そろそろ労務ちゃんとやる!労務管理を本格的にスタートするために把握すべき3つの答え

執筆: 『人事労務の基礎知識』編集部 |

多くの会社では、労務管理を適切に行いたいと思っているはずです。わざわざ違法な労務管理をやりたいはずはありません。また、「ちゃんとできているのだろうか」と漠然とした不安を抱くケースも多いでしょう。

労務をコントロールして、自信をもって運用するために、何から始めるべきか。今回は労務管理を始める前にやるべきことを整理します。

 

労務管理を始める前に準備すべき3つのこと

労務とは生き物のように動き、変わっていくものです。組織によって、そして時代によって、そのあり方は変化していくのです。それゆえに、労務管理をスタートする前に、その「生物」の詳細を「把握」するという作業が必要です。その把握工程を大きく分けると3つに大別できます。

1.今と未来を把握する
2.働き方を疑う
3.最悪のシナリオを想定する

上記の3つをそれぞれ見ていきたいと思います。

 

1.今と未来を把握せよ

まず、現状を正確かつ網羅的に見つめましょう。曖昧にせず、どういう管理をしているのか、どういう計算をしているのか、どういう届出をしているのかを整理します。さらに将来どのような組織を目指しているのかも描きましょう。できるだけ、細かい部分も想定しておくことで、今から対策を進めることができます。

今と未来を把握するステップを4つに分けて順番に見ていきましょう。

 

ステップ1 現状把握

まずは現状のいいところも悪いところも含めて、真実(ファクト)を集めていきます。契約書を従業員と締結しているかどうか、契約期間の記載は適切か、社会保険に加入しているか、雇用保険はどうか、過去の退職者から退職届を預かっているかなど把握すべき項目はたくさんあります。以下のリンク先にあるチェックリストをベースに確認していきましょう

※チェックリストはこちら

 

ステップ2 現状改善案

チェックリストで確認した事項について、改善施策をまとめていきます。現状でできていない部分に対して何をすれば対処できるかをまとめます。労務管理を行う以前に、初期の手続きができていないところをステップ1で整理し、このステップ2で直していくことになります。問題点を潰すことで、労務管理を始める準備が整うと考えてください。

 

ステップ3 未来把握

次は、今後の組織はどのような形に変化していくのかを描いていきます。どういう職種・役職のメンバーがどれくらい増えていくのか。給与体系はどのように変化するのか。休暇や福利厚生はどの程度まで厚くしていくのか。しっかりと細部までこだわって描いていきましょう。

 

ステップ4 未来対策案

想定した未来の組織に対して、どのような準備や対策、今と異なる規定が必要になるのかを整理していきます。目指すべき未来像に対して、何を進めていけばその像を実現させられるのか。整理することで、何をすればいいのか視覚化することから進めていきましょう。

 

2.働き方を疑え

現在の状況を確認して、適切に対応できているとしても、そもそも「これが適切だ」と思っていたこと自体が誤っている可能性もあります。前提を疑って、会社としてどのような働き方が適しているのかを再検討してみましょう。検討すべき事項はたくさんありますが、典型的にはまず下記の項目をぜひチェックしてみてください。

 

1,働く場所は最適か?

現状のオフィス環境は、結果を出すために十分な場所でしょうか。一人当たりのスペースが不足しすぎていたり、女性社員のことを配慮できていなかったりすることもあるでしょう。他にも秘密保持や個人情報保護、セキュリティの必要性を満たすために十分な設備と言えるでしょうか。営業先・クライアントと直接会ってコミュニケーションを取る必要があるビジネスの場合、地理的に有利な場所でしょうか。さらに在宅勤務やカフェなどで仕事をすることを許すかどうかも重要な論点でしょう。もちろんこれらは全て、資金繰りとのバランスを取る必要があります。

 

2,就業時間はそれでいいか?

就業時間に縛られることなく創造的な業務をするべき人もいるかもしれません。その場合は、裁量労働制と呼ばれる制度を活用することも選択肢として検討すべきでしょう。他にも自由な時間に勤務を行えるようにフレックスタイム制度を導入することもできます。就業時間を極端に短くすることも一つの考え方としてはありでしょう。朝早い方が有効なビジネス・チームであれば、始業時間を早めて早く帰れるようにすることもありです。

 

3,営業と開発は同規定でいいか?

職種や役割によって、就業時間や給与・手当などの規定は異なるべきかもしれません。同じ規定を使うことは有効な場合もあるでしょう。また営業の中でも、チームを分割して、別の規定を使っている場合もあると思います。より有効な規定分割を目指して、検討を進めることは重要なことです。

 

4,給与額は適切か?

