仮想通貨による給与支払を行うための注意点

執筆: 『人事労務の基礎知識』編集部 |

毎回、労務に関する最新のニュース、気になる法改正などを取り上げて、社会保険労務士の寺島さんに話をお聞きするコーナーです。今回は仮想通貨による給与支払いについて労務的な視点で分析してもらいました。

 

寺島戦略社会保険労務士事務所 
代表 / 社会保険労務士 寺島 有紀

一橋大学商学部を卒業、新卒で楽天株式会社に入社後、社内規程策定、国内・海外子会社等へのローカライズ・適用などの内部統制業務や社内コンプライアンス教育等に従事。在職中に社会保険労務士国家試験に合格後、社会保険労務士事務所に勤務し、ベンチャー・中小企業から一部上場企業まで国内労働法改正対応や海外進出企業の労務アドバイザリー等に従事。
■ 寺島戦略社会保険労務士事務所 公式サイト

 

株式会社BEC
代表取締役 高谷 元悠

2013年に有限責任あずさ監査法人に入社。IPO支援、内部統制構築支援、M&A、上場企業の監査を担当。2014年に株式会社BECを創業し、代表取締役に就任。クラウド人事労務管理サービス「Gozal」を開発。

 

仮想通貨給与と通貨払いの原則の関係性

高谷
仮想通貨で給与を支払うという企業が話題となっていますね。本人が申し込むことによって給与支給額の一部を仮想通貨で受け取ることが可能という制度だそうです。

<制度設計>
本人の希望(申し込み)により、給与の手取り支給額の一部をビットコインで受け取り可能にする
◆申込金額は、下限1万円/上限10万円まで1万円刻みで購入が可能
◆申込金額分を給与から天引きする方法で、同金額相当をビットコインの購入に充てる
◆購入したビットコインは、給与支給日に「GMOコイン」(グループ会社が運営する、仮想通貨の売買・FXサービス)で開設した各パートナーの口座へ振り込む
◆会社は、申込金額の10%を「奨励金」としてパートナーに手当を支給
※ビットコイン支給額の換算レートについては検討中
「GMO社リリースより

寺島
労働基準法24条では「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を、毎月1回以上、一定に期日を定めて支払わなければならない」という賃金原則が定められています。賃金というのは、労働者の生計の源ですのでその確保のために厳しい制限が課されています。

1.通貨払いの原則
2.直接払いの原則
3.全額払いの原則
4.毎月1回以上払いの原則
5.一定期日払いの原則

通貨払いの原則とは、通貨以外のものによる賃金の支払い、つまり、現物給与は禁止されています。小切手も、換金の不便さと不渡りの危険から認められていません。

 

現物で給与支払いを行うために必要となるものとは

高谷
なるほど。つまり現物で給与を支払うことはできないのでしょうか?

寺島
例外があって、労働組合との労働協約の締結を必須条件として現物給与を支給することができます。労働者の過半数を代表する者との書面による協定(労使協定)では認められません。従って労働組合がない会社では現物で賃金を支払うことができません。

また、現物給与で支払うことができるのは、労働協約を締結した組合の所属組合員に限定されます。所属組合員以外の労働者に対しては現物給与による支払いはできません。

 

仮想通貨給与と全額払いの原則の関係

高谷
つまり労働組合を作って、労働協約を締結すれば通貨払いの原則については問題ないということですね。他の原則について何か問題になりそうなものはありますか。

寺島
全額払いの原則についても、給与の一部を仮想通貨で支払う場合にはひっかかってきますが、これは労働者の過半数代表との労使協定があれば給与の一部を控除することは可能です。財形貯蓄制度や社員持ち株会、自社製品購入費などを給与から控除するという企業もあるのではないでしょうか。

ただし、仮想通貨で給与を支給するということを強制することはできないので、希望者のみということになります。

 

仮想通貨による給与支払における月変の考え方

寺島
また、今回渋谷年金事務所に問い合わせをしたのですが、例えば、給与を仮想通貨で払っている場合で、社会保険料の変更、月変などの算定はどのようにやるのですか?と聞いたところ、仮想通貨のレートの変動は、固定給の変動とみなさないそうです。

そして、給与支払日の通貨レートで日本円に確定させるとのことです。この結果2等級以上差がでれば、社会保険料が変更になるということです。

高谷
給与を仮想通貨で払う場合で、仮想通貨が暴落した場合、給与は減るけれども社会保険料の負担は変わらないままとなるってことですよね。

寺島
逆に、仮想通貨が急騰した場合でも仮想通貨の単元が変わらない限り月変の対象とならないのであれば、社会保険料は安いままですむということになります。

税金面でも社員本人が利益が出た場合の確定申告などのルールを周知したりしないと脱税となるようなことになって、会社の業務に支障をきたすようになると本末転倒となる恐れもあります。