤日に回収するものを確認しましょう。
- 健康保険被保険者証(本人及び扶養家族分)
- 社員証や制服などの貸与物
もし年金手帳や雇用保険被保険者証などを会社で預かったままの場合は、従業員に返却します。
退職・解雇の手続きの流れ(退職後)
従業員の退職してからの流れを見ていきます。退職前は自己都合等で退職する場合と、解雇により退職する場合の処理は異なりましたが、退職後は大きな違いはありません。
社会保険・雇用保険の資格喪失手続き
◯社会保険
会社の管轄の年金事務所(又は保険組合)に資格喪失届を提出します。(退職日から5日以内→日本年金機構資格喪失届)提出の際には回収した保険証を添付します。
※もし従業員が保険証を紛失した、又は提出までに回収出来なかった場合は別途書類を記入し資格喪失届に添付して提出します。(→日本年金機構被保険者証回収不能・滅失届)
詳しくは「従業員退職時の社会保険(健康保険・国民年金)の手続きとは」をご覧ください。
◯雇用保険
管轄のハローワークに資格喪失届を提出します。(退職日から10日以内→ハローワーク資格喪失届)提出の際には労働者名簿を添付して下さい。従業員が離職票を希望する場合は、離職証明書もハローワークに提出します。離職証明書には従業員の署名・押印欄がありますので、最終出勤日までに記入してもらって下さい。離職証明書を提出する場合は、労働者名簿以外にも出勤簿、賃金台帳、退職届の写し等も添付しなければなりません。
最後の給与計算
最後の給与計算では住民税・社会保険料の徴収方法に注意が必要です。
◯住民税
「住民税の徴収方法確認」にもある通り、退職月によって徴収方法が変わりますの、従業員の希望通り処理しましょう。普通徴収に切り替える場合は、給与所得者異動届出書を作成し従業員の住所地の自治体に提出します。
◯社会保険料
社会保険の資格喪失日は退職日の「翌日」とされていますので、月末退職の場合はその翌日である翌月1日が資格喪失日となります。 また社会保険料は資格喪失月の前月分までのものが徴収されます。つまり8月末退職の場合は、資格喪失日は9月1日となるので8月分までの社会保険料を徴収します。例えば8月20日退職の場合だと、資格喪失日が8月21日となり8月中の資格喪失となるので7月分までの徴収となります。
詳しくは「従業員退職時の最後の給与計算の注意点と具体例」ご覧ください。
退職者に必要書類を送付
交付された離職票や社会保険資格喪失証明書、源泉徴収票などを退職者に送付します。
詳しくは「従業員退職後に送付する書類一覧」をご覧ください。
まとめ
退職・解雇の処理の流れは下記のようになります。
退職前
- 退職・解雇の意思表示
- 退職後の健康保険確認
- 住民税の徴収方法確認
- 貸与品や健康保険被保険者証の回収
退職後
- 社会保険・雇用保険の資格喪失手続き
- 最後の給与計算
- 退職者に必要書類を送付
資格の喪失手続きや給与計算の方法等は大きく変わりませんが、処理をする上で「退職」と「解雇」の違いを理解しておく必要があります。特に退職前の意思表示はトラブルを回避するためにも、書面で残しておくことが重要です。「解雇」するには相応の理由が必要になり、従業員の生活不安につながる事なので、雇用保険の喪失手続きでは細かく確認をされることもあります。退職後は書類作成や給与計算がありますが、「退職」と「解雇」では添付する書類が違ったり、住民税や社会保険料の徴収が退職月日で変わったりするので、一つ一つ注意しながら進めるようにしましょう。
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