初めての給与計算入門|#5新人労務担当者が知っておくべき雇用保険料の仕組みと考え方

執筆: 『人事労務の基礎知識』編集部 |

今回は従業員の方が失業したときに、次の仕事が見つかるまでの生活を支える制度、雇用保険について説明していきたいと思います。雇用保険は労災保険と合わせて、労働保険と呼ばれている制度です。雇用保険の仕組みと給与計算時の取り扱いを理解していくことで、労務担当者としての力をさらに強化していくことができると思います。

雇用保険とは

労働者が失業した場合に、労働者は生活をするために新たな仕事を探さなければなりません。しかし、仕事が見つかるまでは給与をもらえないので、生活が苦しいはずです。それだと十分な就職活動を行うことすらできず、失業者はさらに厳しい状況におかれてしまいますよね。そうならないために雇用保険は、失業者に対して、お金を支給する仕組みを持っています。

また雇用保険として集めたお金は、そもそも失業しないような環境作りや、雇用機会を増やしていくための取り組みにも投資されていますし、求職者の能力を向上させるための職業訓練を支援したりしています。

つまり雇用保険とは、

集めた保険料を使って失業者に給付を行ったり、雇用安定化や能力開発のために投資を行う仕組み」といえますね。

雇用保険料の仕組み

給与計算では、従業員の毎月の給与額から一定の雇用保険料(従業員負担分)を徴収していきます。そして毎月納付する訳ではなく、預かった金額を原則年1回または数回に分けて納付します。雇用保険料の納付は概算の保険料を自分で申告した上で納付し、1年後に確定した保険料を申告して調整する仕組みになっていますので、その具体的なルールを見ていきましょう。

概算保険料のルール

雇用保険料を納付するときは原則として労災保険料と一緒に行います。そして雇用保険と労災保険を合わせた「労働保険」として申告方式で納付を行います。つまり「従業員はこれくらいいて、賃金はこれくらいです」と事業主が労働局という機関に対して報告した上で、納付する形です。

この申告を行うタイミングが2回ありまして、その1回目が「概算保険料の申告」です。労働保険料は未来の部分を前払いする形になっているので、「概算」で一旦払うのです。概算保険料を計算して申告納付する時期は、ほとんどの会社では毎年6月1日から7月10日までの間です。労務チームはこの時期は、忙しくなっていると思いますが、忘れずに対応する必要がありますね。

概算保険料の計算方法

概算保険料の計算式は原則として下記のようになります。

【計算式】

概算保険料=賃金総額×一般保険料率

この賃金総額というのは、申告年度4月1日から翌年度3月末までの期間部分に対して支払った賃金の総額のことです。つまり4月1日から来年3月末までに雇用している従業員に対して支払うであろう給与から保険料率をかけた金額を概算保険料として納付することになります。「これからの約1年間に従業員が何人になるか、支払う給与がいくらになるかなんてわからないよ!」と思われる方も多いでしょう。その点は心配はいりません。

概算保険料の計算をするときには、原則として前年度の確定した賃金総額をそのまま用いて計算することになっているからです。ただし、未来の賃金総額が2倍になるか、2分の1になると見込まれる場合には、その見込み額で概算保険料を申告・納付します。

一般保険料率はいくつになるのか

この一般保険料率というのは労災保険率と雇用保険率を合算したパーセンテージのことです。今回は雇用保険の説明を中心としたいので、労災保険率の話は軽くしかしませんが、労災保険料率は1000分の2.5から1000分の88までの範囲で、業種ごとに54種類が定められています。なかなか種類が多いですね。

一方で、雇用保険料率は事業の種類によってたった3つしかパターンがありません。「雇用保険法等の一部を改正する法律案」が平成29年3月31日に国会で成立したため、平成29年4月1日から平成30年3月31日までの雇用保険料率は、以下の表となっています。

平成29年度(2017年4月1日から2018年3月31日まで)の雇用保険料率

事業の種類/負担者①労働者負担 (失業等給付の保険料率のみ)②事業主負担①+② 雇用保険料率
失業等給付の保険料率雇用保険二事業の保険料率
一般の事業3/1,0003/1,0003/1,0009/1,000
農林水産・清酒製造の事業4/1,0004/1,0003/1,00011/1,000
建設の事業4/1,0004/1,0004/1,00012/1,000