給与額が適切かどうかは難しい問題です。一般論的には、給与の昇級の理由を明確にして、共有しておくことが必要と言われていますが、会社によって考え方やルールは異なります。しっかりと健康的な生活を送れて、いろいろな経験をしたり、投資をして成長してもらう意味でも十分な給与を支給したいところです。これも会社の資金繰りやキャッシュフローとのバランスを取る必要があるので、慎重に検討をしておきましょう。

 

5,支給マシン、ツールは最適か?

例えば、エンジニアにはパワーのあるマシン(PC)を支給することが重要かもしれません。営業であれば、ポケットWi-Fiや個人用電話、営業資料が入ったiPadなどを支給する必要があるかもしれません。机や椅子、中には炊飯器、冷蔵庫などオフィス内の設備も充実させていくことが必要かもしれません。

 

6,福利厚生に色をつけるか?

従業員の満足度や健康管理、充実した生活をサポートすることも重要なことですが、どのように、何をやるのかを考える必要があります。会社の資金繰りなどとバランスを取りながら行う必要があります。

 

7,休日は今のままでいいか?

休日・休暇は法律で要請される部分を除けば、会社が自由に設定することができます。健康面や従業員の満足度、会社の繁忙期などを考慮しながら設定をしていく必要があります。

 

8,残業に関する文化は適切か?

残業に対する考え方は、組織に文化として根付いていきます。残業をすることが当たり前のような雰囲気が生まれている会社もあれば、残業はかっこ悪いという考え方の会社もあります。どのような考え方の組織にしたいのかをしっかりと考えて、その考え方を根付かせていく必要があります。

 

3.シナリオを想定せよ

少なくとも労務管理のミッションの一つには、最悪の自体を未然に防ぐことがあげられると思います。従業員との泥沼の労使間対立や、行政機関からの指導、労災の発生など様々な問題に関するリスクを回避できるようにしたいところです。そのためには、まずは何が最悪なのか、そのシナリオをできる限り把握しておく必要があります。

シナリオを整理するときに使える典型的な項目は下記の通りです。

 

関係性

まずどんなシナリオも誰かとの関係性との中で発生します。例えば従業員、労働組合、労働基準監督署、税務署など、最悪のシナリオを生み出される関係に当たる相手を明確にしておきましょう。

 

事象の整理

そのシナリオによって何が起きるのかを整理します。最悪のケースとして、どういうことが起こるのか。そしてどのような影響が及ぼされるのか。明確に想定しておきます。

 

インパクト

どれくらいのマイナスインパクトがあるのかを点数や文章などでまとめます。例えば長時間残業などによって、従業員が死亡してしまった場合には、企業イメージだけでなく訴訟などに発展する可能性もあります。インパクトを整理して、最悪の中でも特に優先して回避すべきことなどを可視化していきます。

 

現状確率

今の労務管理体制、就業環境が継続した場合に、シナリオが発生する確率を仮定します。どれくらい起こりやすいシナリオなのか、その確率によって緊急にでも対応すべきことなのかどうかを可視化していきます。

 

対応策

実際にそのシナリオが実現してしまわないために、どのような対策を講じていくべきなのか、対応策も整理します。一つのシナリオに対して、対応策は一つではなく、いくつもの対応策を混ぜあわせておくこともあります。

 

追加調査事項

そのシナリオについて情報が足りていない可能性もあります。例えば、「ブラック企業としてメディアなどで報道されてしまう」というシナリオについて、実際どれくらいのマイナスインパクトがあるのか、どういう記者が、どういう情報網からネタを仕入れているのかなどは専門家や、関係者に聞いていかなければわかりません。よって収集すべき情報項目についても整理して、対応を進めていきます。

 

 

労務管理を始める前にやるべき準備まとめ

これまでに見てきた内容をしっかりとこなしていくことで、労務管理を実際に行っていく準備ができると思います。いきなり勤怠管理ツールを購入することや、コンサルタントをつけたり、社労士さんと顧問契約をつける前に整理して見てください。そうすることで、おのずとやるべきことが見えてきますし、効果的に外部のツールや専門家を活用しやすくなるはずです。

また今まで述べてきたことは1回やれば終わりではありません。最初に記載した通り、労務とは生き物のように動き、変わっていくものです。組織によって、そして時代によって、そのあり方は変化していくのです。それゆえに、定期的にその実態を把握していくべきでしょう。ぜひ従業員のためにも積極的に対応をしていきたいところです。