初めての給与計算入門|#3新人労務担当者が知っておくべき健康保険料の仕組みと考え方

執筆: 『人事労務の基礎知識』編集部 |

今回は給与計算の控除項目の代表格である「健康保険料」について説明していきたいと思います。健康保険は給与明細では控除項目として、差し引かれる項目ですが、健康保険料を支払っているおかげで、私たちは健康保険証を持って約3割負担で医療サービスを受けることができるんですよね。

この連載記事の第1回「初めての給与計算入門|#1新人労務担当者が知っておくべき給与計算の前提知識」で控除項目の概要をお話していますので、まだご覧になってない方は先に見ていただいた方が今回の記事を理解しやすいと思います。それでは、健康保険の仕組みと考え方、そして健康保険料を給与計算ではどのように取り扱うのかを説明していきます。

 

健康保険って何?

そもそも健康保険について深く考える機会は、そんなにありませんよね。労務管理をされている方でなければ、よっぽどのことがない限り、日常生活で健康保険について悩むことはありません。まずは、健康保険とはどういうものなのか説明をしていきます。

健康保険とは、

怪我をしたり病気をしたときなどに約3割負担で医療サービスを受けられるように、みんなで負担し合う保険」のことです。

健康保険に加入している方(被保険者といいます)は、保険証を受け取ることができます。その保険証を持って医療機関に行くと約3割負担で医療サービスを受けることができます。会社にお勤めの方ですと、みなさん保険証をお持ちだと思います。また、ご家族がいらっしゃる方は、扶養しているご家族(被扶養者といいます)にも保険証をお渡ししているはずです。

 

健康保険を運営している組織「保険者」とは?

健康保険のことをあまり考えなくても、保険証を受け取って、医療サービスを普段から約3割負担で提供してもらっていると思います。なぜそんな素晴らしい仕組みを苦労せずに受け取れるかというと、専門機関が健康保険制度を運用してくれているからです。

その専門機関のことを健康保険の保険者と言います。この保険者に対して保険料を支払うことで、医療サービスを約3割負担で受けるために、裏側で事務処理をしてもらえます。また医療機関の窓口でいつもみなさんが使われている保険証も発行してもらえます。

この保険者のうち民間企業で働く方が関わる可能性があるのは2つです。それが「全国健康保険協会」と「健康保険組合」です。この2つについて見ていきましょう。

(1)全国健康保険協会とは

中小企業等で働く従業員やその家族の皆様が加入されている健康保険は、従来、国で運営していましたが、平成20年10月1日、新たに全国健康保険協会が設立され、この協会が運営することとなりました。ちなみに協会が運営する健康保険の愛称を「協会けんぽ」といいます。

全国で約3,500万人の方が協会けんぽに加入しており、日本で一番加入者が多い保険者と言えますね。

(2)健康保険組合

健康保険組合も協会けんぽと同じく、健康保険を運営している組織です。健康保険組合には2種類あり、1つが「総合組合」と呼ばれる組合です。

総合組合は特定業種の企業のみが加入できる保険を運用しています。

例えば「関東ITソフトウェア健康保険組合」であれば、原則IT系の事業を運営している会社しか加入することはできませんし、「関東百貨店健康保険組合」であれば原則、百貨店などの小売事業者しか加入することはできません。このように特定業種の企業が加入できる組合が総合組合ですね。

健康保険組合のもう1つの種類が「単一組合」と呼ばれる組合です。単一組合は健保組合を企業が単独で設立する形式のことです。比較的大きな会社でなければ、企業単独のこの単一組合を作ることはないので、関わりがない方もいらっしゃるかもしれませんね。

以上の2つの種類を合わせて、全国に約1,500ほどの組合があり、約3,000万人ほどの方が加入されています。

 

給与計算における健康保険料の意味

給与計算の手続きにおいてやるべきことをざっくりいうと、先ほど説明した「協会けんぽ」や「健康保険組合」に役員・従業員一人一人が納めるべき健康保険料の金額を計算して、給与から差し引いて会社として預かることです。

つまりみなさんが普段ご覧になっている給与明細に記載されている「健康保険料」とは、会社が一旦預かってくれた金額のことです。

 

健康保険料の計算方法

健康保険の仕組みや考え方を説明してきましたので、ようやく給与計算時の健康保険料の額を算定する部分を説明していきたいと思います。

健康保険料の計算式は以下の通りです。

健康保険料控除額=標準報酬月額×保険料率÷2

ここで見慣れない単語として「標準報酬月額」というものがあると思います。社会保険料(健康保険・厚生年金保険)の計算を行う際には、この項目を理解することが大切なので、しっかり理解していきましょう。

 

標準報酬月額とは?