確定保険料のルール

先ほどの概算保険料が、1年間の先払いだと説明しましたが、確定保険料は概算保険料を納付した約1年後に確定した実績に基づいて、保険料を計算し直して、概算保険料として収めた金額との差額を使いで納付したり、還付を受けたり、その次の期に充当したりします。

計算方法は概算保険料と同じです。異なるのは、見込みではなく実績値で計算を行うという点ですね。そして申告期限は7月10日です。

給与計算時の雇用保険料の取り扱い

ここまでの説明で労災保険を含めた労働保険の仕組みやルールはイメージできたと思います。ここで、年1回の納付のために毎月の給与で預かる雇用保険料の取り扱いについて見ていきたいと思います。

まず控除すべき雇用保険料の計算式は一般的な事業の場合は下記のようになります。

(農林水産・清酒製造・建設事業でなく、平成29年4月1日から平成30年3月31日までの期間の場合)

【計算式】

雇用保険料控除額=賃金総額×1000分の3

この1000分の3という数値は決まっているものなので特に問題ないと思います。ポイントは賃金総額はどのような金額なのかということを理解することです。

賃金総額に含める支給項目は何か

この賃金総額とは賃金、給料、手当、賞与その他の名称を問わず、労働の対価として事業主が労働者に支払うものとされています。

例として下記のように整理できます。

賃金総額に算入するもの賃金総額に算入しないもの
  • 基本給・固定給等基本賃金
  • 超過勤務手当・深夜手当・休日手当等
  • 扶養手当・子供手当・家族手当等
  • 宿、日直手当
  • 役職手当・管理職手当等
  • 地域手当
  • 住宅手当
  • 教育手当
  • 単身赴任手当
  • 技能手当
  • 特殊作業手当
  • 奨励手当
  • 物価手当
  • 調整手当
  • 賞与
  • 通勤手当
  • 定期券・回数券等
  • 休業手当
  • 雇用保険料その他社会保険料(労働者の負担分を事業主が負担する場合)
  • 住居の利益(社宅等の貸与を受けない者に対し均衡上住宅手当を支給する場合)
  • いわゆる前払い退職金(労働者が在職中に、退職金相当額の全部又は一部を給与や賞与に上乗せするなど前払いされるもの)
  • 休業補償費
  • 結婚祝金
  • 死亡弔慰金
  • 災害見舞金
  • 増資記念品代
  • 私傷病見舞金
  • 解雇予告手当(労働基準法第20条の規定に基づくもの)
  • 年功慰労金
  • 出張旅費・宿泊費等(実費弁償的なもの)
  • 制服
  • 会社が全額負担する生命保険の掛金
  • 財産形成貯蓄のため事業主が負担する奨励金等(労働者が行う財産形成貯蓄を奨励援助するため事業主が労働者に対して支払う一定の率又は額の奨励金等)
  • 創立記念日等の祝金(恩恵的なものでなく、かつ、全労働者又は相当多数に支給される場合を除く)
  • チップ(奉仕料の配分として事業主から受けるものを除く)
  • 住居の利益(一部の社員に社宅等の貸与を行っているが、他の者に均衡給与が支給されない場合)
  • 退職金(退職を事由として支払われるものであって、退職時に支払われるもの又は事業主の都合等により退職前に一時金として支払われるもの)

上記の表のうち左側の項目を合計して、雇用保険料率をかけることで控除額が算定できるというわけです。

雇用保険が支給してくれる給付とは

雇用保険は様々な給付をしてくれます。具体的な給付の種類についてはハローワーク公式サイトの説明ページをご確認ください。

大きく分類すると下記の4種類に整理できます。

・求職者給付
・就職促進給付
・教育訓練給付
・雇用継続給付

種類が非常にたくさんあるので、もらえる機会を失ってしまわないように、何か使えるものがないか従業員の方にアドバイスできるくらい理解したいものです。

雇用保険のまとめ

今回は雇用保険の仕組みと、給与計算における雇用保険の取り扱いを整理して見ました。実際には給与計算よりも申告・納付の部分が迷ったり悩むことも多いとおもますし、従業員の方が退職する際の雇用保険の資格喪失手続きなどもいろいろな書類の整備を要求されるので普段から情報の整理を行っていくことが必要です。