「健康保険」の場合、月額報酬によって、第1級の5万8千円から第50級の139万円まで、全50等級に区分されます。この50等級の区切りごとに標準報酬月額という金額が決められているのです。ちなみにこの等級は毎年3月末に検討され、9月1日から改定される可能性もあるので、毎年チェックしておきましょう。

等級区分表は下記です。表の一番右側の項目に「報酬月額」があり、そこに「◯◯円以上、◯◯未満」と書いてあると思います。従業員の月給与額がどの等級の報酬月額に該当するかを見ていけば、標準報酬月額を確認できます。

参考:平成28年度保険料額表 | 健康保険ガイド | 全国健康保険協会

 

報酬月額はどうやって計算するの?

標準報酬月額は、報酬月額さえ確定できれば等級表に当てはめるだけで確認できるのですが、報酬月額はどんな金額を含めるべきなのかを知っておく必要があります。

この報酬月額は、基本給、通勤手当、各種手当(残業手当、家族手当、住宅手当など)、年4回以上の賞与などを含めますし、さらには現物で支給される食事や住宅に関する支給分も含まれます。つまり「毎月支払っていると考えられるお金」を報酬月額としているのです。

年4回以上の賞与が報酬月額には含まないのは、「4ヶ月に1回支給するくらいなら、臨時の支払いであって月額の報酬とは言えないよね。でも3ヶ月に1回なら定期的に払っていると考えて月額報酬に入れましょう」というルールになっているからです。

 

報酬月額に含める通勤定期の考え方

また「毎月支払っていると考えられるお金」である以上、通勤定期も報酬月額に含めるのですが、少し迷うのが「6ヶ月定期」や「3ヶ月定期」など一気にお金を払った場合に報酬月額をどうすべきかということです。例えば、1月給与で1月1日〜6月末までの6ヶ月定期代金60,000円を支給した場合、当然2月、3月、4月、5月、6月給与では通勤手当は0円になりますよね。

もはや「毎月支払っている」ようには見えません。しかし、毎月の通勤費を1ヶ月定期で購入するよりも割引になると言う経済的理由によって6ヶ月定期を購入しているだけであって、実態は毎月通勤手当を支給する場合と同様であると考えることができます。そのため、一気に支給した60,000円の通勤手当は6で割って10,000円づつ、その後に続く6ヶ月間に割り振って各月の報酬月額を考えることになっています。

この通勤手当の報酬月額の関係性に関する考え方はまた次回以降の記事で詳細を説明していきたと思いますので、今は「6ヶ月定期のときなどは注意しよう」と思っていただくだけで良いかなと思います!

 

標準報酬月額を決める4つのタイミング

標準報酬月額は、いつ決めるのかということも決まっていて、以下の4つの方法によって決定します。毎月変更するわけではないので、「手間がかかるなー」という心配はそれほどではないのでご安心ください。

タイミング説明
資格取得時の決定入社時や、はじめて会社が社会保険の適用を受けるとき
定時決定毎年1回、7月1日現在の被保険者を対象として、標準報酬月額の見直しをします
随時改定従業員の給与に変動があった場合などで改定されます。詳細はこちらの記事でご確認ください
育児休業等を終了した際の改定育児休業等を終了したタイミング

詳細は下記の記事で解説していますので、ご確認ください。
標準報酬月額の意味と決定方法

 

健康保険料の料率は?

標準報酬月額の考え方は説明してきた通りです。次に知るべきことは健康保険料の料率ですね。給与計算で行う健康保険料の計算式は先ほど説明した通りで、改めて示すと下記です。

健康保険料控除額=標準報酬月額×保険料率÷2

保険料率は「協会けんぽ」なのか、「保険組合」なのか、そして「保険組合」だとしても「どの保険組合」なのかによって異なりますので、会社が加入している保険組合の公式サイトを確認してみてくださいね。ちなみに「協会けんぽ」の場合には都道府県ごとにも保険料率が異なりますので、そこも注意が必要です。

※下記記事で協会けんぽの各都道府県別の問い合わせ先と、料率表へのリンクをまとめていますのでぜひご覧ください。

[健康保険] 「協会けんぽ(全国健康保険協会)」とは

最後に2で割り算をしているのは、健康保険料の半額を会社が負担してくれるため、給与計算で従業員から控除する額は半分で良いからです。実際に会社が健康保険料を預かって、保険組合などに納付するときには、もう半分の会社負担額と合わせて納付してくれているはずなので、問題ありません。

 

今回の給与計算で控除するのは何月分の保険料?

新人の労務担当者が苦労することの一つは、「今回の給与で控除したのは何月の保険料なんだ?」という概念です。ちなみに今回は健康保険料の控除についてですが、雇用保険や住民税、所得税などもそれぞれ何月の給与・労働に対して控除したものなのかということを知っておかなければなりませんので、次回以降の記事で解説していきます。

まず健康保険の原則としては以下のことを意識しましょう。

①健康保険料は日割りがなく、月末に被保険者資格を有している方の健康保険料を徴収する
②毎月の健康保険料は、翌月末までに会社が納付している
③資格喪失日を含む月の健康保険料は発生しない
④上記①③に関わらず同月内に資格取得と喪失がある場合はその月の健康保険料が発生する

1つづつ説明していきます。

①健康保険料は日割りがなく、月末に被保険者資格を有している方の健康保険料を徴収する

つまり、健康保険に1月1日に加入しても、1月15日に加入しても、1月31日に加入しても、納めるべき1月分の健康保険料は同じ金額だよ、ということです。日割りで保険料がやすくなることはありませんのでご注意ください。

②毎月の健康保険料は、翌月末までに会社が納付している

1月1日に健康保険に加入した従業員の場合には、1月分の健康保険料が当然に発生しますよね。その1月分の保険料はいつまでに納付しないとけないかというと、納付期限は2月末日までなのです。よって会社は2月末までに支払う給与の中で、該当の従業員から保険料を徴収して、会社負担分と合わせて納付を行う必要があるのです。

③資格喪失日を含む月の健康保険料は発生しない

まず退職した従業員は、原則として会社が加入している保険組合の被保険者から外れます。じゃあいつ外れるのかというと、退職日の翌日と決められています。退職日が月末以外の場合は、資格喪失日が必ず退職月になりますので、その月の健康保険料は発生しません。しかし退職日が月末の場合には、翌月1日に健康保険の資格を失うことになるので、資格喪失日の属する月が退職月の翌月となります。そのため退職月分の健康保険料が発生します。

④上記①③に関わらず同月内に資格取得と喪失がある場合はその月の健康保険料が発生する

例えば1月1日入社(資格取得)、1月25日退職(資格喪失)などのように同月内に被保険者資格の取得と喪失が2回以上ある場合は、月末に被保険者資格を有していなくても健康保険料が発生します。
その場合、従業員の方は例えば健保組合と国民健康保険や、協会けんぽと健康保険組合など1か月につき2か月分の健康保険料を負担することになります。

では事例で見ていきましょう。

モデルケース:株式会社Gozalの場合

「株式会社Gozal」が末締翌月10日払いで給与計算を行っているとします。そして、従業員「ござるくん」が1月10日に入社して同日付けで健康保険の資格を取得したとします。そして3月25日に退職しているとしましょう。

この場合には、

「①健康保険料は日割りがなく、月末に被保険者資格を有している方の健康保険料を徴収するの法則により、1月10日という月途中の入社であっても、ござるくんに対する1月分の保険料は日割計算することなく丸ごと発生しているとわかります。

「②毎月の健康保険料は、翌月末までに会社が納付している」の法則により、1月分の保険料は2月末に納める必要があるので、2月10日に支給する給与の中から健康保険料の金額分を控除しましょう。そして2月末までに控除した保険料に、会社負担分を加算して、ちゃんと納付します。

③資格喪失日を含む月の健康保険料は発生しない」の法則により、3月25日に退職したござるくんは、3月26日に健康保険の資格を失うことになるので、3月分の保険料は発生しません。4月10日支払分の給与では3月分の健康保険料は徴収しません。

最初は少し理解しづらいかもしれませんが、きちんと4つの法則を理解しておけば基本的な給与計算には対応できると思います。

 

40歳から追加徴収される介護保険料とは?

健康保険法には下記のような条文があります。

第百五十六条(被保険者の保険料額)

介護保険第二号被保険者(40歳以上の人)である被保険者は一般保険料額と介護保険料額との合算額を納付しましょう

つまり従業員の方が40歳になったその月から、健康保険料に加えて介護保険料も徴収して納める必要があるということです。介護保険料の料率も健康保険料と同じく保険組合によって変わりますし、会社が半額を負担します。

介護保険料の計算方法などは下記記事もご確認ください。

介護保険料の支払い時期や保険料率について
40歳からの介護保険入門 [2017年版]

健康保険料の仕組みと計算方法について長々と記載してきましたが、今回の内容をしっかり理解していただければ、次に説明する厚生年金保険を理解するのも楽になります。健康保険は給与計算を行う上で、とても重要な控除項目なので、頑張って理解していきましょう。引き続きよろしくお願い致します!